子ども部屋をつくる最適なタイミングとは


勉強部屋兼寝室として、戦後に本格的に広まった子ども部屋。昨今はリビング学習が推奨されるなど、その機能の見直しも進んでいます。いつ与えて、どう使えばいいのか。親の悩みは尽きませんが、小学校入学前後が一つの目安になりそうです。調査の結果から見えてきたことを紹介します。

明治時代に誕生し、戦後に広まった子ども部屋

低い天井、天窓から見える星、板敷きの床に小さなベッド――。幼い頃に親しんだ西洋の物語の世界には、そんな屋根裏の秘密基地のような子ども部屋が登場します。欧米で子ども部屋が誕生したのは、18世紀頃といわれています。その前は公私の区別があいまいで、「家」といっても家族以外のさまざまな人が出入りしていたようです。次第に家族とそれ以外の人を分ける意識が高まり、その家族観の変化に伴って家の中も個室化が進んでいきました。そのなかで大人と子どもの空間を分ける子ども部屋が誕生し、子どもを良好な環境で育てたいと考える中上流層を中心に広まっていきました。

日本で子ども部屋が広まり始めたのは、明治時代の中盤以降です。背景には、やはり家族観の変化があります。都市部を中心に出てきた、子どもを「働き手」ではなく、庇護するものとして大事にする風潮が、子ども部屋の誕生につながりました。

本格的に普及したのは戦後のことです。核家族化の進展や学歴を重視する風潮の広まりとともに、勉強部屋としての子ども部屋が一般化しました。初期の公団住宅(1950年代に誕生)の標準的な間取りは2DK。ダイニングキッチン、親の寝室、寝室と勉強部屋を兼ねた子ども部屋を想定しています。以後、このような使い方を想定した2LDK、3LDKがマンションや戸建て住宅に広まっていきました。

勉強部屋であり、寝室であり、自立した大人になるための空間でもある子ども部屋。住宅事情の改善とともに、ただ与えるだけではなく、どう与えればより効果的なのか、という視点も出てきました。子どものプライバシーは大事である一方で、こもりきりになってもいけません。実際、1980年代には子どもの非行や家庭内暴力が問題となり、子ども部屋の悪影響も盛んに指摘されました。また、近年はSNSなどを通じてたやすく外部とつながってしまいます。スマホ依存も気になります。親としては適度に見守りたいことでしょう。

一方で、学力を伸ばすにはリビング学習が効果的ともいわれています。コロナ禍以降は在宅勤務も定着し、親の執務スペースも必要になってきました。このような世相の変化を受けて、近年はリビングの一角などにライブラリースペースを設け、家族みんなの勉強や仕事の場とするプランも出てきています。同様に収納も、共用の収納スペースを設け、あえて子ども部屋はスペースと機能を絞るケースも見られます。昭和の頃のように、ただ部屋数を確保するのではなく、家全体で機能の最適配置を考え、改めて機能的で効果的な子ども部屋の在り方が模索されるようになっています。

与えるのは入学前後。でも勉強と遊びはリビングで

子ども部屋をめぐる諸説があるなかで、親としてはいつ、どのような形で子ども部屋を与えたらいいかと悩むところです。よそのお宅ではどうしているのでしょうか。参考に、積水ハウスが実施した「小学生の子どもとの暮らしに関する調査」のなかから、子ども部屋事情について聞いた結果を紹介します。新入学の時期に向けて、小学生の長子をもつ全国の20~60代の既婚男女を対象に行った調査です。

調査によると、子ども部屋の保有率は学年が上がるごとに上昇し、1-2年生は41.4%、5-6年生は65.8%でした。また、すでに子ども部屋を与えている人に聞いた「与えた時期」は、小学校1年生が27.8%と最も多くなっています。時期を少し細かく区切ると、年長の12月から小学校入学後の7月までが32.1%で、やはり入学の時期に合わせて子ども部屋を与えるケースが多いことがわかります(図表1)。子ども部屋を与えた理由は、与えた時期によって異なります。年中・年長は「子どもに独立心をつけるため」、1年生は「(将来)一人で勉強できるように」、高学年になると「子どもが欲しがった」という理由が多くなっています。

【図表1】子ども部屋を与えた時期(n=302)

子ども部屋を与えた時期(n=302)
※積水ハウス 住生活研究所『小学生の子どもと暮らしに関する調査(2023年)』の結果をもとに作成
年中、年長は幼稚園や保育園の年中、年長に相当する年次を指す

では、子ども部屋はどのように使われているでしょうか。子ども部屋を与えている人に、「寝る」「勉強する」「遊ぶ」ときはどの部屋で過ごしているかを聞いたところ(図表2)、子ども部屋はあっても、勉強と遊びはリビング・ダイニングが多いようです。寝る場所は、学年が上がるにつれて子ども部屋が増え、5年生・6年生になると52.8%と半分を超えます。しかし、勉強と遊びは、学年が上がってもリビング・ダイニングというお子さんが大半でした。やはり、特に小学生のうちは子ども部屋の機能は最小限にし、居場所かつ親子のコミュニケーションの場として、リビング・ダイニングの機能を充実させるとよさそうです。

【図表2】次のことをするとき、主にどの部屋で過ごすか

次のことをするとき、主にどの部屋で過ごすか
※積水ハウス 住生活研究所『小学生の子どもと暮らしに関する調査(2023年)』の結果をもとに作成

また、調査では、入学とともに親の生活も変わることがうかがえました。宿題や勉強を見る時間、学校からのプリント確認の時間が増え、学用品や習い事の道具など「もの」が増えて、収納が足りなくなるといった問題も起きてきます。子ども部屋の在り方や与え方に正解はありませんが、調査からは子どもの成長とともに生活が変わり、必要な機能も変化することがわかりました。目安として入学とともに個室を確保する一方で、リビング・ダイニングなどの共用空間に勉強、執務、収納などの機能を充実させ、フレキシブルに使えるようにしておくといいかもしれません。

[参考文献]
積水ハウス『小学生の子どもと暮らしに関する調査』
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/research/20230303/
堀田美沙紀『子ども部屋は語られなくなったのか:
子ども部屋の歴史と現代の比較から見る現代の子ども部屋観』
https://soc.meijigakuin.ac.jp/image/2019/04/2018-mh.pdf
神野由紀『子どもをめぐるデザインと近代:拡大する商品世界』(世界思想社)
小山静子『子どもたちの近代:学校教育と家庭教育』(吉川弘文館)