“ウィズコロナ”で広がる非対面サービス
– 賃貸、買取査定のオンライン化で効率化・資質向上へ –


新型コロナウイルスによる影響を受けている不動産事業者、賃借人の皆様を支援する施策が拡充・新設されています。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言によって、外出自粛を余儀なくされたことで、対面接客が当たり前だった不動産仲介サービスも“非対面”を余儀なくされました。宣言が解除され、自粛から「新しい生活様式」による日常・経済活動に方針転換された中で、この非対面(オンライン)サービスが定着していきそうです。

不動産業界にも大きな影響

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)拡大防止策として外出自粛、経済活動の自粛が呼びかけられたことで、小売店や飲食店、ホテル、旅行業などでは、売上減少という経済的影響を受けています。不動産業界においても、特に賃貸仲介・賃貸管理業を中心に影響が及んでいます。

株式会社LIFULLが5月に実施した「第3回 新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査」(調査期間:5月8~14日)によると、企業活動に影響が出ているとの回答は95.4%で、第2回調査(4月6~12日実施、91.7%)と比べて増加しました。内訳をみると、最も多かった回答は「売上の減少」で75.3%と前回から約10ポイント上昇。緊急事態宣言(4月7日)から1カ月経過し、コロナの影響がより現実化してきたことがうかがえます。来店者や内見者の減少、問合せの減少についても、前回が70.1%、今回が65.0%(図表1-a)と、外出・移動自粛が営業活動に与える影響が大きいことがわかります。

エンドユーザーの特徴も、コロナ前後で変化が現れています。「新型コロナウイルス発生の影響が出る前と比べて、エンドユーザーの特徴(問合せの内容や申込・契約の傾向)に変化を感じているか?」の問いに、86.2%が「感じている」と回答(図表1-b)。その内容としては、低価格物件の希望や車通勤に伴う駐車場契約、売却依頼などが増加するなど、コロナによって状況が変化したことに対する回答が多くなっています。また、「問合せは増えたが、来店来場につながりにくい」「直接来店(飛び込み)のお客様が減った」(賃貸・売買共通)といった対面サービスならではの影響もあった一方で、「IT重説での契約を承諾してもらえるようになった」(賃貸)との声も挙がっていました。来店・内見自粛は、4月に実施した生活者の住み替え行動についての調査結果にも現れています(図表2-a)。さらに、「不動産会社とのやり取りから内見・重要事項説明・契約まですべてオンラインで対応してくれる不動産会社があれば、住まい探しを続けたと思うか」との問いに対しては、住み替えを中止した生活者の34%、延期した生活者の43%が「続けたと思う」と回答し、オンラインサービスに期待する層が一定数あることもわかりました(図表2-b)。

図表1 第3回 新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査

出典:LIFULL HOME’S調査「第3回 新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査」より抜粋・編集

図表2 新型コロナウイルス感染症の影響による生活者の住み替え行動に関する調査

出典:LIFULL HOME’S調査「新型コロナウイルス感染症の影響による生活者の住み替え行動に関する調査」より抜粋・編集

コロナ禍で需要増の非対面サービス

業界大手として、いち早く非対面接客サービスに取り組んできたLIFULL。2017年10月から本格運用が開始された賃貸物件のIT重説をきっかけに、「オンライン相談/オンライン物件見学/IT重説」サービスをスタートしました。同サービスは、ビデオ通話を使って物件の問合せから見学、契約前の重要事項説明までを非対面で行えるシステムで、幅広いニーズに対応できるようになっています。今回のコロナの影響が、賃貸仲介・賃貸管理会社に大きく及んでいることを受け、同社では事業者支援の一環として、これらサービスを新規導入する「LIFULL HOME’S」加盟店に対して、無償提供を開始しています(9月末まで)。

