コロナで変わるこれからの住宅ニーズ
– テレワークの浸透で職住融合の動きが活発に –
新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業がテレワークを導入しました。この動きは大なり小なり定着していきそうです。ウィズコロナによるテレワークの浸透によって、職場と生活の場がボーダーレス化していけば、これからの住まいの選び方が変わっていくことが予想されます。
テレワーク実施47%、コロナ起因は約7割
株式会社リクルート住まいカンパニーが5月に発表した「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態調査」(調査実施時期:2020年4月17~20日)によると、テレワークの実施率は全体の47%で、前回調査(2019年11月)と比べると30ポイント上昇しました。全体の約7割が「コロナの影響でテレワーク(リモートワーク)を始めた」としていて、コロナによってテレワークをせざるを得ない状況に陥った人が多いことがわかります。
受動的にテレワークが始まったことで、テレワークに際する不満は「オンオフの切り替えがしづらい」が35%と最も高く、また「仕事専用スペースがない」(33%)、「仕事用のデスク/椅子がない」(27%)といった、家で仕事をする前提がなかったことによる不便さを感じていることも示されました(図表1)。さらに家族構成別にみると、6歳以下の子どもと同居する既婚者で、「子どもを見つつ仕事可能な環境(部屋・スペース)がない」(46%)、「1人で集中するスペースがない」(28%)などが、ほかの家族構成と比べて高い割合となっており、乳幼児や未就学児がいる家庭でのテレワークの課題が浮き彫りになりました。
テレワークの実施場所は、「リビングダイニング(ダイニングテーブル)」が全体の55%と最も多く(図表2)、6歳以下の子どもと同居する既婚者では71%に上りました。
またテレワークに対する自宅環境整備状況については、前回調査時では7割が整えていましたが、今回調査では4割。今後整備したいと考えている点については、「仕事用の部屋をつくりたい」(19%)、「仕事用のデスク/椅子を設置したい」(18%)など、現状の不満を解消し、仕事の効率化につなげたいとの意向がみえます(図表3)。
住み替え希望は24%
さらに、コロナ終息後もテレワークを行う場合の間取りや住み替えの意向については、間取り変更は約半数が希望し、仕事専用の独立スペースに対するニーズが31%と最も高い結果となりました。また、全体の24%が現在の家からの住み替えを希望し、条件としては、現在よりも部屋数の多い家が40%、広いリビングと個室数の確保(ただし個室は狭くても可)が27%となり、部屋数や個室数を重視する傾向が現れています(図表4)。
個室追加し「5LDK」に変化?
同社では例年、年末に次年度のトレンド予測を発表しており、2020年の予測は「職住融合」とし、コロナ以前からテレワークの普及による働く場所の多様化を指摘していました。その理由は、自宅の一部をオフィス化する「家なかオフィス化」、コワーキングスペースの誕生による「街なかオフィス化」の動きがあり、実際に家の中にワークスペースを作るリノベーション事例も増えてきていました。また、テレワークに加えオンラインセミナーも増えており、子どもが通う塾でもオンライン授業があるなど、オンライン化が増えつつある状況だったといいます。同社SUUMOリサーチセンターの池本洋一センター長は、「コロナによるテレワークの実施が、これらの動きを加速。今後の住宅ニーズとしては、リビングの多機能化がトレンドになるだろう」と予想します。
すでに大手メーカーでも、マンション共用部へのワークスペース設置が増えているほか、新築分譲マンションでウォークインクローゼットをテレワークスペースに無償で変更するメニュー(三菱地所レジデンス株式会社)が登場したり、注文住宅でもテレワーク空間を提案(大和ハウス工業株式会社)したりする動きが出始めています。いずれも2~3畳の個室スペースを設置するプランで、「こういった2.5畳や3畳といった間取りの変更が増えるのではないか」と指摘しています(写真1)。
