新型コロナウイルス感染症における⽀援制度(上)
– 事業者に対する助成金・補助金、融資制度等 –


新型コロナウイルスによる影響を受けている不動産事業者、賃借人の皆様を支援する施策が拡充・新設されています。「何が受けられるのか?」「どんな要件を満たす必要があるのか?」「申請窓口はどこか?」など、わからないことが多く、日々相談が寄せられています。

7・8月号の2回にわたり、これらの相談・悩みを解消することを目指して、数ある制度の概要と申請要件を一挙にご紹介します。

*給付金等のメニューは非常に多岐にわたり、さまざまな受付窓口が設けられています。インターネット上で検索すると相談窓口にアクセスできるようになることを想定して本稿中のタイトルを付していますので、気になる給付金等について、さらに詳細の要件を確認される際に検索キーワードとしてください。
*誌面の都合により事業者向けの施策については、中小企業規模の要件のみを記載しています。
*記載内容は、令和2年6月12日現在のものです。制度が拡充されていくものがあることも想定されるため、最新の情報にアクセスしてください。

事業者向け

【資金繰りの改善】

1. 助成金・補助金(返還不要)

≪全国的に行われているもの≫

①雇用調整助成金

●概要

新型コロナウイルスの影響を受けて、事業の縮小を行わざるを得ない事業者が、従業員を休業させたときに支払った休業手当の一定割合相当額が助成されるものです。

●支給額

支給額は、支払った休業手当相当額の80%。ただし、令和2年1月24日以降に解雇者を出していない等の一定の要件を満たす場合は、90%または100%に助成割合が引き上げられます。

支給額は、1従業員につき、1日あたり8,330円が上限ですが、4月1日以降の休業分については15,000円に引き上げられます。

●要件

大きな要件は2つあります。1つ目は、事業が縮小していることです。端的にいうと、売上が対前年同月比で10%以上(4月以降の休業に関しては5%以上)落ち込んでいることが求められます。2つ目は、雇用調整をしていることです。具体的には、従業員を休業させて休業手当を支給している、在籍のまま出向させ賃金を支払い続けている、または通常業務から離れて教育訓練を実施していることが必要です。

●手続き方法

助成金支給申請書を作成し、8月31日までに申請を行います。申請先は都道府県により、所轄ハローワーク、都道府県労働局、労働局助成金センターへ直接持っていくほか、郵送・オンライン申請が可能です。申請にあたっては、休業手当の支給を行っていることが確認できる賃金台帳、休業していることが確認できるタイムカード等、その他、労働条件を確認するために就業規則や労働条件通知書面を添付することが必要です。

②持続化給付金

●概要

新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者に対して、広く支給を行うものです。使途に制限はなく、事業全般に使えます。

●支給額

法人は最大200万円、個人事業主は最大100万円。ただし、次の計算式で求めた額が200万円または100万円よりも少額である場合、その額が支給されることになります。

【計算式】

前年の総売上(事業収入)-(前年同月比▲50%以上の月の売上×12カ月)

【計算例】

例えば、昨年の年間総売上が1.5千万円、昨年4月売上が300万円で、今年4月の売上が120万円だった場合
1.5千万円-(120万円×12)=60万円…この場合、支給額は60万円になります。

支給額が上限を超えている場合は、速やかに手続きをすればいいのですが、【計算例】のように上限未達の場合は、申請月の選択を検討することになります。計算対象月は、2020年のいずれかの月から任意に選択することができますので、もっとも売上が低くなった月を用いて計算しましょう。

●要件

新型コロナウイルス感染症の影響により、月の売上が前年同月比で50%以上減少していること、および2019年以前から売上があることが主な要件です。

●手続き方法

この給付金は、電子申請を基本としています。中小企業庁の持続化給付金サイトから、申請用IDを取得し、申請書面をダウンロードした上で書面作成し、申請用サイトに申請情報・証拠書類をアップロードして申請を行います。電子申請の方法がわからない方、できない方には、全国各地に設置されている申請サポート会場で補助員が電子申請の入力をサポートしてくれます。この場合、事前予約が必要で、かつ、申請補助シートの準備をした上で来場しましょう。

