再生可能エネルギーの最注目トレンド
「地熱発電」の可能性


電気代が上昇するなか、地球環境保護の観点からも「再生可能エネルギー」が注目されています。
特に、今回着目したのは「地熱発電」。太陽光や風力など自然を利用したエネルギーのなかでも、安定供給が可能な純国産エネルギーとして長年期待されながら、国内シェアが1%に満たないのはなぜなのか。地熱発電の現状と今後の展望などを、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター 地熱チーム に取材しました。

家計を圧迫する電気代

「観測史上、最も暑い」ともいわれた夏がやっと終わりました。冷房などで適切な温度管理をしなければ命の危険もありうるような猛暑が去ったあと、請求された電気代を見てびっくりした方も多かったのではないでしょうか。

そのようななかで、ある工務店が「家庭の電気料金に関する意識調査2024」というアンケートを行いました。「物価上昇によって、家計で最も影響を受けているのは何ですか?」との問いに対して、最も多かった回答は「電気代」。4割以上の人が影響を受けていると答えたのです(図表1)。さらに、電気代と回答した人に「電気料金の値上がりに対して不安を感じていますか?」と問うと、実に7割以上の人が「とても不安を感じている」と答えました。

図表1 物価上昇によって、家計で最も影響を受けているもの

物価上昇によって、家計で最も影響を受けているもの
出典:一条工務店「家庭の電気料金に関する意識調査2024」

世界的な燃料や原材料費の高騰、円安などを要因とする物価の上昇を受け、電気代が家計を大きく圧迫していることがよくわかります。

注目される「再生可能エネルギー」

そこで、近年注目されているのが「再生可能エネルギー(以下、再エネ)」です。再エネは太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱、太陽熱発電などで、地球環境に優しいといわれるエネルギーのこと。主に自然界に存在するエネルギーを利用するため、さまざまな場所に存在し、枯渇しないことが大きな特徴です。

現在、日本のエネルギー利用は、海外から輸入される石油・石炭・天然ガス(LNG)などの化石燃料に大きく依存しており、2022年度では83.5%が化石燃料となっています(図表2)。

図表2 管理計画認定制度の認定基準

管理計画認定制度の認定基準
出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2022年度速報値より抜粋

ちなみに、2010年度との比較でみると、現在の化石燃料依存度の方が高くなっていますが、これは2011年の東日本大震災を受け、原子力発電の割合が大きく減ったことが原因です。しかし、その間の再エネ等の比率を見ると、4.4%から10.3%に伸びており、原発事故を受けて国として再エネに力を入れてきたことがわかります。

わが国では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指す「2050年カーボンニュートラル」を宣言しており、特に温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要とされています。

東日本大震災から10年後の2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」では、「再エネの主力電源化を徹底し、再エネに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」方針を明示。これにより、2021年現在のエネルギー自給率13.3%から2030年には30%程度とする、という目標が掲げられました。再エネの活用は、国として、また全世界的に、喫緊の課題となっているのです。

ポテンシャルが高い日本の地熱発電

そのようななかで、今回特に注目したいのが「地熱発電」です。

日本は世界でも有数の火山国。エネルギー資源が少ないといわれ、約9割を輸入に頼っているわが国ではありますが、その足下には膨大な資源が眠っているのです。地熱発電は、クリーンな純国産エネルギーとして、今期待が高まっているエネルギーのひとつです。

日本における地熱資源量のポテンシャルは高く、約2,300万kWと世界でもアメリカ、インドネシアに次ぐ第3位となっています(図表3)。しかし、発電設備の容量は61万kW(全国約40地点の地熱発電所による)で世界第10位※1。資源量に対する割合からみて非常に少ないうえ、国内の総発電電力量の中に占める割合も0.3%程度※2にとどまっているのが現状です。

