住まいの家電も「所有」から「利用」の時代に


写真提供/パナソニック(株)

消費者行動が「所有から利用へ」と変わり、さまざまなサブスクリプションサービスが広がっています。
そんな中、パナソニック(株)は賃貸物件のオーナーや不動産管理会社向けに同社製の家電を月額で貸し出すサービスを2022年1月から開始しています。
ローンチから1年半が経ち、反響や手応えはどうなのでしょうか。
今後の新たな取り組みなども含め、お聞きしました。

「持たない」ことが豊か
家電もサブスクで

家や自動車など高額品を所有したいという気持ちが希薄になりつつある昨今、必要な時に必要なものをレンタルかシェアすればいいという考え方が社会に浸透しつつあります。一方、国内の不動産市場では人口減少などによってストック住宅(既存流通住宅)が増加傾向にあり、建物の老朽化や空き家・空室の増加が問題となっています。

こうした社会の動きを受けてパナソニックは、2022年1月から賃貸住宅事業者向けに家電のサブスクリプションサービス「noiful(ノイフル)」を開始しています。賃貸物件オーナー、不動産管理会社に同社の先進家電を月額制で提供するというものです。サービスとしては先進家電をサブスクで提供する賃貸「noiful ROOM」と、リノベーションで空間を最適化した賃貸「noiful LIFE」を展開中です。

「noiful ROOM」は物件オーナー、不動産管理会社の要望や物件の立地、間取りに応じて最適な先進家電をいくつかパッケージにして月額で提供するというものです。「例えば、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、ロボット掃除機、炊飯器の5点セットを不動産管理会社が入居者様へ月1万2000円でご提供されています。また、家電の故障時には、無償で修理・交換をさせていただいています」と語るのはnoiful事業を担うパナソニック(株)くらしアプライアンス社ハウジングアプライアンス事業推進室の谷山明子氏。

一方、「noiful LIFE」は先端家電のサブスクに加えてオーナーが所有する物件に対してパナソニックがリノベーションから物件管理まで手がけるといったサービスです。「家電は収まりよく、生活動線もスムーズになるように空間を設計し、パナソニックグループ内の住宅設備会社と連携して、家電だけでなく暮らしやすさを徹底的に追求した空間をご提供しています」(谷山氏)。

noiful(ノイフル)は入居者、オーナー・管理会社、パナソニックの「三方よし」のサービスを目指している
noiful(ノイフル)は入居者、オーナー・管理会社、パナソニックの「三方よし」のサービスを目指している

入居したその日から家電が揃った生活が実現できる

このサービスは入居者、物件オーナー・不動産管理会社、そしてパナソニックそれぞれにメリットがあります。

例えば、新生活を始める入居者は家電購入や搬入の手間を省くことができ、かつ、引越し費用を軽減できます。

また、物件オーナー・不動産管理会社は近隣の類似物件との差別化によって家賃単価や入居率の向上を図ることができます。実際、「noiful LIFE」でリノベーションした「noiful base駒込」(東京都北区)は同等条件の物件相場比130%の家賃設定にしていましたが、募集開始後、多くの問い合わせがあり、すぐ満室になったそうです。「弊社にとっては家電をより多くの方に実際に使っていただく機会の創出となり、賃貸市場という新しい商流を開拓できたことが大きなメリットです」と谷山氏。ビジネスとして見事に三方よしの形を実現しています。

「noifulLIFE」の第一号物件となった、「noifulbase駒込」(東京都北区)。築25年だが募集開始後、すぐ満室に。
「noiful LIFE」の第一号物件となった、「noiful base駒込」(東京都北区)。築25年だが募集開始後、すぐ満室に。
冷蔵庫、オーブンレンジや食洗器、IHなどが一体にセットされた「noiful LIFE」のキッチン事例。
冷蔵庫、オーブンレンジや食洗器、IHなどが一体にセットされた「noiful LIFE」のキッチン事例。
「noiful LIFE」の物件は家電プラス、暮らしやすさを徹底的に追求し、生活動線もスムーズになるように設計
「noiful LIFE」の物件は家電プラス、暮らしやすさを徹底的に追求し、生活動線もスムーズになるように設計
ドラム式洗濯乾燥機は高額なので、買いたかったけど自分では手が出せなかったという人たちにも好評。
ドラム式洗濯乾燥機は高額なので、買いたかったけど自分では手が出せなかったという人たちにも好評。
ロボット掃除機も収まりよく空間を設計。リノベーションから手がけるサービスならではの心配り。
ロボット掃除機も収まりよく空間を設計。リノベーションから手がけるサービスならではの心配り。

海外の方とミニマリスト
意外な需要があった

サービス開始から1年半が経ち、都内各所にはnoifulを付帯した物件が着実に増え始めています。「一人暮らしからファミリー向けまで幅広いタイプを展開中です。いろいろ反響は大きかったのですが、特に海外から日本へ来られた方々からの問い合わせが多かったのは予想外でした。海外では家具や家電付き賃貸は当たり前なので親和性が高かったようです。考えたら来日早々、自分たちで家電や家具を探すというのもハードルが高いですよね。それもあってnoifulに注目が集まったようです」。

また、20~40代のサブスクに抵抗のない世代には刺さるはずと期待していたそうですが、意外にも50代以上からの問い合わせも多いといいます。

「心機一転、家をダウンサイズして新たな生活を始めたいという方々が、家電も持たずに借りるという選択肢にしたいと考えてご連絡くださいました。世代を超えて人生を楽しみたいという方々にもご利用いただけるサービスなのだと確信しました」。

家電付き賃貸をスタンダードに
新たなサービス展開も

谷山氏たちは2030年までに「家電付き賃貸」の戸数を20万戸まで拡大するといった目標を掲げています。

「上質な暮らしを提供する仕組みの一つとして認知度を上げるためにも、家電付き賃貸を増やすことが重要です」。そのためにもこれまでは新築物件が中心でしたが、今後は既築物件への導入も検討されているそうです。

「ただ、そうなるとすでに家電をお持ちの方も多いと思うので、数+種類の当社の家電の中からお好きなものを2点以上お選びいただけるなど、新たなパッケージサービスも検討しているところです」。また、物件紹介や内見、契約などこれまで対面での対応が不可欠だった諸手続きのDX化を進め、リモート内見やオンライン契約などをスマートフォン上で完結するソリューションの提供など、利便性を向上させていく取り組みもすでに進めているといいます。単純に「所有」から「利用」へということだけでなく、「一人ひとりのライフステージやそれぞれの生き方に合わせてどういうサービスを提供していくのが良いのか」。その答えを出していくことが今後の大きな課題だと谷山氏たちは考えています。

「noifulとしての思想の一つに『循環させる』を掲げています。家電の廃棄は環境への負荷が大きいだけに、家電のリユースにも積極的に取り組み、新たに循環させる仕組みづくりも私たちメーカーの責務です」(谷山氏)。

妥協して生活の質を落とすのではなく、必要な時に必要なものを取り入れて上質な暮らしを提案していきたいという谷山氏。新しい住まいの在り方を模索する物件オーナーや不動産管理会社と協力し合うことで、空き家問題なども解決していきたいと、今後のビジョンも教えてくれました。「先進家電のサブスク付き賃貸」の増加は確かに業界全体の活性化にも一役買いそうです。