もともと、サービス開始から利用会員数は年々増加していましたが、コロナの影響が出始めた今年3月には、「オンライン接客・物件見学」サービスの新規会員数は前年比約1.5倍、5月には同約33倍と急増。また、エンドユーザーの「オンライン接客・物件見学」の利用件数も、3月の約3倍から5月には約59倍まで増加したとのこと。同社広報部では、「コロナの影響で外出を控えたいというエンドユーザーが多かったことが、需要増につながったと考えられる」としています。

非対面サービスのメリットは、在宅しながら住まい探しができる点に加え、遠方のエンドユーザーにとっては現地への移動がないという効率的・経済的な利点が挙げられます。さらに同社のビデオ通話による「オンライン物件見学」サービスでは、「パノラマ動画やVRによる内見と比べて、現地に行かないとわからない日当たりや眺望、周辺環境などを、その場で確認できるという双方向のコミュニケーションが取れるため、成約率につながる要素が大きい」ことから、コロナ後も需要があると見込んでいます。一方で、家探しは頻繁に行うことではないため、普及には時間がかかることがデメリットとしています。

「スマホで完結」に予想以上の反響

非対面仲介サービス「AWANAI(アワナイ)賃貸」(図表3)を展開しているイーアス不動産株式会社(東京都文京区)でも、今回のコロナ禍で非対面の問合せが急激に増えたといいます。

「AWANAI賃貸」は、スマートフォンでアプリケーションサービス「LINE」に友だち登録を済ませた上で、探している賃貸物件の立地や条件などの簡単な質問に答えると、該当する物件を提案してくれるシステム。「引越しが決まっていて内見不要」が登録条件で、候補物件についてはメール、IT重説はZoomを使い、契約書と鍵は郵送します。問合せから契約まで、5~7日で完了するというスピード感が大きな特徴となっています。

図表3 「AWANAI賃貸」のウェブサイト(https://awanai.com/)

岡田裕之社長が非対面サービスに着目したきっかけは、やはり2017年10月からIT重説がスタートしたこと。スマホなど高機能携帯端末が普及し、気軽に家を探すことができる環境が整ったこともあり、潜在ニーズがあると考えたといいます。また昨年末に、IT開発を手掛けていた同級生のクレーン淳氏(現在は同社執行役員)と再会したことで一気に動き出し、2月にはパイロット版を公開しました。ただ、1年ぐらい調整期間をおいてから提供しようと思っていたところ、コロナ拡大で一気に問合せが急増。ある意味「非対面サービス」をせざるを得ない状況になりました。

すでに登録件数は1万人を超え、4月以降はコロナ禍でも引っ越さないといけない人の成約が続いたといいます。利用者の年齢層は20~60代と幅広く、「最初はスマホ世代ともいえる20代が多かったが、現状は40代前後がボリュームゾーン。思った以上に利用層の年齢は幅広い」と岡田社長。また、遠距離の引越しに時間・費用がかけられない場合に利用されるだろうと予想していたが、実際には都内や近隣在住の人が「スマホで手軽にできるから」と利用していることが多く、「賃貸への感覚や考え方が少しライトになっているように感じる」と話します。

具体的なシステム開発に当たったクレーン氏は、「他社のオンライン対応では、ホームページやメール、LINEやFacebookなどのハイブリッドタイプですが、このシステムはスマホのみで完結できる点にこだわった。またボット(自動化処理のためのアプリケーション)を使うことで、スタッフを効率的に配置でき、お客様に対してどのスタッフでも対応可能に。非対面によって、お客様・当社双方の効率性が高まる」と説明。内見不要にした理由についても「2年ほど前の大手不動産会社の調査では、非内見希望者の割合は10%。少子化で母数が減ったとしても、内見不要という価値観は確実に定着すると思う」とも。そういった一定層のニーズに対応していくためにも、「スマホ1つでどこまで実現できるか、サービスの充実化を使命に取り組んでいきたい」としています。

イーアス不動産
クレーン淳氏と岡田社長(右)