※1 2024年4月現在。日本地熱協会Webサイトより
※2 経済産業省 資源エネルギー庁「最終エネルギー消費(参考1)」2022年データより

図表3 主要国における地熱資源量および地熱発電設備容量

主要国における地熱資源量および地熱発電設備容量
出典:経済産業省 資源エネルギー庁サイト

いったいなぜ地熱発電は進まないのか? その原因をお話しする前に、まずは地熱発電の仕組みについて、簡単に見ていくことにしましょう。

地熱発電の基本的な仕組み

地熱発電についてお話をうかがったのは、福島県郡山市の(国研)産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に拠点のある再生可能エネルギー研究センター 地熱チームの研究チーム長である山谷祐介さんです。FREAは、政府による東日本大震災からの復興の基本方針により、2014年4月に国立研究開発法人 産業技術総合研究所の新たな研究開発拠点として、福島県郡山市に開所しました。再エネに特化した研究施設で、地熱をはじめ太陽光、風力、水素エネルギーなど10のチームからなる再生可能エネルギー研究センターが研究を実施しています。

「まず、地熱と地中熱は全く違うものなんです」と山谷さん。地中熱は、季節を問わず安定した温度を保つ地中の熱を、そのまま利用する技術です。地下100m程度までの熱エネルギーを地中から取り出し、冷暖房や給湯などに利用している施設があることは、みなさんもよくご存じのことと思います。

地熱はそれよりももっと深く、地下1.5~3km程度まで井戸を掘り、そこから出る蒸気を利用して発電する技術です。高温高圧の地下水、つまり蒸気を取り出して、タービンを回転させて発電させます。発電に使用した後の蒸気は冷えて水となり、それをさらに一定の温度まで冷やして別の井戸から地下に戻す「生産と還元」を繰り返すことで、安定した電力供給が可能です。

もちろん、地下ならどこでもいいというわけではなく、「地熱貯留層」といわれる場所を見つけて、ピンポイントで井戸を掘らなければなりません。200~300℃にもなる地熱貯留層は、その周辺に「キャップロック」と呼ばれる水を通しにくい粘土層を持ち、地表からしみ込んだ雨水などが溜まっている場所。「つまり、地中にある天然のエネルギーの入れ物です」と山谷さんは言います(図表4)。

図表4 地熱の概念図

地熱の概念図
温泉が出る層(黄色部)と地熱の熱源(マグマ)がある地熱貯留層(オレンジ部)とは深度が異なるうえ、間には水を通さない岩(キャップロック)があるため、一般的には、温泉貯留層と地熱貯留層の水は接続していないと考えられている/©産総研(展示資料)

立ちはだかる4つの課題

基本的な地熱発電の仕組みがわかったところで、なぜ今までそれが進んでこなかったのかをお聞きしました。「課題は大きく分けて4つほど考えられます」と山谷さん。

まず1つ目は、地熱貯留層のある場所は大抵山地であるため、国立公園や国定公園に指定されていることが多く、開発に規制がかかっていることです。実際に第一次石油ショックのあった1973年以後は地熱発電が脚光を浴び、国策として盛んに研究されていた時期もあったようですが、環境庁(当時)によって国立・国定公園での開発制限がかけられ、新たな開発が難しくなった「地熱・冬の時代」があったそうです。現在は、東日本大震災以降のエネルギー危機をきっかけに規制が緩和され、調査の再開や助成金の交付などによって「盛り返しつつある状態」(山谷さん)とのことでした。

2つ目は、初期投資費用の高さと開発リスク。井戸を1本掘るのに数億から10億円かかるうえ、運用開始までのリードタイムが10~15年と長いこと。前述したように、地熱貯留層に向かってピンポイントで掘る必要があるのですが、その確度が時には3割程度と低いことが挙げられます。

3つ目は、地域住民との合意形成です。特に慎重な対話により信頼関係を築くことが必要なのは温泉施設で、近隣に井戸を掘るとなると、温泉への影響の心配から反対されるケースもあります。実際の温泉への影響については、「掘る深さが全く違いますし、温泉用に掘る井戸と地熱貯留層の間にはキャップロックがあるため影響は少ないと説明されることが多いですが、絶対にないとは言い切れないので科学的な監視が必要」(山谷さん)ということのようです(図表4・5)。

