2025年の不動産市況の見通し

2025年の不動産市況の見通し

2024年の不動産市場は、賃貸市場に明るさを感じられる1年でした。ほかにも、地価の上昇や不動産投資市場の安定した高水準など、喜ばしいニュースが流れました。しかしその一方で、建築費の高騰やそれに伴う着工の鈍り、J-REITの不振なども大きな話題となった年でした。本稿では、建築、金融、投資市場など、不動産を取り巻く市場をデータで振り返り、2025年の市況を予測します。

賃貸市場に明るさが見られた2024年

2024年の賃貸住宅市場においては、高品質のファミリー向け物件を中心に賃料の上昇が実感されました。住宅賃料が上昇するエリアも地理的に拡大しており、日本不動産研究所「全国賃料統計」によると、調査対象となる158都市のうち70都市において賃料の上昇が観察されました(図表1)。

図表1:共同住宅賃料の上昇・横ばい・下落都市の構成

図表1:共同住宅賃料の上昇・横ばい・下落都市の構成
注:調査時点は毎年9月末
出所:日本不動産研究所「全国賃料統計」

オフィス賃貸市場については、コロナ禍以降、調整局面にあった東京において、需給の改善が明確化したことが印象的でした。空室率はすでにピークアウトして低下に転じ、賃料も底入れの傾向を強めています。売上げの増加が続く商業店舗、1室当たりの宿泊料が上昇した宿泊施設などにおいても、賃貸市場は好転しているものと推察されます。

やや気掛かりであるのは、首都圏における物流施設の賃貸市況です。空室率は高止まりしており、賃料にも頭打ち感が認められます。これは、コロナ禍以降の物流施設の大量供給に起因する需給バランスの悪化によるところも大きいといえます。全国における2020年の物流施設の着工床面積は、23年ぶりに1,000万㎡を超えた後、4年連続で1,000万㎡超の水準で推移しました。これらが竣工を迎えて賃貸市場に供給された結果、一部の地域において供給が需要を上回る状況に至ったものと考えられます。ただし、2024年の物流施設の着工は前年の実績を大幅に下回っています。これまでの増加に対する反動減のほか、建築費の高騰も足元の着工の減少に寄与している可能性が高そうです。このまま供給ペースが緩やかになれば、いずれ賃貸市況も反転の兆しをつかめるでしょう。

鈍かった着工の動き

2024年の不動産市場では、建築費の高騰が大きな話題となりました。統計上では、工事費の上昇は2021年頃から始まっており、足かけ3年程度の間に、建築費は3割から4割程度上昇しました(図表2)。実態として、これ以上に建築費が高騰していると指摘する市場関係者も少なくありません。

図表2:代表4物件(東京)の建築費指数

図表2:代表4物件(東京)の建築費指数
注:2024年11月と12月は暫定
出所:建設物価調査会「建設物価 建築費指数®」

一方、建築費を構成する資材価格については、すでに価格上昇が頭打ちになっているとの指摘も聞かれます。それでも建築費が下落に転じるとの見方が拡がっているわけではなく、今後も不動産市場は建築費が高止まりする状況に向き合う必要があるでしょう。

建築費が高ければ、新規の開発においては、これまで以上に厳格な経済性の検討を求められることになります。その結果として、建築着工の動きが鈍ることは避けられません。

現に2024年は着工の鈍い1年でした。まず新設住宅着工戸数については、2024年1月から11月までの累計で、前年同期比3.4%減の72.9万戸にとどまりました。これは暦年ベースの着工戸数が過去最低であった2009年以来となる少なさです。用途別・構造別に見ると、賃貸アパートの着工が例外的に増加しているほかは、軒並み前年の実績を下回っています。とりわけ分譲戸建て住宅などの着工の落ち込みが顕著です。

非住宅においては、上述のとおり倉庫の着工床面積の減少が目立ちます。その一方、2024年の宿泊業用建物の着工は前年比で倍増しているほか、事務所の着工も前年比2桁増のペースで進捗しています。ただしこれをもって「建築費高騰にもかかわらず着工が盛んである」と解釈することは不適切です。これまで、宿泊業用建築物の着工はコロナ禍を挟んで急減しており、2018年の304.0万㎡を直近のピークとして、2023年の90.3万㎡まで5年連続で着工床面積が減少しました。2024年の着工の増加はその反動増という側面があります。