売買でも非対面サービス可能な段階に

株式会社すむたす(東京都港区)は、不動産仲介会社向けに物件買取査定システム「すむたす買取エージェント」(図表4)を提供し、売買分野における非対面サービスの支援を行っています。

同システムは、過去の実績と現状、物件が立地する地域の人口属性・動態、企業の株価動向など、将来予測を含めてAIが総合的に判断し、価格を導き出す仕組みで、価格査定時間は最短1時間。もとは、同社の基幹である買取再販事業における中古マンションのオンライン買取査定サービスのコア技術で、一般の不動産オーナー向けのサービスとして展開していましたが、不動産は高額商品であるため、いったん仲介会社に相談したいというニーズがあったことに加え、仲介会社からの問合せも増えてきたことを受け、2019年3月から仲介会社向けにカスタマイズした形で提供を開始しました。

図表4 「すむたす買取エージェント」のサービスの特徴

現在、同システムを利用している仲介会社数は約250社。コロナ禍で仲介会社からの問合せが増え、コロナ前と比べ1.5倍程度利用数が増えたといいます。外出自粛要請による売上げ減少や、テナントや入居者の家賃の支払い遅延・滞納などに不安を感じたオーナーが、とりあえず査定価格がどの程度かを知りたいという問合せが多かったようです。角高広社長は、「買取数は増えていないので、結果として様子見が多かったと感じている」と分析しています。利用している仲介会社からは「短時間で査定でき、相談者にすぐに伝えることができるスピード感がいい」「取引につながるような、納得感がある査定価格が出る」「物件の基本的な情報を入れるだけなので、使い勝手がいい」との声が多く聞かれるといいます。

コロナ禍におけるこういった動きについて、角社長は「売買取引の場合では、問合せから契約までに、もともと査定では非対面、契約では対面ニーズが多かったと思います。ただ仲介会社では、査定段階でも対面がスタンダードだったところ、コロナ禍で非対面ニーズが増加したといえる。コロナによる影響が収束しても、当面はこの状態が続くのではないかと考えている」と話します。

角社長

サービス併用で幅広い選択肢を

今後は、第2波も見据えつつ、コロナと“共生”しながら日常生活・経済活動をしていくことになりますが、非対面サービスはどのように定着・普及していくのでしょうか? これについては、取材した3社とも「対面・非対面ともに併用する形になっていくだろう」と予想しています。LIFULLでは、「従来どおりの対面とオンラインとのハイブリッドでのサービスが求められるのでは」とし、それらニーズに対応していくために、不動産会社へのサポート体制を強化して、業界のオンライン化を支援していくとしています。

イーアス不動産の岡田社長も、利用者のニーズに合わせて選択肢があることが重要とし、「まずは非対面サービスを充実させ、スタートラインをそろえる必要がある」と話します。そのため、AWANAI賃貸でもZoomによるオンライン内見サービスや、AIの導入といった効率化・資質向上に取り組んでいます。一方で「やはり顔を合わせる安心感やメリットはある。信頼できる親友となら、メールや電話だけで用事を済ませることができる。AWANAI賃貸は、そういった対面の良さや友人感覚の距離感を大切にしたい」とも。今後、不動産業は対面・非対面の両輪による質の高いサービスが求められていくことになると予想しています。

売買分野については、「売却か買取かによっても状況が異なるが、特に買取では相談から内見、住宅ローンの組み替え、契約に至るまでかなり段階を踏むため、オンラインの余地がある。ユーザーの負担を下げ、事業者の負担も下がるようなオンラインサービスへのニーズは高い」と、すむたすの角社長は指摘します。ただし、「導入の順番が肝心。効率化が進まないような部分に注力しても無駄になりやすいため、できることからではなく、ニーズからサービスを考えることが重要」とのこと。これから非対面サービスを導入しようと考えているならば、「まずはお客様に聞いてみる。“答え”はお客様が持っているので、ニーズを聞いて判断してみるといいと思う」とアドバイスします。