たった2日で完成!
話題の3Dプリンター住宅の全貌に迫る


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近い将来、住宅産業が根幹から変わる――。今、「新しい住宅のあり方」として3Dプリンター住宅が注目を集めています。建築費が高騰し、職人不足が深刻化する中、10㎡の住宅を330万円で24時間以内、50㎡の住宅を550万円、44時間30分で完成してしまうというのです。本特集ではそんな画期的な住宅を開発したセレンディクス株式会社に、3Dプリンター住宅の全貌と今後の展開について話を聞きました。

日本の住宅事情を変える3Dプリンター住宅

世界では今、3Dプリンター住宅の開発競争が繰り広げられていますが、多くはこれまでの住宅建築の延長線上の開発に留まっています。施工期間は半年、コストも3割程度しか削減できず、単に住宅の壁をロボットが造っているだけで、人手も必要になります。

ところが、3Dプリンターによる一体成型で屋根まで造る技術を開発し、約1日、330万円という従来の住宅では考えられない工期と価格で販売する企業があります。それが兵庫県西宮市を拠点とするセレンディクス株式会社。「世界最先端の家を創る」ことを目的に2018年に設立された、日本で唯一の3Dプリンター専業住宅メーカーです。

セレンディクスは2022年3月2日、「家を24時間で創る」と宣言し、10㎡の3Dプリンター住宅を何と23時間12分で完成。23年5月にはこの10㎡タイプを商用として初めて長野県佐久市に造りました。時間はわずか22時間52分という快挙を遂げ、話題になりました。

長野県佐久市に造られた「serendix10」
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長野県佐久市に造られた「serendix10」。商用第一号。
接骨院の施術向けスペースとして使用されている。

「この10㎡タイプは『serendix10』という商品で直径3.3m、高さ約4mの球型でドアと3つの窓がついています。週末の住居をイメージしています。『serendix10』を発表後、8800件以上の問い合わせがあり、うち2440件が強い購入意向を示してくれました。意外に多かったのはシニア世代からの問い合わせでした」と話してくれたのは同社執行役員COO飯田匡大氏。そこから浮かび上がってきたのは、日本では60歳を超えると家を借りづらくなるという現実でした。そのため飯田氏たちは50㎡で夫婦2人向けの平屋を開発。それが『serendix50』です。限定6戸を販売したところ、即完売だったそうです。

「価格は550万円です。これまでの家づくりは大工など職人の手作業に頼ってきたため、人件費によって住宅価格は高額になっていました。しかし、その工程をすべて機械化することで劇的にコストダウン、工期も大幅に短くすることができたわけです」(飯田氏)。

現行では建築基準法準拠のため、鉄筋・鉄骨も使用していますが、メインの資材はコンクリート。それによってコスト削減だけでなく、断熱、耐震性も実現。断熱は壁面を2重構造にすることでヨーロッパの厳しい基準を、耐震性は日本基準をそれぞれクリアし、世界最高水準を誇っています。「なお、将来的には無筋で、コンクリートのみでの施工を目指しています」(飯田氏)。

日本初の二人世帯向け3Dプリンター住宅「serendix50」。
©セレンディクス/慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター
日本初の二人世帯向け3Dプリンター住宅「serendix50」。わずか44時間30分で完成。
「serendix50」は住居なので水回りなども完備。耐震性も抜群。RC造と同じく法定耐用年数は47年。
©セレンディクス/慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター
「serendix50」は住居なので水回りなども完備。耐震性も抜群。RC造と同じく法定耐用年数は47年。
「serendix50」の設計図面。「ドアから中に入った瞬間、これまでにない近未来を感じる空間にしたい」
©セレンディクス/慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター
「serendix50」の設計図面。「ドアから中に入った瞬間、これまでにない近未来を感じる空間にしたい」

30年の住宅ローンをなくすのが目標

セレンディクスはなぜ「住宅は高い」という既成概念を打ち破る超低価格・工期大幅短縮の住宅を開発できたのでしょうか。

「我々がスタートアップ企業だからです。スタートアップは社会課題の解決を事業目的としています。住宅業界が抱えている課題とは、国民の怒りや不安なのです」と飯田氏は言います。

「そもそも30年の住宅ローンを支払い続けることに怒りと不安を感じる人は多いのではないでしょうか。日本人の住宅ローンの平均完済年齢は73歳。ローンが終わったと思ったらリフォームの時期がやってくる。住宅ローンが組める人はまだ良くて、日本人の約4割が一生住宅を持てないのが現状です」。

そこで同社が提案するのは、車を買う価格で家を購入できることです。

「私たちは人生をローンに縛られることなく、もっと自由に生きられるはずです。例えば、30年前と今を比較すると3%だった消費税は10%になっています。定期預金の金利は今や0を切っています。社会保険の月額は倍になり、物価は上昇。でも平均年収は下がる一方ですよね。退職金も約半分になっています。かたや平均寿命は伸びています。つまり同じ30年ローンでも、今までとこれからでは意味合いも、生活にかかる重みも違ってきているのです。だからこそ今、日本の住宅の仕組みの抜本的改革を行い、すべての人たちから重い住宅ローンを無くしたい。それこそが我々のミッションなのです」(飯田氏)。その思いこそが『serendix』シリーズを生み出したというわけです。

最終目標は100㎡で300万円

また、セレンディクスが世界最先端の家づくりを実現できているのは、共創して研究開発に携わるコンソーシアム261社のお陰だと飯田氏は語ります。

「今春で9台、今年末までに12台まで3Dプリンターを増やす予定ですが、弊社はあくまでデジタルデータを提供するのみ。もちろんそれだけで3Dプリンター住宅は造れません。研究開発体制として素材、出力、デジタルデータ、耐震、輸送、施工など7つの基幹技術が必要です。そのためにさまざまな企業と協業が前提になります」。

現在は70㎡のファミリー世帯向けの『serendix70』の開発を進めています。最終的には住宅産業の完全ロボット化、100㎡で300万円の住宅が目標です。

ただし、いくら住宅コストを下げても土地代が高くては本末転倒。飯田氏たちが狙いを定めるのは政令指定都市へのアクセス90分圏のエリアです。

「今までほとんどの不動産業者が触れずにいたエリアですが、政令指定都市90分圏あたりを宅地として提供していただく、そういうビジネスモデルを構築していきたいと思っています。実際、『serendix50』を買いたいというニーズはあるものの、肝心の土地がないという人も多いのが現状なのです」。

昨年12月、ヤマイチ・ユニハイムエステートと日本初の3Dプリンター住宅タウンの実現を目的とした資本業務提携をしました。こうした事例が増えていけば、『serendix』シリーズももっと普及するはずです。住宅ローンからの解放と自由な人生を実現する3Dプリンター住宅。これからの住宅産業を席巻しそうな勢いです。

セレンディクスでは現在、3Dプリンターを全国に9台保有。
©セレンディクス/セレンディクスでは現在、3Dプリンターを全国に9台保有。今年度中には12台に増やす予定。同社は自社で施工は行わず、あくまでデジタルデータを提供するビジネス。