身近に潜む「土壌汚染問題」の現状と対策

身近に潜む「土壌汚染問題」のイメージ

「土壌汚染問題」というと、大きな工場跡地や大規模開発に伴う問題で、街の不動産会社にはかかわりのないことと考えている人も多いと思います。しかし、実は意外に身近な問題なのです。空き家問題とも相関性がある土壌汚染の現状や、その対策方法についてレポートします。

土壌汚染対策法の成立と現在

土壌汚染に係る法律「土壌汚染対策法」が成立・施行されたのは、2002年。「土壌汚染」と聞くと、すぐに「健康被害が生じるのでは」と考える人もいるかもしれませんが、あっという間に拡散してしまう大気と違い、土そのものが直接的に人体に悪影響を与える可能性は高くありません。ただし、汚染された土壌中の有害物質が地下水にしみ込み、それを人が使用してしまう危険、生態系への影響などから、土壌汚染への対策をするべきという流れになりました。1968年に制定された大気汚染防止法と比べて、ずいぶん後のことです。

この法律は、大きく“調査”と“適正な管理”について定められたもので、その流れは図の「土壌汚染対策法のフロー」のようになります。どのような土地に対して調査・管理すべきかを簡単にいうと、①自治体に登録されている特定施設を廃止する(第3条)、②一定規模以上の土地の形質変更を行う(第4条)、③土壌汚染による健康被害のおそれがあり、調査命令が出された(第5条)、④自主的な調査(第14条)の4項目に該当する場合です。

図:土壌汚染対策法のフロー

土壌汚染対策法のフロー
出典:東京都環境局HP「土壌汚染対策法の概要」より

これだけを見ると、宅建業者にはあまり関係がないことに思えますが、特定施設の中には街のクリーニング店や町工場などが含まれる可能性があることと、第14条の自主的な調査は特にかかわりのある事柄です。

特定施設に指定されていない・既定の広さに達していない等、法の届出義務がない土地についても、過去を含め特定有害物質を使用していた土地では土壌が汚染されている可能性があります。その場合、それを知らずに土地を売却し、のちに土壌汚染が確認されれば、契約不適合責任を問われるおそれがあります。こうしたケースでは、買主から売買契約の解除を言い渡されたり、あるいは汚染の除去費用等について損害賠償請求がなされることが往々にしてあります。

このような事態を避けるために、最近では売却前に自主的に土壌汚染の調査をする案件が増えています。環境庁の発表によると、令和3年度に法に基づく土壌汚染状況調査結果が報告された件数は1,415件、うち第14条による件数は211件でした。つまり、土壌汚染の存在する土地に大小は関係なく、工場等の跡地であれば特定施設でないとしても自主的に土壌調査をすることが賢明だといえるのです。

ドライクリーニングに使用されるテトラクロロエチレンなどの溶剤は特定有害物質にあたる。その他、製造業、塗装業、印刷業、メッキ業、皮革製造業で特定有害物質を使用している場合は特定施設として届ける必要がある。また、ガソリンスタンドは特定施設ではないものの、条例によって調査が必要な場合もある。

調査や土壌汚染の対策とは?

では、実際の対策ではどのようなことをするのでしょうか。調査結果から出た汚染濃度や範囲、その後の土地用途などによって対策方法は異なります。土壌汚染の対策というと、土をすべて掘削して別の場所に捨て、きれいな土で埋め戻す「掘削除去」が一般的だと思うかもしれませんが、実は方法は他にもいろいろあります。単に表面を舗装や盛土すればいいケースもあれば、地下水の流れを遮るための遮水壁で封じ込める方法、汚染された土壌をその場で浄化する「原位置浄化」など、それぞれの状況や予算、期間によって最適な方法を選択すればいいのです。

対策における最大の問題はコスト。掘削除去は、イメージとしてはポピュラーなものでありながら、最もコストがかかる方法です。工期は短いのですが、大量の土砂をトラックで行き来させるため環境負荷が大きいこともマイナスポイントとなります。

その点、原位置浄化であればコストはその半分から3分の1以下で、建物が残ったままで浄化可能なケースも。特に微生物の働きを利用して有害物質を浄化するバイオレメディエーション(以下、バイオ)は、環境にもやさしい方法です。ただし、微生物が有害物質を分解するまでに時間がかかるので、工期はある程度取っておく必要があります。コストを削減したいなら、切羽詰まってから対策するより、余裕をもって自主的に調査しておくことが望ましいのがわかります。

土壌汚染対策をワンストップで行い、特にバイオ等による原位置浄化で実績を持つエコサイクル(株)の常務取締役 落合昌喜氏にお話をうかがいました。

「当社では、大規模工場から小さな町工場まで、さまざまな土壌汚染の案件を扱っています。特にクリーニング、メッキ工場、自動車の部品工場など家族経営をしているような町工場は、事業承継の問題を抱えていて、問題はより複雑です。工場閉鎖時に法律に抵触すれば調査義務が生じ、その後、汚染が確認されれば対策を講じなければなりません。法律に抵触しなくても、不動産売却時、買手側からの意向で自主調査が必要となります。しかし、調査・対策費用がなく、「空き工場問題」に発展する可能性がある」と落合氏は語ります。

「閉鎖することも動かすこともできずに塩漬けになってしまっている工場やガソリンスタンドを見るにつけ、胸が痛みます。われわれの技術で土壌汚染問題を解決して土地を再生し、魅力的な街づくりの一翼を担えればと考えています」と落合氏。エコサイクルでは、あらかじめ取り決めた予算内で対策を達成する「コストキャップ保証」を損保会社と連携して提供しているほか、場合によっては浄化前の土地の買取りを、不動産開発会社と協働して対応することもできるそうです。意外に身近な問題である土壌汚染対策について、私たちもよく知っておく必要があります。

エコサイクル(株)が施工した土壌汚染対策(原位置浄化)の一例
エコサイクル(株)が施工した土壌汚染対策(原位置浄化)の一例

取材協力

エコサイクル株式会社

自社で開発したバイオ浄化剤「EDC」のメーカー兼事業者。「土地を短期間で完全に浄化したい」「限られた予算内で完了してほしい」「工場を稼働しながら、製造ラインに影響を出さずに浄化を進めたい」「汚染を除去せず管理する形で対策コストを抑えたい」といったさまざまな要望に応えつつ原位置浄化を行う。平成29年度環境賞/環境大臣賞を受賞。
https://www.ecocycle.co.jp/


執筆
殿木 真美子

住宅ジャーナリスト。戸建て、マンション、不動産、マンション管理、リノベーションなど住宅関連を幅広く取材。自身も1棟ものの賃貸併用住宅のオーナーとなり、不動産経営をしている。