日系企業が注視する新都市とは!?
ベトナム不動産市場動向


ビンズン省の新都市商業施設/Hikari
ビンズン省の新都市商業施設/Hikari・東急グループにより環境に配慮した街づくりが進められている(デベロッパー・ベカメックス東急/設計・丹羽隆志アーキテクツ)

本誌2019年12月号から2020年2月号の「海外不動産事情 ベトナム編」で、『ホーチミン市が世界で一番ホットな不動産投資の都市』として注目されており、『ベトナムの不動産価格は今後5~7年は上昇する可能性が高い』と紹介しました。実際、ホーチミン市のミドルハイエンドのコンドミニアム価格(ベトナム人住宅所有権)は5年間で平均約46%上昇しました。しかし2023年は平均約2%下落しています(図表1)。新型コロナ流行の前後で、ベトナムの不動産情勢はどのような変遷をたどり、現在何が起きているのでしょうか。
当地で賃貸・売買・管理業を行う「エヌアセット べトナム」の西村氏に、ベトナムのリアルな売買・賃貸市場と注目の新都市について解説していただきます。

図表1:
ホーチミン市のマンション価格推移
(ミドルハイエンド/ベトナム人住宅所有権) 万円/㎡)

ホーチミン市のマンション価格推移
出典:CBRE Vietnam Market Outlook 2024より抜粋・編集
1 ミドルハイエンド: 約30~60万円/㎡
2 ホーチミン市では、一般的に、外国人とベトナム人の住宅所有権に
  価格差がある
ベトナム ビンズン省

️️️冬の時代からの脱却 雪解けは2025年か

ベトナムでは、2021~2022年頃から大手不動産デベロッパーの不正が相次ぎ、不動産プロジェクトの許認可や資金調達の難易度が上がったことから、不動産市況が停滞しました(図表2)。デベロッパーにとっては非常に厳しい冬の時代が続いていましたが、2024年度は、止まっていたプロジェクトの承認が順に下りることが期待され、新規コンドミニアム供給数は回復する見通しとなっています。実際に第1四半期の中でも北部、中部、南部と、ベトナム全土で満遍なくローンチしたプロジェクト情報が市場に出てきています。ただ、今後デベロッパーにとっては厳しい内容の法改正なども予定されており、市況が回復するのは2025年度になるのではないかという見方もあります。

図表2 ホーチミン市・新築コンドミニアムの新規供給グラフ

ホーチミン市・新築コンドミニアムの新規供給グラフ
出典:Savills Vietnam Q4/2023 – Market Briefより抜粋・編集
新規プロジェクトがローンチできないことから、デベロッパーの厳しい状況が続いている

️️️日系デベロッパーが参画する南部「ビンズン省」

デベロッパーが最も頭を悩ませているのはプロジェクトの許認可関連です。この承認難易度は都市によって異なるため、許認可が降りやすい都市で戦略的に開発を行うことがトレンドになっています。

南部のトレンドは、今年は何といってもビンズン省です。東急グループが街づくりを推進するビンズン新都市をはじめ、2024年3月下旬に住友林業、熊谷組、NTT都市開発による約41haの敷地での低層分譲住宅約1,200戸、高層分譲住宅約5,500戸の大規模タウンシップの開発を発表しています。ほかにも、日系デベロッパーが参画するプロジェクトのローンチが今後も予定され、日系だけでなく、シンガポール系キャピタランドのプロジェクトの発表もあります。このように、本年度の供給は都市によって偏りが顕著にでてくる見通しです。

公有地を分割する土地制度、およびその区画。

また、ビンズン省はホーチミン市と比較すると販売単価が抑えられているため、ベトナム人中間層への居住用としても期待されています。ロケーションによっては賃貸も見込めるため、投資用不動産としての需要もあり、ベトナム人・外国人に向けて実需・投資用として販売が行われる予定です。

ホーチミン市/価格高騰が進むThu Thiemエリアの高級コンドミニアム
ホーチミン市/価格高騰が進むThu Thiemエリアの高級コンドミニアム

ベトナムで陥りがちな不動産トラブル

また、新規供給が限定的であったことから、この数年は中古不動産市場の取引件数が増加しました。ベトナムでは、改正住宅法(2015年7月施行)により外国人も不動産が購入できるようになったこともあり、外国人の中古不動産取引件数が増加しています。特に日本人は、円安の影響を受け、一旦売却し、投資回収を行った人も多かったのではないかと思います。ただし、ベトナムは法制度が整っているとはいえず、取引を進めようとしてトラブルに見舞われる事例も少なくありません。

たとえば、ベトナムの婚姻家族法第33条「夫婦の共同財産」の中には、「夫婦が個別相続または個別贈与を受けた財産または夫婦が個別財産を介して獲得した財産を除いて、夫婦の結婚後に獲得した土地使用権は夫婦の共同財産である」と規定されています。つまり、単独名義で不動産を購入していても、保有期間中に婚姻関係があれば、売却の際には配偶者の承諾が必要となるのです。また、保有期間中に離婚して再婚した場合には、前配偶者と現配偶者の承諾がそれぞれ必要となります。このような規定は日本人にはなじみがないため、本規定によって売却が進められないといった案件の相談なども受けます。

️️️ベトナムの不動産市況 再度活発化の可能性は

ベトナムの不動産市況については、コロナ前のような勢いは頓挫しました。しかしベトナムは変わらずエネルギーにあふれ、ホーチミン市では、ようやく今年メトロ1号線が開通する見通しで、再度不動産市況が活発化するようなポジティブなニュースが控えています。

業界関係者の1人としては、再度盛り上がりがあることを期待し、これからもベトナムの不動産マーケットに従事していく予定です。ぜひ、ベトナムに足を運び、実際の現場を見にいらしてください。


執筆

西村 武将

西村 武将

N-Asset Vietnam代表取締役。(株)ノエル、(株)エヌアセット勤務ののち、2011年9月から現会社設立のためベトナムに渡り現在に至る。不動産売買仲介・賃貸仲介・管理・コンサルティングに従事し、対象エリアはハノイ市・ハイフォン市・ダナン市・ホーチミン市・ビンズン省。


監修

栃岡 研悟

栃岡 研悟

不動産鑑定士、シンガポール国立大学MBA、未来予測専門士。