③小学校休業等対応助成金

●概要

新型コロナウイルスの影響により、小学校等が臨時休校した・保育園が登園自粛要請を出した等の場合に、その小学校等に通う子どもの保護者である従業員に対して特別休暇を付与した事業主に、支払った賃金相当額を助成するものです。対象となる休暇期間は、令和2年2月27日から9月30日までです。

●支給額

支給額は、休暇中に支払った賃金額の全額です。期間に応じて、次の上限額が設定されています。
・2月27日~3月31日までの期間…1日あたり8,330円
・4月1日~9月30日までの期間…1日あたり15,000円

●要件

雇用調整助成金のように、売上が減少していることは求められていません。小学校等の臨時休校のために休暇取得している労働者がいることと、その労働者の休暇につき、100%の賃金支払いをしていることが必要です。対象者と、対象となる臨時休校等は図表1のとおりです。図表1に示した対象のほか、新型コロナウイルスに感染した子どもなど、小学校等を休む必要がある子どもを世話するための休暇も対象となります。

●手続き方法

助成金支給申請書を作成し、地域ごとに4拠点設けられている学校等休業助成金・支援金受付センター(厚生労働省の委託事業者)に郵送で申請をします。申請の際は、小学校等から発せられている臨時休校や登園自粛要請があった事実を示す資料を添付することが求められます。

図表1 小学校休業等対応助成金の対象

④家賃支援給付金

●概要

新型コロナウイルスの影響により、売上の急減に直面する事業者の下支えをするために、地代・家賃の負担を軽減することを目的として、テナント事業者に対して支給されるものです。

●支給額

支給額は、申請時の支払家賃(月額)に基づき算出される給付額の6カ月分です。

支給限度額は、法人が上限600万円、個人事業者が上限300万円で、給付額は図表2・3のように計算されます。

●要件

令和2年5月から12月において、次のいずれかに該当する大企業以外の事業者が対象です。

ア.いずれか1カ月の売上高が前年同月比で50%以上減少している
イ.連続する3カ月の売上高が前年同月比で30%以上減少している

図表2 家賃支援給付金額(法人の場合:1カ月あたり)

支払家賃(月額)75万円までの部分が2/3給付、75万円を超える分が1/3給付になるため、支払家賃(月額)225万円で上限の給付(月額)100万円になる。

図表3 家賃支援給付金額(個人事業者の場合:1カ月あたり)

支払家賃(月額)37.5万円までの部分が2/3給付、37.5万円を超える部分が1/3給付になるため、支払家賃(月額)112.5万円で上限の給付(月額)50万円になる。

≪地方自治体により行われているもの≫

各地方自治体がさまざまな施策を実施しています。その一部を紹介します。読者の皆様の事業所の所在地の自治体でも、似たようなメニューがあるかもしれませんので、これらをヒントに検索してみてください。

①(東京都)感染拡大防止協力金

●概要

いわゆる「営業自粛要請」に応じて、営業時間の短縮等の協力を実施した施設を運営している中小事業主・個人事業主に支給されるものです。

●支給額

50万円(2施設以上ある場合は、100万円)

●要件

東京都からの営業自粛要請を受けている施設を運営していることが主たる要件で、従たる要件は、当該施設を営業短縮等している事実があることです。

貸会議室、学習塾、広範囲な小売店事業、遊戯・遊興施設など、対象となる施設は幅広く、また、法人であるか個人であるかを問わないため、テナント入居者に申請漏れがないか、確認しておきたいところです。余談ですが、筆者は社会保険労務士法人としての業務が本業ですが、セミナールームも保有し細々と運営しております。このセミナールームの利用も自粛要請を受けて停止したため、協力金の申請を実施しました。

②(東京都)新型コロナウイルス感染症対策雇用環境整備促進奨励金

●概要

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた雇用調整助成金や小学校休業等対応助成金等を利用した中小企業等に支給されます。「上乗せ」されるイメージですが、一定の取組みを実施することが求められます。

