家の価値が大きく変わる
2025年4月から義務化される「省エネ基準適合」とは?
地球温暖化対策の推進は、次の世代のために私たちに課された責任です。現在、あらゆる場面でさまざまな施策が進められており、住宅関連では、2024(令和6)年4月から、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度が始まっています。
そして2025(令和7)年4月からは、省エネ基準適合の制度が開始されます。本稿では、省エネ基準適合の制度について概要を解説します。
省エネ基準
省エネ基準適合の制度は、建築物を新築したり、増改築をしたりする場合に、省エネルギー性能の確保のために必要な構造や設備に関する基準(省エネ適合の基準)を満たさなければならないとする仕組みです。基準を満たす建築物でなければ、建築確認が下りません。基準は、①外皮性能基準と②一次エネルギー消費量基準の2つから成ります。
①外皮性能基準
省エネ基準では、外気と接する天井、外壁、開口部、床、基礎など、建築物を覆っている部分を、外皮と総称します。外気と室内の温度環境を区分する境界を熱的境界といい、熱的境界において、断熱性能を高める対策を講じる必要があります。
②一次エネルギー消費量基準
建築物で使われている設備機器(空調・換気・照明・給湯など)の消費エネルギーから、太陽光発電設備・コージェネレーション設備によって創出されるエネルギーを差し引いた熱量を、一次エネルギー消費量といいます。省エネ基準では、一次エネルギー消費量を一定基準以下に抑制することが求められます(図表1)。
① 外皮性能基準
屋根や壁に断熱材や高断熱窓を採用し、家全体を魔法瓶のような構造にします
② 一次エネルギー消費量※基準
高効率のエアコンやLED照明にしたり、太陽光発電等を使って創エネして、エネルギーを上手に使います
省エネ適合の基準は、①と②のそれぞれについて、建築物省エネ法(正式名称「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」)の「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」によって定められています。
制度の対象
省エネ基準適合の義務は、2025(令和7)年4月以降に工事に着手する建築物に対して適用されます(確認申請の時期は問われない)。省エネ基準の適合が求められる工事には、新築工事だけではなく、増改築工事も含まれます。増改築の場合には、省エネ基準適合が必要なのは、建物全体ではなく増改築部分となります。修繕・模様替えといった改修・リフォームは対象外です。改修・リフォームであれば、大規模なものでも省エネ基準適合は義務づけられません(国土交通省 脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)に係る質疑応答集)。
適合性判定の手続き、審査
2025(令和7)年4月以降に工事が開始される建築物については、建築確認手続きの中で省エネ基準への適合性審査が行われます(図表2〈適合性審査A〉)。もっとも、今般の改正によって、適合義務の対象が全ての建築物に拡大されるので、建築確認手続きの対象件数が大幅に増加し、申請側・審査側双方の負担の増大が見込まれます。そこで、審査の簡素・合理化のために、図表3(適合性審査B)のように取り扱われるものとされています。
※1 完了検査時においても省エネ基準適合の検査が行われます。
※2 仕様基準を用いるなど審査が比較的容易な場合は、適合性判定は省略されます。
出所・参考:国土交通省パンフレット「設計者・工務店の皆様へ」
(1)省エネ基準への適合性審査を不要とする建築物が
以下に限定されます。
・建築確認の対象外の建築物※1
・建築基準法における審査・検査省略の対象である建築物※2
(2)省エネ基準への適合性審査が容易な建築物の省エネ適判手続きが省略されます。※3
[施工日:公布の日から3年以内]
※1 都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物(平屋かつ200㎡以下)
※2 都市計画区域・準都市計画区域の内の建築物(平屋かつ200㎡以下)で、建築士が設計・工事監理を行った建築物
※3 仕様基準による場合(省エネ計算なし)等
まとめ
エネルギー基本計画(2021〈令和3〉年10月閣議決定)では、「2030年度以降新築される住宅について、ZEH※基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」とともに、「2030年において新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」とする政策目標が設定されており、省エネ基準の適合性は段階的に厳格になっていきます。
耐震基準(旧耐震・新耐震)への適合性が建築物の価値を構成するように、これからは省エネ基準への適合性が住宅の価値を構成する要因となり、消費者が家を選ぶ場合の考慮要因が変わっていきます。省エネ基準を満たしていないことは、住宅価値のマイナス要因になっていくかもしれません。宅建業者のみなさまには、このような見通しを踏まえ、できるだけ新しく、正しい知識を得て、適正な業務を行っていただくことを期待します。
※ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現したうえで、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」を指す(国土交通省webサイト「ZEH・LCCM住宅の概要」より)
山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。