テレワークのメリットとデメリット
– 不動産会社における活用状況 –


新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、テレワークの導入に取り組む企業が増えてきています。各社とも試行錯誤しながら導入していますが、今後定着していく可能性もありそうです。テレワークのメリット、デメリットなどについて、実際に導入している株式会社ワンマンバンド代表取締役坂田憲一氏にお話を伺いました。

テレワーク実施率は16%

テレワークとは、「ICT(情報通信技術)などを活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をすること」と定義されています(国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査」より)。このうち企業に雇用されている従業員による「雇用型テレワーク」は、自宅利用型(在宅勤務)、モバイルワーク(顧客先や移動中などでパソコンや携帯電話を使う働き方)、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)と、大きく3つに分類されています(図表1)。

図表1 テレワークの種類

図表1 テレワークの種類
出典:一般社団法人日本テレワーク協会ウェブサイトより抜粋・編集

テレワークのメリットは、通勤時間の軽減や勤務時間の自由度といった労働環境の改善や、業務効率化が進むことなどが挙げられます。一方、デメリットは業務時間が増えることや職場の人とのコミュニケーションの取りづらさ、セキュリティ面への不安などが指摘されています。

前述の実態調査によると、雇用型テレワーカーの割合は16.6%(図表2)。業種別でみると、導入割合が最も高いのは情報通信業で39.8%です。不動産業は16.5%と全体とほぼ同じ割合ですが、普及はこれからという状況といえます。

図表2 雇用型就業者・自営型就業者におけるテレワーカーの割合【平成28~30年度の推移】

図表2 雇用型就業者・自営型就業者におけるテレワーカーの割合【平成28~30年度の推移】
出典:国土交通省「平成30年度テレワーク人口実態調査」(2018年度調査)より抜粋・編集

差別化で優秀な人材集まる

株式会社ワンマンバンド(東京都荒川区、2011年6月設立)は、居住用・収益用中古戸建の売買を手掛ける不動産会社で、2013年6月の創業時からテレワークを導入しています。

坂田氏は、もともと外資系の情報通信会社に勤務しており、テレワークが日常的だったとのこと。起業する際に考えていたビジネスモデルにテレワークがマッチしていたことに加え、「創業したての小さな会社に優秀な人材を呼び込むためには、テレワークで差別化しようと考えました」と振り返ります。子育てによって退職した優秀な女性が多いということも念頭に、不動産の知識・経験ゼロでもテレワークを前提としたスキルを持つ人材を募集したところ、想定どおり子育て中の女性からの応募が多く集まったといいます。現在9人いる社員全員がテレワーク勤務で、このうち半数は子育て中の女性。2016年には総務省の「テレワーク先駆者百選」にも選ばれています。

追加支出は「そう多くはない」

テレワークのために同社が導入しているシステムは、勤怠管理や情報共有にはチームコミュニケーションツール「Slack」、ビデオ会議などには「Zoom」など。書類はすべて電子化しクラウド上の共有サーバに保管しているので、各自のPCやスマートフォンからアクセス可能に。またクラウドPBX(インターネット環境を使って内線・外線通話や転送を行う機能)により固定電話回線を引く必要もありませんでした。「パソコンや携帯電話などは、普通の会社でも必要な設備ですので、追加支出はコミュニケーションツールの利用料とプリンターぐらい」(坂田氏)。また自宅のインターネット環境が必須になりますが、今は大抵の家庭にネット回線があるので、ほぼ問題ないとのことです。

勤務体制は完全フレックスタイムで、週1回の全体ビデオ会議以外は勤務時間であっても、子どもの送り迎えなどの用事があるときには、いつでも離席OK(社長承認前提)にしています。また取り扱う物件も北海道から九州と広範囲にわたるため、営業担当者は出張が多くなりますが、テレワークのおかげで出張先でも報告・データアップすることにより、直行・直帰で移動時間を短縮することができています。

“人財”獲得に寄与

最初からテレワークだったため、社員から業務に関するトラブルや不満などが出ることはないとはいえ、「研修時に、先輩から(業務内容や手法などを)吸収することが難しかった」との声はあったそう。坂田氏も「教育の場面では、対面でのコミュニケーションが必要だと感じました」と言います。一方で、そういった部分を補うため、社員同士でサポートし合う土壌が自然に生まれているということです。

またテレワークでは、家族の異動といった都合で退職する必要もありません。フレキシブルな勤務体制・勤務地を実現したことで、創業から今まで1人も離職者が出ておらず、“人財”の獲得に結びついています。今後も国内外に拠点を拡大する計画ですが、いずれもテレワークを条件に現地採用する予定にしています。

「テレワークは個人の自己管理能力が必要になりますが、一方で1カ所に皆が集まってコミュニケーションをとることは、大きなメリットがあります」と坂田氏。それらを踏まえた上で、「一度に導入しようとせず、できそうな業務やできそうな人からやってみるなど、できることから少しずつ広げていくとスムーズに導入できると思います」と助言します。厚生労働省のテレワーク導入の助成金制度を活用することも1つの手かもしれません。

株式会社ワンマンバンド代表取締役の坂田憲一氏
株式会社ワンマンバンド代表取締役の坂田憲一氏