日本全国の空き家数が900万戸に
空き家問題に新たな光。外国人が注目するその魅力とは
年々深刻化している日本の空き家問題。その中で日本の古い家を住居や別荘として購入する海外の方が増えているといいます。彼らが空き家に魅了されるのはなぜなのでしょうか。外国人の物件購入をサポートする取り組みをご紹介します。
増加する日本の空き家に価値を見出す外国人
近年、メディアでも度々取り上げられている日本の空き家問題。少子高齢化、人口の減少、相続、建物の老朽化といったさまざまな要因によって生じる空き家は増加の一途をたどり、今では日本全体の課題として注目されています。政府が行った最新の調査結果からも、この問題が深刻化していることがわかります。
今年4月、総務省は2023年10月に実施した「住宅・土地統計調査」の速報集計結果を発表しました。この調査は1948年から5年に一度行われており、今回の調査で全国の空き家数は過去最高の900万戸を記録し、前回調査から51万戸増加しました。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)も13.8%で、0.2ポイント上昇しました。また、空き家数のうち、賃貸・売却用や二次的住宅(別荘等)を除く空き家は36万戸増加の385万戸となり、総住宅数に占める割合は5.9%に。全ての項目で過去最多を更新しました。
年々増え続ける空き家に対して国や地方自治体、不動産業界の各方面で改善に向けた取り組みが進められていますが、その一方、民間での新たな動きに注目が集まっています。それは外国人の空き家購入です。日本家屋や周辺の環境に価値を見出し、マイホームやセカンドハウスとして空き家を購入する外国人が増えているといいます。
そんな流れと並行して海外に向けて物件情報を発信したり、日本語がわからない人たちのために一連のサポートを行ったりする民間サービスも増えてきました。
空き家を外国人が買うという新しい動きの中には、今後空き家問題を解消する上で参考になるヒントが隠れているかもしれません。そこで、外国人向けに空き家購入のコンサルティングサービスを展開しているアレン・パーカーさんにお話をうかがいました。
空き家問題の一助にと始まった取り組み
行政機関向けの政策提言の助言や企業のPRコンサルティングを手がけるパルテノンジャパン株式会社(所在地:東京)の代表取締役社長を務めるアレン・パーカーさん。2020年8月、同社の新事業として、日本で住居購入を希望する外国人へ物件紹介から契約・購入サポートまでの不動産コンサルティングを行う有料サービス「Akiya & Inaka」を立ち上げました。その名のとおり、日本各地の田舎にある魅力的な古い空き家を紹介するサービスです。
当時はコロナ禍でしたが、そのタイミングでサービスを立ち上げたのにはきっかけがありました。
「都内に住んでいる外国人から、安心して暮らせるように、もう少し開けた土地に住みたいと相談があったのです。それを聞いて日本の空き家問題のことを思いつきました。田舎にある空き家を外国人が購入すれば、ウィンウィンなのではないかと。日本の田舎は自然が豊かで、外国人にとっては魅力的な住環境です。しかも田舎には古くても十分に住める家が空き家としてたくさん残されている。そこに着目しました」とアレンさんは話します。
アメリカ・テネシー州から日本に移住して17年。以降、各地の田舎でその素晴らしさを実感してきたというアレンさんは、自身の会社が掲げる地方創生への貢献というビジョンのもと、空き家対策に取り組みたいという思いを抱いていました。
サービス立ち上げを後押ししたものは他にもありました。一つは過去に外国人の賃貸・売買契約の翻訳・通訳、渉外業務を請け負った経験から、外国人が不動産を手に入れる際の契約・決済プロセスの複雑さ、言葉の壁を理解していたこと。これは大きな強みでもありました。
もう一つは、空き家販売において不動産業者を悩ませる報酬額の低さとそれがもたらす影響の認識です。「リーズナブルな空き家は、決められた仲介手数料で動く不動産会社にとってはあまり『面白くない』物件なのではないでしょうか。報酬が少ない上に、10回内見に案内しても売れるかどうかわからない。案内するたびに時間やお金のコストもかかりますから、それに対するリターンが小さいとなると不動産屋さんの熱意も下がってしまいますよね。しかもそうなることで、物件購入に興味を持つ人に十分なサービスが届かない状況も招いてしまう。そうさせないために新しいやり方が必要だと考えたのです」(アレンさん)。
双方の満足度を高めた提供サービスの有料化
「Akiya & Inaka」では「物件のリサーチ」「内見の案内」「契約・購入手続きのサポート※」という3段階のサービスを有料で提供しています。それぞれの労力に見合った報酬が生じることで、依頼者の希望に合う物件の吟味や物件レポートの作成に時間を割くことができ、お客様が検討するのに十分な情報を提供することができるといいます。物件の内見も東京から他県へ案内することが多いため、1日単位の基本料金を設けていますが、そこには依頼者が後日じっくり比較検討できるように建物の外内観と周辺環境をおさめた写真・ドローン動画の撮影といった手厚いサポートも含まれています。
