重要土地等調査法がいよいよ稼働!同法における宅建業者の役割とは
国際情勢の緊迫により、わが国でも国境離島や防衛関係施設周辺等における土地の所有・利用をめぐり、安全保障上の問題が懸念されています。そのような状況のなかで、重要施設周辺および国境離島等における土地等の利用状況の調査および利用の規制等に関する法律(重要土地等調査法)が、令和3年6月に成立し、公布されました。令和4年9月に全面施行されています。
同法は、土地の所有・利用関係を通じて国の安全保障を図るための法律ですから、宅地建物取引業者は、同法の適正な運用に協力すべき立場にあります。本稿では、重要土地等調査法の概要を確かめるとともに、宅地建物取引業者の役割を解説します。
重要土地等調査法の概要
重要土地等調査法では、注視区域と特別注視区域が指定されます。
1.注視区域の指定と区域内の調査
注視区域は、重要施設(防衛関係施設等)の周囲おおむね1,000mの区域内および国境離島等の区域内で、その区域内にある土地等(土地および建物)が機能阻害行為の用に供されることを特に防止する必要があるものとして指定される区域です(重要土地等調査法5条1項)(図表①)。
図表①:注視区域指定のイメージ

注視区域の区域内では、土地等を利用して機能阻害行為が行われることを防止するため、土地等の利用状況の調査がなされます(同法6条)。
2. 特別注視区域内における届出
特別注視区域は、注視区域のうち、重要施設や国境離島等の機能が特に重要、またはその機能を阻害することが容易で、ほかの重要施設や国境離島等によるその機能の代替が困難である場合に指定される区域です(同法12条1項)。
特別注視区域内にある面積(建物では床面積)200㎡以上の土地等に関する所有権またはその取得を目的とする権利の移転設定をする契約を締結する場合には、当事者は、あらかじめ、内閣総理大臣に所定の届け出をしなければなりません(同法13条1項・規則4条)(図表②)。
図表②:注視区域・特別注視区域内に対して国が行うこと

3. 土地等の不適切な利用の規制
注視区域内にある土地等の利用者が土地等を重要施設の施設機能または国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供し、または供する明らかなおそれがあるときは、内閣総理大臣は、土地等の利用者に対し、土地等をその行為の用に供しないこと、その他必要な措置をとるべき旨を勧告することができます。勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、その者に対し、措置をとるべきことを命ずることができます(同法9条1項・2項)。命令に違反したときは、違反行為をした者は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に処され、またはこれらが併科されます(同法25条)。
4. 注視区域および特別注視区域の指定の状況
令和6年8月末現在、全国583区域が注視区域および特別注視区域に指定する告示がなされています。
重要土地等調査法における宅建業者の役割
宅地建物取引業者には、重要土地等調査法の適正な運用のために、①重要事項説明を行う役割、および②特別注視区域内の土地等に関する所有権等の移転等の届出が適切に行われるように、土地等の所有者等に協力を求める役割があります。
1. 重要事項説明
宅建業法上、取引の対象が特別注視区域内にあって、届出義務があること(同法13条1項・規則4条)(図表③)は、法令に基づく制限として説明事項になります(宅建業法35条1項2号、同法施行令3条1項63号)。宅建業者は、売買および交換においては、特別注視区域内にあることを説明しなければなりません。なお特別注視区域内の土地等の取引であっても、賃貸借では、宅建業者が説明すべき重要事項には含まれません(同法施行令3条2項・3項において、同条1項63号が除外されている)。
図表③:重要土地等調査法の届出制度(概要)

2. 届出が適切に行われるように土地等所有者等に協力を求める役割
宅建業者が土地等の取引を仲介する際には、自らは重要土地等の取引についての届出義務を負うものではありません。しかし注視区域の区域内で土地等の利用状況の調査がなされることや、特別注視区域内の土地等の取引に届出が必要であることは、一般の人々にはほとんど知られていません。宅建業者は、取引対象が特別注視区域にあることに加え、より一般的に、土地取引を通じて重要土地等調査法の仕組みと国民の義務についての周知徹底に協力をすることが求められます。
内閣府の「キャラバン」が全日神奈川県本部・東京都本部へ
宅地建物取引業者は、宅地建物の適正な取引を通じて社会に貢献する使命があります。国の安全保障を図る土地の利用関係に関するルールについては、土地の所有者や利用者に周知徹底し、国の安全保障に協力しなければなりません。もっとも、重要土地等調査法は、制定されたばかりの法律であり、しかもこれまで私たちが知っているルールとは、性格が異なっています。
そこで内閣府は、「重要土地等調査法」の不動産業界への周知を図るため、2024年11月・12月に当会の神奈川県本部・東京都本部などを訪問。同法の規定のうち、特に宅建事業者の業務に関わる部分について説明し、意見交換などを行いました。
キャラバン第1弾となった全日神奈川県本部の説明会では、内閣府から岸川仁和大臣官房審議官(重要土地担当)をはじめ、同法の運用に携わる担当者が複数出席。当会からは佐々木富見夫本部長ら役員が参集したほか、多くの会員がオンライン配信を通じて参加しました。同キャラバンは、不動産業界団体の所属会員に向け、指定区域の多い都道府県を中心に、今後も継続的に実施される予定です。

右:佐々木富見夫神奈川県本部長

執筆

山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。