また、宿泊業用建築物、事務所ともに、2024年の着工の増加はごく一部の地域に偏っています。たとえば宿泊業用建築物について、2024年(1月~11月)の全国の着工は前年同期と比べて86.8万㎡(106.4%)増加しました。都道府県別に見ると、東京都で46.5万㎡増、北海道で12.4万㎡増、大阪府で8.6万㎡増であったため、これら3都道府(計67.5万㎡増)で全国の増加の8割方を占めていることになります。また事務所については、全国の着工の増加が75.4万㎡であったのに対し、東京都の着工の増加が90.5万㎡であったことから、東京都を除く46道府県の合計では前年比マイナスとなっています。総じてみれば、2024年は建築費高騰の元で着工が弱い1年であったと解釈するべきでしょう。

金融環境の変化

2024年は、金融政策の面でも大きな節目となる1年となりました。日本銀行は2022年末以降、従来のイールドカーブ・コントロール政策(短期金利をマイナスに誘導するとともに長期金利の上限を厳格に定める政策)を事実上柔軟化する方向に舵を切っていましたが、2024年3月の政策会合をもって、正式にイールドカーブ・コントロール政策を撤廃することとなりました。そして同年7月と2025年1月に政策金利を引き上げました。

一連の政策変更によって市中金利は上昇しました。長期金利に連動する固定型住宅ローン金利は、2019年頃をボトムとして、これまで明確に上昇してきました(図表3)。本稿は2回目の利上げ直後に執筆されており、マスコミ等では変動型住宅ローン金利の上昇についても大きな話題となっています。

図表3:フラット35の借入金利(最低~最高)

図表3:フラット35の借入金利(最低~最高)
注:借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きの場合
出所:住宅金融支援機構「【フラット35】借入金利の推移」

ただし、少なくともこれまでのところ、不動産市場に特段の変調は認められません。各種統計資料は、住宅価格の上昇または高止まりが継続していることを示しています。一部の地域において、住宅価格の上昇が頭打ちとなっているとの指摘も聞かれますが、住宅価格が下落に転じる兆候であるとの観測には至っていません。

地価の上昇も続いており、かつ地価上昇地点の地理的な裾野も広がっています。国土交通省が毎年7月1日時点の地価を集計する「都道府県地価調査(基準地価)」によると、2024年の住宅地の調査地点(前年と比較可能な14,554地点)のうち、上昇が6,524地点、下落が5,934地点ありました(図表4)。上昇地点数が下落地点数を上回ったのは33年ぶりとみられます。

図表4:都道府県地価調査における上昇・横ばい・下落地点数(住宅地)

図表4:都道府県地価調査における上昇・横ばい・下落地点数(住宅地)
出所:国土交通省「都道府県地価調査」

住宅への関心高まる、不動産投資市場

不動産投資市場における投資家の物件取得意欲も根強いままです。日本不動産研究所の「不動産投資家調査®」によると、2024年10月調査時点において、今後1年間に「新規投資を積極的に行う」とした回答者の割合が94%に上りました。これに対し、「当面、新規投資を控える」とした回答者は2%に過ぎませんでした。

なお、「新規投資を積極的に行う」とした回答者に、その対象となるアセットを尋ねたところ、ファミリー向けマンションを選択した投資家がコロナ禍直前の2019年10月と比べて大幅に増加していることがわかります。また、2024年10月調査で最も多くの回答を集めたのは、単身者向け賃貸住宅(ワンルーム)でした(図表5)。住宅に対する投資家の関心がこれまで以上に高まっていることをうかがわせます。

図表5:今後1年間に「新規投資を積極的に行う」とした場合の対象

図表5:今後1年間に「新規投資を積極的に行う」とした場合の対象
注:複数回答あり
出所:日本不動産研究所「不動産投資家調査®」

金融機関の貸出態度と賃料上昇への期待感

金利が上昇しても不動産市況に特段の悪影響が表れていないことの前提条件として、不動産に対する金融機関の貸出態度が緩和的なまま保たれていることが重要です。万が一、金融機関が不動産への融資を手控えるようなことになれば、借入資金を活用して不動産投資を行っている投資家が資金繰りに行き詰まり、保有している物件を換金目的で売却することを余儀なくされます。あるいは住宅ローンの貸出しが細れば、住宅需要にも悪影響が及ぶことは避けられません。このような動きが市場全体に拡がれば、不動産価格は厳しい調整を迫られることになるでしょう。

