本格的な既存ストックの活用へ
新たな住生活基本計画が閣議決定

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2026年度から2035年度までの「住生活基本計画(全国計画)」が3月に閣議決定されました。これは住生活基本法に基づいて国が定める住宅政策の基本計画のことで、国民が安心して暮らせる住まい・住環境を実現するためのビジョンや方針となるものです。
それによると、2030年には総世帯数が減少し始め、2050年には単身世帯が全世帯の4割を超えると予測されています。新たな計画は従来の「新築重視」から、既存住宅ストックを最大限に活用し循環させる「ストック型社会」への本格的な移行を目指すものとなっています。以下で要点を解説します。

人生100年時代を見据えた3つの視点

新計画では、「住まうヒト」「住まうモノ」「住まいを支えるプレイヤー」という3つの視点から11の目標が設定されました。

まず「住まうヒト」の視点では、人生100年時代を見据え、高齢者が孤立せず希望する住生活を実現できる環境整備が掲げられています。具体的には、住宅資産を活用した住替えやリフォームの促進、リバースモーゲージや健全なリースバックの普及、さらにICT(情報通信技術)を活用した見守り機能の充実などが挙げられます(図表)。

図表:新たな住生活基本計画のイメージ

図表:新たな住生活基本計画のイメージ

出典:国土交通省「新たな住生活基本計画(全国計画)」

不動産事業者には、これらの高齢期の多様な住まい方の提案や、消費者保護に配慮した適切な相談対応が求められるでしょう。また、若年・子育て世帯が希望する住まいを確保できるよう、利便性の高い既成住宅地での「相続空き家」などの有効活用や、アフォーダブル(手頃)な価格での良質な住宅供給にも取り組むことが求められそうです。

次に「住まうモノ」の視点では、多世代にわたり活用される質の高い住宅ストックの形成が目標です。2035年までに、住宅ストックの平均で省エネ基準相当の省エネ性能を確保することや、耐震性の不備をおおむね解消することなどが成果指標として掲げられています。

なかでも重要とされるのは、住宅の性能や維持管理状況が市場で適正に評価され、循環するシステムの構築です。具体的にはインスペクション(建物状況調査)の徹底や住宅履歴情報の蓄積、リフォームによる性能向上を価格に反映させる査定評価法の確立などです。不動産流通においては、築年数だけで価値を判断するのではなく、適切な維持管理が行われている物件を高く評価する仕組みを、金融機関などと連携して構築していくことが期待されています。

また、住宅の「終活」ともいえる、適切な管理・再生・活用・除却の一体的な推進も大きなテーマとなっています。空き家の発生を未然に防ぐため、所有者に対する周知啓発や、官民連携による空き家相談窓口の充実が求められます。マンションにおいても、管理計画認定制度の普及や、老朽化マンションの再生・建替えを円滑化するための法整備と金融支援がより一層強化されることになります(写真)。

写真:ベッドタウンの様子

ストック価値を最大化させる「主役」

「住まいを支えるプレイヤー」の視点では、担い手の確保・育成とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が鍵となります。生産年齢人口の減少により、住宅建設に関わる技能者や建築士などの専門家が不足することが懸念され、これに対応するために、女性や外国人を含む多様な人材の活躍支援や、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用による生産性向上を図ることが大切です。不動産分野においても、不動産IDの活用や「不動産情報ライブラリ」の提供、重要事項説明のデジタル化などを通じ、取引の効率化と透明性の向上がより重要度を増すことになります。

「居住支援」の充実も強調されています。単身高齢者の増加などにより、不動産事業者にはこれまでの家族機能に代わる存在として、日常の変化に気づき、必要な専門家へ「つなぐ」役割が地域に求められるようになるはずです。福祉関係者やNPOなどと連携した「居住支援協議会」の設置や、住宅確保要配慮者が安心して入居できる民間賃貸住宅市場の整備の役割も担う必要がでてきそうです。

大都市圏では利便性に優れた都心部などでの住宅価格の上昇や、インフラの整った既成住宅地での空き家増加といった特有の課題があります。これらの地域では、既存の住宅・住宅地をライフスタイルに応じて更新・改修し、実需に基づいた円滑な継承を促進することが重要とされています。不動産事業者にはこれまでの仲介にとどまらず、既存住宅の性能向上リフォーム、資産活用コンサルティング、DXによる業務効率化、そして福祉と連携した居住支援など、多岐にわたる分野で官民の連携が求められようとしています。住宅ストックの価値を最大化させる主役として、今、現場を支える不動産事業者の役割に、従来以上に期待が高まっているのではないでしょうか。


田中 直輝

住生活ジャーナリスト

田中 直輝

昭和45年(1970)、福岡県生まれ。大学卒業後、約10年間にわたって住宅業界専門紙に勤務。主に大手ハウスメーカーを担当、取材活動を行う。その後、独立し、東洋経済オンラインなどに寄稿。