●支給額

1事業所につき、1回限り、10万円

●要件

雇用調整助成金または小学校休業等対応助成金等の支給決定を受けていて、東京労働局管内に雇用保険適用事業所があることが前提となります。

そのうえで、1カ月の取組期間を設定し、マスク等の備蓄計画を作成する、緊急連絡網の作成を行う等の取組みを実施することが必要です。

③(品川区)雇用環境安定化事業助成金

●概要

雇用調整助成金等の申請代行にかかる社会保険労務士への事務手数料相当額を助成するものです。

●支給額

助成率は100%ですが、1社一助成金につき10万円が上限です。

●要件

区内にある中小企業であって、助成金の申請を社会保険労務士に代行依頼していることが要件です。

これと同様の自治体の助成事業は、各地で設けられており、その名称はさまざまなようですから、自治体の産業関連の担当部署に問い合わせてみることをお勧めします。

④(港区)店舗等賃料減額助成金交付制度

●概要

売上が減少している店舗や事務所棟のテナントに対して賃料を減額した場合に、減額した賃料の一部がテナントオーナーに対して助成されるものです。

●支給額

減額した賃料の2分の1(1物件・1カ月あたり15万円が上限)で、最大3カ月分。

例えば、5つの貸テナントを有しているオーナーが受けられる助成金は最大で、225万円ということになります。

2. 融資

①民間金融機関による信用保証融資

信用保証協会が通常の保証限度額とは別枠で、借入債務の保証をする制度を設けています(図表4)。中小企業信用保険法第2条第5項第4号・5号に由来するもののため、「保証4号」「保証5号」と呼ばれます。

図表4のいずれかの優遇制度を利用した場合、一定の要件で、制度融資を活用した事業者の保証料は減免され、かつ実質無利子となります。取引先の金融機関(銀行、信用金庫等)に相談して、必要に応じた活用を行いましょう。

図表4 民間金融機関による信用保証融資

②政府系金融機関による融資

日本政策金融公庫・商工中金による融資制度であり、信用力や担保によらず一律融資後3年間0.9%の金利引下げを実施します。さらに、特別利子補給制度により実質無利子で融資を受けることができます(図表5)。

これら事業者の融資に関連する相談は、取引先金融機関のほか、商工会・商工会議所でも取り扱っています

図表5 日本政策金融公庫・商工中金による融資制度

3. その他

①社会保険料等の納付猶予

●概要

厚生年金保険料等を1年間猶予することができます。担保提供も不要ですし、延滞金もかかりません。

●要件

新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1カ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べておおむね20%以上の減少があり、保険料の納付を行うことが困難な事業主であること。

●手続き方法

厚生年金保険料の猶予については、管轄の年金事務所を経由して地方厚生(支)局長へ申請します。健康保険料については、協会けんぽの場合は年金事務所、健康保険組合加入の場合は健康保険組合、そして労働保険料(労災保険料・雇用保険料)については、都道府県労働局に申請します。

②国税・地方税等の納付猶予

●概要

納付すべき国税等を1年間猶予することができます。猶予期間中の延滞税は軽減されるか免除されます。財産の差押え等も猶予されます。

●要件

新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1カ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べておおむね20%以上の減少があること。

●手続き方法

納税の猶予申請書により税務署に申請を行います。電子申請も可能です。申請が認められると納税の猶予許可通知書が交付されますので、許可された内容で納付を行っていくことになります。

③専門家派遣事業

●概要

新型コロナウイルスにかかる事業継続のための相談事業が、各所で行われています。資金繰り関連については商工会議所等をはじめとして、また雇用維持関連については働き方改革推進センターを筆頭に、種々の制度を活用できます。個別に税理士や社会保険労務士に相談料の支払いを行うことが難しいという事業者は、無料で活用できる専門家派遣事業を利用してみてはいかがでしょうか。


安中 繁

ドリームサポート社会保険労務⼠法⼈
特定社会保険労務⼠

安中 繁

雇用調整助成金をはじめとする不動産事業者向けの施策の受給サポートに精通している。厚生労働省・国土交通省・全国社会保険労務士会連合会等の動画サイトでの助成金申請の解説も担当。著書・テレビ出演多数。