「必ず受け取りたい」「確実に届けたい」。そんな居住者と宅配事業者双方の視点から、利便性を向上させてきた宅配ボックス。最近ではさらに進化を遂げ、現代人の多種多様なニーズにこたえてくれています。ここでは、時代が求める便利機能が付いた宅配ボックスの最新事情を、いくつかご紹介します。
ラストワンマイルを支える物流サービス
「ラストワンマイル」とは、物流業界において最終拠点からエンドユーザーの手に渡るまでの区間を指す言葉です。長距離ランナーが最終局面で過酷な闘いを強いられるように、物流においても比喩的な「最後の1マイル」は、時に難関となり得るのかもしれません。
その物流のラストワンマイルの中心的な課題が「再配達」という問題です。とはいえ国土交通省の調査によると、コロナ前には15〜16%程度であった再配達率は令和6年10月には10.2%にまで改善しています(ちなみに政府の目標は7.5%)(図表1)。この間にもEC市場の拡大により全国で取り扱われる宅配便の総数はうなぎ登りに増加しているわけですから、物流業界が時代の潮流のなかで健闘している様子がうかがえます。
図表1 国土交通省「実態調査に基づく再配達率の推移(総計)」

このラストワンマイルの善戦を支えている物のひとつが「宅配ボックス」です。これはとりわけコロナ禍のタイミングで私たちの生活に浸透し始めた設備で、今や宅配業者とユーザー双方にとってのマストアイテムとして定着しつつあります。
時代を反映しているともいえるこの比較的新しい生活道具は、静かにユニークな進化を続けています。
ユーザー自身が「カギ」になる、万博会場内の顔認証宅配ボックス
宅配ボックスの解錠形式にはいくつかのパターンがあります。その解錠形式が宅配ボックスの特徴・個性ともなり得るのですが、現在開催中の「大阪・関西万博」では、最新型の顔認証機能付き宅配ボックスを実際に試してみることができます(図表2)。この宅配ボックスは万博会場内の「ヤマト運輸 宅配・手荷物預かり西ゲート店」に設置されています。設置といっても単なる来場者向けのサービスではなく、万博のメインテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に沿った、ヤマト運輸としての展示場という側面もあります。
図表2 大阪・関西万博にて展示中の顔認証機能付き宅配ボックス

顔認証であれば、宅配ボックスに付き物のパスワードの記憶や記録、スマホを使った解錠操作などの煩雑さから解放されます。なおかつ、顔認証は非常に高いセキュリティを実現できるため、宅配ボックスには最適といえます。
ヤマト運輸が展示するこの宅配ボックスは「未来の荷物の受け取り体験」をコンセプトに、ハイテクなスマートロックシステムを提供する株式会社ビットキーと共同開発したものです。ビットキーによると、この顔認証式宅配ボックスは今後も荷物の受け取り・集荷の双方において実用化を目指しているとのこと。これからの宅配ボックスの進化に期待したいところです。
AIを利用し、荷物に合わせて変形する宅配ボックス
株式会社NiceEzeが開発した「スマロビAIラック」は、AIを活用することにより、荷物の格納スペースが変形するユニークな宅配ボックスです(図表3)。
図表3 変形式AI宅配ボックス「スマロビ」

集合住宅向けの宅配ボックスでは、適したサイズのボックスが埋まっていれば(つまり配達された荷物が取り出されていなければ)結局は後から来た荷物は再配達になってしまうという問題があります。
スマロビでは、AIで荷物に合わせて格納スペースのサイズを変形させるというアイデアで、宅配ボックスの限られた容量を最大限に活かすことに成功しました。この変形機能により、スマロビAIラックでは、同じ設置面積の宅配ボックスと比べて平均して2倍以上の荷物の格納が可能になったそうです。ユニークな着眼点と問題解決のアイデアで、未来を感じさせる宅配ボックスとなっています。
ありそうでなかった冷蔵・冷凍対応の宅配ボックス
家電をはじめ、さまざまな住宅設備も製造するパナソニックホールディングス株式会社が作り出したのは「集合住宅用冷蔵・冷凍宅配ボックス」です(図表4)。
図表4 「集合住宅用 冷蔵・冷凍宅配ボックス」

温度管理が難しい冷凍・冷蔵品の場合、通常の宅配ボックスがあっても対面での受け取りとするのが原則ですが、この製品であれば非対面での受け取りが可能になります。
また、集合住宅のインターホンや非接触キーシステムと連携させれば、エンドユーザーへの素早い通知も可能。冷凍食品のようにスムーズな受け取りが望ましい荷物にはうれしい機能です。
非対面での発送も可能なネットワーク管理型宅配ボックス
宅配ボックスには、単に荷物を受け取るだけでなく、発送に活用することが可能なものもあります。
たとえば株式会社フルタイムシステムが提供する「フルタイムロッカー」のネットワーク管理機能付き宅配ボックスであれば、24時間365日オンラインで安全に管理されるため、メルカリやYahoo!オークションなどのネットオークションで落札された商品の発送にも使えます(図表5)。ネットワーク型は、素早い通知で荷物の到着から取り出しまでの時間を短縮できるため、少ないボックス数でも効率的に運用できるというメリットもあります。
図表5 ネットワーク管理機能付き宅配ボックス「フルタイムロッカー」

生活の安心・安全を向上させ、より自由な生活を実現してくれる宅配ボックスは、近い将来、冷蔵庫や掃除機のように一家に一台が当たり前になるかもしれません。
執筆
澤田 秀幸
建築ライター。建築科を卒業後、住宅メーカーの木造大工、大手インテリアメーカーの店舗勤務などを経て、現在はWebメディアを中心にフリーライターとして活動中。