現実にはそのような事象は生じていません。日銀短観の「金融機関の貸出態度DI」を点検すると、金融機関の貸出態度が「厳しい」と認識する不動産会社の割合は、これまで低位に抑制されています。また、日銀の「貸出先別貸出金」統計によると、不動産業向け貸出残高は高い伸びを示しており、住宅ローンの残高も従来と同程度のペースで増え続けています。

とはいえ、金融政策の変更を受け、不動産投資家が金利の上昇に対する警戒感を強めていることも事実です。このような状況下において不動産市況が保たれるためには、金利のコスト上昇分を打ち消す程度に賃貸収益が伸びていくとの期待感が強まる必要があります。住宅ローンにおいても、借り手が将来の所得増に対する確信を強めれば、借入金利の上昇による住宅取得予算の縮小を埋め合わせる方向に作用することになります。

政府・日銀は、かねてよりデフレ脱却を目指しているところですが、2025年は不動産市場においてもデフレ脱却を確かなものとしなければなりません。それが金利上昇下において不動産市況が保たれることの鍵となります。

厳しかったJ-REIT

これまでの金融環境の変化を受けても不動産市況が大きく損なわれていない一方、株式市場は不動産を不安視しています。これを如実に現しているのがJ-REIT市場です。2024年末の東証REIT指数は前年末を8.5%下回りました。この間19.2%上昇した日経平均株価や11.4%上昇した東証業種別株価指数(不動産業)などと比べると、J-REITの不振は際立っています。

2024年のJ-REIT投資口の売買状況を確認すると、投資信託、銀行および海外が主な売り越し主体でした。2024年から始まった新NISAにおいて、いわゆる毎月分配型の投資信託が対象から除外されたことが、投資信託によるJ-REIT投資口売却の一因となっているとの推測が成り立ちます。銀行は、市中金利の上昇を受けて、投資運用先の見直しの観点からJ-REITの保有を低下させたのでしょう。海外勢については、コロナ禍以降の在宅勤務の定着により、ホワイトカラー層がオフィスに戻っていない米国などの連想から、日本においても、賃貸市場の先行きを危ぶむ投資家がJ-REITの売却を進めたのかもしれません。

いずれにせよ、J-REITは割安のまま放置されています。不動産証券化協会のデータによると、2024年12月時点のNAV倍率(鑑定評価額に基づく純資産額に対する時価総額の比率。株式におけるPBRに相当)は0.8に低下しました。また、分配金利回りは5.15%にまで上昇しています。J-REIT市況が本格的に底入れするためには、金利上昇下にあってもJ-REITの収益性が改善していくとの信頼感を株式市場で醸成し、より幅広い市場参加者からJ-REITに対する関心を引きつけることが望まれます。結局は、ここでも賃貸市場におけるデフレ脱却が焦点となるのです。

2025年の不動産市況

2025年の日本経済を占う上で、海外に起因する不確実性は極めて高いといえます。本稿執筆時点では米国の新政権による貿易政策やエネルギー政策は十分に明らかになっていませんが、今後さまざまな経路を通じて日本経済に影響をもたらす可能性があります。各地での紛争の行方など、地政学的リスクも無視できません。

ただし、これまでの国内経済事情を踏まえれば、2025年の日本経済は力強さに欠きながらも、底堅く展開するものと期待されます。人手不足の解消が困難ななか、家計の雇用・所得環境は改善を続けることでしょう。これまでの企業収益は好調であり、企業の業容拡大意欲も高いまま保たれています。こうしたマクロ要因からは、2025年も賃貸市場の改善が見込みやすい状況が続くものと予想されます。

しかしながら、不動産の賃料の上昇はマクロ要因から自動的に達成できるわけではありません。個別の物件がテナントの需要と合致することが必須の条件です。不動産市場のデフレ脱却は、物件の競争力を高めることを目指す開発事業者やオーナー、さらにはテナントのニーズを的確に捉えて物件を橋渡しする仲介事業者など、不動産市場に介在するさまざまな主体による不断の努力が結実することによってのみ達成されます。これまで、不動産市場は社会の要請に応えられてきたのでしょうか。2025年は、まさにその真価が問われる1年となります。


執筆

吉野 薫

日本不動産研究所
シニア不動産エコノミスト

吉野 薫

日系大手リサーチ・コンサルティング会社を経て、2011年より現職。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査を担当するとともに、大妻女子大学非常勤講師を兼務している。