2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは

「時間外労働の上限規制」イメージ

働き方改革関連法の1つである時間外労働の上限規制が、この4月から建設業で適用されました。これにより生じる「2024年問題」は、人手不足が常態化している建設業だけでなく、住宅・不動産業界にも大きな影響を及ぼす可能性があります。ここでは、適切な対策を講じるために、制度の内容をくわしく解説します。

働き方改革の目的と2024年問題

「働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要です。働く人が置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすることを目指します。

長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。これを是正することによって、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつきます。このため、今般の働き方改革の一環として、労働基準法が改正されて規定されたのが時間外労働の上限規制です。

この規制は平成31年4月1日(中小企業は令和2年4月1日)から施行されていますが、建設業においては、専門職の高齢化や人材不足で長時間労働が常態化しているといった労働環境問題があり、当該規制の適用が5年間猶予されていました。しかし、本年4月1日についに施行されたことにより、いわゆる「2024年問題」に直面することになったのです。この問題は住宅や不動産業界にも影響を及ぼすため、労働環境の改善や人材確保といった課題解決のための対策が急がれています。以下で改正の内容や違反した場合の罰則などについて見ていきましょう。

労働時間・休日に関する原則

労働基準法(労基法)では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされており、これを「法定労働時間」といいます。また、休日は原則として、毎週少なくとも1回与えることとされており、これを「法定休日」といいます。

法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合、また法定休日に労働させる場合には、労基法36条に基づく「労使協定(36協定)の締結」および「36協定(サブロク協定)の所轄労働基準監督署長への届出」が必要となります。

時間外・休日労働の上限

時間外労働の上限時間は、原則として「月45時間」「年360時間」となりますが、臨時的な特別の事情に対し、労使で合意した場合(特別条項を締結した場合)には、この原則となる上限時間数を超えて勤務させることができます。ただし、その場合でも以下を遵守しなければなりません(図表1)。

図表1 上限規制のイメージ

上限規制のイメージ

時間外労働は年720時間以内
時間外労働が月45時間を超えることができる回数は年6回以内
時間外労働と休日労働の合計月100時間未満
時間外労働と休日労働の合計2~6カ月平均で80時間以内

上記①②は時間外労働のみ対象となりますが、③④は休日労働が含まれますので、ご注意ください。なお、土曜日や祝日など法定外休日に行った週40時間超の時間外労働は、36協定上、休日労働ではなく時間外労働に含まれます。

特別条項の有無にかかわらず、時間外労働と休日労働の合計は、1年を通して常に月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内としなければなりません。よって、時間外労働が月45時間以内に収まっている場合でも、たとえば時間外労働が月40時間、休日労働が月60時間というように、合計が月100時間以上となる場合は違反となります。

なお、災害時における復旧および復興の事業に限り、令和6年4月1日以降も③④の規制は適用されません。また、災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合には、使用者は行政官庁の許可を受けて、労働時間を延長し、休日に労働させることができます(労基法33条)。

違反した場合の罰則

時間外・休日労働を行わせるためには、36協定の締結および届出が必要です。よって、36協定の締結・届出をせずに時間外・休日労働をさせた場合、36協定で定めた限度時間を超えて時間外・休日労働をさせた場合には、労基法32条違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。実際に法違反になったからといって直ちに懲役刑や罰金刑が科されるわけではなく、当初は行政指導となります。ただし、違反状態が一向に改善されない場合や悪質であると判断された場合には直ちに刑が科されます。

新様式での36協定の締結

2024年4月以降は、これまでとは異なる様式での36協定の締結・届出が必要となります。

月45時間以内で時間外労働が納まる場合、月45時間を超える時間外労働が見込まれることから特別条項を締結する場合、災害時の復旧・復興対応が見込まれる場合など、内容により36協定届の様式が異なります。

適正な工期設定と契約締結

長時間・過重労働とならないためには、公共工事・民間工事を問わず、契約当事者(発注者および受注者)がそれぞれの責務を果たすことが重要です。時間外労働の上限規制適用に向けた環境整備に対し、発注者側にも理解と協力が求められます。長時間労働を前提とした著しく短い工期を設定することがないよう、完全週休2日制を前提とした工期の設定や請負契約の締結が必要不可欠ではないでしょうか。

以上のように、建設業に時間外労働の上限規制が適用されたことにより、人件費などが上昇し、建築関連の費用が高騰することが考えられます。また、残業時間が減少する分、納期にも影響がでるかもしれません。さらに、これらに起因して新築・中古物件の価格が上昇していくことは想像に難くありません。人材確保と生産性の向上という喫緊の課題について、業界全体で対策していく必要があると思われます。



野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所代表社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。