※不動産仲介は提携不動産会社、不動産登記は提携先の司法書士法人が請け負う。
不動産取引以外のサービスを有料化することのメリットは大きく、一貫して質の良いサービスを提供することができるほか、建物や土地に関してマイナス点がある場合もオープンに伝えられるといいます。依頼者もある程度の料金を支払うことになるため、本気で物件を探している人が集まるようになり、最終的にはクオリティーの高い取引が行えているそうです。
アレンさんは、これは不動産会社ではない自分たちの手法であり、そのまま不動産会社に当てはめることは難しいかもしれないと前置きした上で、「世の中には、不動産会社が成功報酬だけで動いてくれるという既成概念があると思います。しかし、そこには逆の発想も必要で、有料にすることで、より良いサービスをお客様へ提供できるようになるのであれば、そちらを選択すべきではないでしょうか。物件探しも内見の案内も不動産会社の専門知識と腕の見せどころですから、それを付加価値としてアピールして、『タダではもらえないサービスがある』というように考え方を変えていけたらいいですよね」と話します。
田舎も空き家にも肯定的。外国人のユニークな視点
この4年で「Akiya & Inaka」のサービスをさまざまな人が利用しました。客層の上位はアメリカ人、オーストラリア人、そして日本在住の外国人で、年齢層は40〜60代が中心。中には日本人もいました。主たる購入理由はセカンドハウスで、購入が成立した地域は群馬県、静岡県、京都府、広島県、長野県、栃木県、埼玉県と多様です。中でも埼玉はアクセスの良さ、自然災害への強さという観点からも「Akiya & Inaka」がお薦めしているエリアです。
防災面では、地震や台風など自然災害が多い日本だけに、物件周辺のハザードマップ確認は欠かさず、盛土など、土地に関して心配なことがある場合には地盤調査を実施しています。同様に、建物に関しても必要に応じて住宅診断を行っています。
依頼者から寄せられる物件のリクエストは多岐にわたりますが、人気が高いのは、さまざまな匠技が残されている日本家屋で、手の込んだ欄間や床の間などがある和室は大変喜ばれるといいます。他にも150平方メートル以上あるような広い家、隣家から少し離れていて開けた風景が楽しめる家も人気です。部屋から浮世絵に登場するような富士山を臨むことができる家を探してほしいという依頼もあるそうで、外国人がいかに日本の自然や建築文化に魅力を感じているかが伝わってきます。
また、築年数の古さに関しては、欧米では古い家ほど価値があるものとされ、メンテナンスしながら住むものと考える人が多いため、ネガティブな反応は少ないそうです。リフォームが必要でも売主側が良かれと考えて現代的なリフォームを施すのではなく、購入者が物件の古き良き部分を残す方向でリフォームできることの方が好まれるといいます。
このように海外の人にとって、日本の「田舎」や「空き家」はとてもポジティブな存在なのです。
「しかし、日本では残念なことに田舎も空き家もネガティブワードです。空き家は放置され、崩れかけている。相続で揉めているから空き家なんじゃないかと噂の元にすらなっています。田舎も交通の便が悪い、仕事がない、若い人がいない……とネガティブなイメージばかりですね。確かに都会は便利ですが、地方にも田舎にもそれぞれの良さがあり、空き家もいろいろな活用の仕方があって可能性を秘めています。私はこの2つの言葉をリブランディングしたいという思いでこの活動を続けています」(アレンさん)。
空き家問題に臨むために取り組むべきこととは
アレンさんは、この仕事に取り組むことで喜んでくれる人も多く、地方活性化にも貢献できてうれしいといいます。それでは、新たに感じている課題などはあるのでしょうか。
「今後は、日本人の方にも空き家の面白さを伝えていきながら、空き家がなぜ売れないのかという問題についても知ってもらい、その対策も広く考えてもらう必要があると考えています。おそらく私たちの取り組み方とは別のやり方もあるはずです。不動産にまつわる各ステークホルダーが動かなければ、空き家問題はどうにもなりませんから、私もとにかくアクションを起こしてスマートに動きたい。一緒に動く人も増やしていきたいと考えていますので、それを不動産業の皆様に呼びかけていきたいです」(アレンさん)。
昔の日本家屋が大好きだというアレンさん。昭和の時代に建てられた住宅にも伝統的な職人の技や上質な建材が使われた価値の高いものが多く、外国人だけでなく日本人にもその良さや魅力を知ってほしい、そのまま空き家となるのはもったいないと語ります。
現在、国内でも使える空き家の流通を促す動きが加速していて、今年6月には国土交通省が「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。このような国、不動産業界、そして民間での活発な取り組みが今後ますます期待されることでしょう。