図表5 温泉モニタリングシステム

温泉モニタリングシステム
地熱チームでは、地熱と温泉の関係を科学的に説明するために、温泉の泉質(温度、流量、電気伝導度等)を監視できるモニタリング装置を開発し、全国10箇所の温泉で試験を行ってきた/©産総研

最後の課題は、適地が限られること。地熱発電に適した場所は主に東北と九州、北海道に集中していますが(図表6)、そもそも道路さえもないような場所であることも多く、せっかく適地を見つけても道路からつくらなければならないとか、地元住民が「地熱発電で街おこしをしたい」と手を上げてくれても、調べてみたら適地でなかったということもあるそうです。これら4つの課題が複合的に絡まって断念するケースもあります。

図表6 国内の主な地熱発電所と地質調査総合センター(2009)による地熱活動度指数(日本地熱協会資料に加筆)

国内の主な地熱発電所と地質調査総合センター(2009)による地熱活動度指数(日本地熱協会資料に加筆)
地熱地域が東北、九州、北海道に集中していることがわかる/©産総研

地熱発電、今後の展望

さらに、地熱発電が環境に及ぼす影響についても、考えなければなりません。「先に述べた温泉への影響、自然豊かな場所に大きな音を出す発電施設ができることへの景観や周辺の植生や生態系などへの影響、地下を掘る際に毒性のある流体が出てくる可能性、因果関係が証明しにくいのですが、開発に関連した地震が起こる可能性なども否定できません」と山谷さんは言います。もちろん、出力1万kW以上の地熱発電所に関しては、必ず環境アセスメント(環境影響評価)を行うことになっているため安心です。

地熱チームでは、これらの課題を解決するため、たとえば地熱貯留層や温泉の高度モニタリング技術の開発など、さまざまな研究を重ねています。近年では、「超臨界地熱発電」の分野にも手を広げているそうです。これは、5km程度と地熱貯留層よりもっと深部にあるマグマの塊の上部に存在する、超臨界状態の水を利用した発電方法。海洋プレートによって引き込まれた海水が起源であるこの水は400~500℃で、1本の井戸からより大きなエネルギーが利用可能だと考えられています。FREAなどの研究(NEDO※3委託事業)により、岩手県の葛根田地域に超臨界地熱システムがあり、100MWの発電が40年以上可能という調査結果も出ているそうです(図表7)。

※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

図表7 超臨界地熱システムの概念図

超臨界地熱システムの概念図
超臨界地熱システムの概念図
将来の地熱発電のブレイクスルーといわれる超臨界地熱発電は、地下3~5kmに存在するマントル・マグマを起源とする超臨界岩体を利用する技術で、アイスランドなど、世界で研究が進められている/©産総研

天候や気象環境に左右されにくく、昼夜を問わず安定して発電できる地熱発電。純国産のクリーンエネルギーとして為替等の影響を受けることもなく、資源の少ないわが国でエネルギー自給の切り札となるのか、今後の研究に期待しましょう。

再生可能エネルギー研究センター地熱チームの研究チーム長 山谷 祐介 氏(理学博士)
再生可能エネルギー研究センター地熱チームの研究チーム長 山谷 祐介 氏(理学博士)
東日本大震災に伴い発生した原発事故からの復旧・復興を目指す福島県を、「再生可能エネルギー先駆けの地ふくしま」として再生するため、2014年、郡山市に開所。太陽光、風力、水素など、さまざまな再生可能エネルギー研究が進められている。/©産総研
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所
東日本大震災に伴い発生した原発事故からの復旧・復興を目指す福島県を、「再生可能エネルギー先駆けの地ふくしま」として再生するため、2014年、郡山市に開所。太陽光、風力、水素など、さまざまな再生可能エネルギー研究が進められている。/©産総研