昭和から平成、そして令和へ
いまなお生きる、業界の縁起担ぎ
今年も残すところあとわずかとなりました。みなさんの会社や自宅でも、酉(とり)の市で買った熊手を飾り、新年を迎える準備が進んでいるのではないでしょうか。
振り返れば、1952年に全日本不動産協会が設立してから72年が経ち、当時とはまちの様子も業界の規模も大きく変化しました。しかしそのようななかで、いまなお生きるものがあります。
それは、「福をつかむ・かき集める」といわれる熊手に象徴されるような、縁起やジンクス、ゲン担ぎです。折しも来年は昭和100年にあたる年。ひとつの区切りを迎えるこの時期に、不動産業界に根付き、語り継がれてきた習慣の数々を小咄(こばなし)的に紹介します。
水は厳禁!火も勘弁!
不動産業界のゲン担ぎでもっともポピュラーなものといえば、水曜定休日でしょう。街の不動産屋さんから大手仲介各社まで、業界全体で水曜定休日が定着しています。理由は「水」が縁起が悪いから。「水=流れる」という連想から、契約や取引が不成立になりやすいと捉えられています。
最近では火曜定休日の会社も増えてきました。週休二日制の定着という社会背景に加え、「火」もまた、火事や「火の車」の連想から縁起が悪いと考えられているのです。物件が燃えてしまったり、経営が立ち行かなくなったりしたら大変ですからね。
「流れる」に近いものでは、「味噌汁かけごはん」も不動産や建築の業界で縁起が悪いとされています。味噌汁でごはんの山が崩れる様子は、土砂崩れや崩落などを連想させるからです。現場に出る前の味噌汁かけごはんは厳禁です。
好まれる数字は八と三
逆に縁起がいい文字として好まれるのが、末広がりの形をしている漢数字の八。売り主、買い主、金融機関などの都合がつけば、できれば契約書の日付けは「8」にこだわりたいという風潮も残っています。
また、これは特に不動産屋に限ったことではありませんが、社名によく使われる文字が漢数字の「三」です。「毛利家に伝わる三本の矢の教えにちなんで」など諸説ありますが、三角形、三方良し、三位一体、御三家、三大○○など、三は日本人にとってなじみがあり、落ち着く数字であることは確かです。三井、三菱、三和、三星、三栄など漢数字の「三○」も、サントリーなどカタカナの「サン××」もよく耳にします。関西では「三」がつく社名の会社は寿命が長く、倒産しないというジンクスもあるそうです。
契約に適した日はいつ?
大安、仏滅、友引などの六曜は慶事の際などに気にすることも多く、日本人にとって馴染みが深いものです。大金が動く不動産契約においても、「できればいいお日柄を選びたい」と考えるお客さま、担当者は少なくありません。
六曜は先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口の6つ。最も契約に適した日は、もちろん大安です。この日に都合がつかない場合は友引か先勝、または先負ですが、一日中「吉日」である大安と違って、時間帯で吉凶が変わるので注意が必要です。友引は昼(11時~13時)が凶にあたるので契約は朝晩に。先勝は午前が吉、反対に先負は午後が吉なので契約はそれぞれ吉の時間帯に設定するといいでしょう。縁起が悪く、避けたいのは仏滅、赤口です。
SNSなどで最近よく聞く「一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)」「天赦日(てんしゃび/てんしゃにち)」も、日本古来の暦上の縁起のいい日です。一粒の籾(もみ)が成長して何倍にもなる=大きな利益をもたらす一粒万倍日、年に数日しかない最上級の吉日で、天がすべての罪を許すという天赦日は、いずれも不動産契約にもうってつけです。特に天赦日は仏滅も打ち消すパワーがあるので、チェックしておきたいところです。
逆に、不動産・建築業界にとっての大凶日で「契約などもってのほか!」という日が三隣亡(さんりんぼう)。三軒隣まで災いをもたらす日とされ、この日は契約、引っ越し、地鎮祭、棟上げ、建築工事など不動産、建築関係にまつわることはすべて禁忌とされています。
不動産、建築にまつわる神事
不動産、建築の業界では当たり前となっている神事に「地鎮祭」や「上棟式」「竣工式」がありますが、これも他の業界から見ると不思議な習慣かもしれません。これらの神事にもちょっとしたジンクスがあります。せっかくなら晴れてほしいところですが、あいにくの雨でも地鎮祭なら「雨降って地固まる」、上棟式なら「福が降り込む」と尊びます。
なお、「普請(ふしん)負け」という言葉もあります。普請(新築や改修)をすると身内の不幸などよくないことが起こるという言い伝えで、祝事である普請の陽のパワーの分だけ陰のパワーも働いてしまうと考えられています。この「普請負け」を避けるために、「普請負け除け」というおはらいをしてもらうこともあります。令和の今もこのような神事は続いています。
スタートアップ企業が好む出世ビル
最後は今どきの話を紹介します。近年、政府も「スタートアップ育成5か年計画」を掲げるなど「起業」が注目を集めています。スタートアップ企業は、すごろくのように、成長・拡大とともにオフィスを移転しますが、のちにメガベンチャーなどへと成長した企業が草創期に入居していたビルは、成功を夢見るスタートアップ企業の間で「出世ビル」として好まれています。不動産屋が売り文句として言い出したのか、都市伝説のように広まったのか定かではありませんが、これも一種のゲン担ぎ。やはり土地や建物には、理屈では割り切れない摩訶不思議なものが宿っているのかもしれません。居抜きでそのまま借りるケースもあり、SDGsの観点からもよさそうです。