また、前述の調査で示されたリビングの広さと部屋数の両方を満たしたいニーズを受け、「これまでは70㎡・3LDKが戸建住宅の標準間取りだったが、リビングダイニングの広さを変えずに、2.5畳や3畳のワークスペースを1~2室配置して4~5LDKに変更する可能性は高い」。主寝室を少し狭くしてワークスペースを確保したり、パーテーションを使うことでスペースを可変したり、多様化する生活様式に対応できるように工夫されたプランが、実際に東京エリアで売れ始めているといいます。
賃貸住宅の間取りについても、将来的にはこういったニーズに対応していく可能性が高い一方、「借り手を選んでしまうのでハードルは高めだが、壁側にロングテーブルやフラップテーブルを設置するなど、チャレンジは増えている。さらには、この5年程度で環境が整ってきた賃貸DIYを後押しするきっかけになる」とも話しました。
住宅性能ニーズも高まる
テレワークで在宅時間が長くなったことで、住宅性能への関心も高まっています。コロナの感染対策で注目されるようになった通気性・換気性、さらには採光や冷暖房機能を担保する断熱性に加え、特に現在の住宅性能への不満として目立つのが遮音性です。生活音が気になり仕事に集中しにくい、リモートによる打ち合わせや会議が増えたことで遮音性の低さに気づくなど、特に賃貸住宅は持ち家(戸建住宅、分譲マンション)と比べて住宅性能が比較的低いため、音に関する不満やクレームが出やすい傾向にあります。住宅性能については、全国共通で15~20%のニーズがあることから、居住快適性を重視した住み替えの動きも、今後増加していくと見込まれています。
住み替えはテレワーク継続率30%が目安
緊急事態宣言が解除(5月25日)された後、フルリモートから週数回のテレワークへの移行、さらにオフィス勤務を前提とした通常体制に戻りつつあります。公益財団法人日本生産性本部が7月に発表した調査(「第2回働く人の意識に関する調査」、実施期間7月6~7日)によると、テレワーク実施率は20.2%と前回調査(5月)と比べて11.3ポイント下落しています。
では今後、どの程度のテレワーク実施率であれば、実際の「住み替え」行動に結びついていくのでしょうか? 池本さんは、「企業のテレワーク継続率30%が目安になる」と言います。リクルート住まいカンパニーの調査では、テレワークが続くなら4人に1人が住み替えを検討(24%)すると回答していることから、実際の住み替え実行率20%で計算すると、「実際のテレワークをきっかけとした移動予想率は1.5%程度※。賃貸を含めた1年の総移動数は約250万~280万世帯です。日本の総世帯数を5,000万世帯とすると、全体の総移動率は5%。そう考えると、1.5%程度の予想率は少なくないと考えています」。この試算から、100万~130万世帯が住み替えに動く可能性が高いと指摘します。
※テレワークをきっかけとした移動予想率=24%×30%(テレワーク継続率)×20%(住み替え実行率)=1.44%
コロナによる変化は東京など大都市圏
一方で「地域差はかなりある」とも。「他シンクタンクの調査をみると、テレワーク率が首都圏では48%ですが、地方では10%以下と大きな差があります(図表5)。地方ではマイカー通勤が主流で、通勤による感染リスクが低くなっており、都市部では電車やバス、地下鉄など公共交通機関を利用するため感染リスクが高い。つまりコロナによる住宅ニーズの変化は首都圏や大都市圏中心だということを認識しておく必要がある」としています。
その上で、「新築住宅であれば通勤も視野に入れた近郊都市や主要駅近辺のマイナー駅エリア、中古住宅であれば湘南や房総などの自然のあるリゾートエリア、関東甲信越エリアを範囲とした地域の物件の閲覧数が増えていることから、今後の住み替えの動きとしては、利便性がある都市派とリゾート&自然派に人気が二極化されていく」と予測しています。
賃貸向けワークスペースリノベを提案
不動産仲介サイト「リノベ百貨店」を運営するエイムズ株式会社(東京都中央区)は、コロナ禍でテレワークをせざるを得ない状況だったときに、今後のテレワーク需要を見据え、賃貸住宅向け「書斎リノベーションパッケージ」を発表しました。
居室の一部や収納スペースを活用し、ドアを付けて完全個室になる“書斎”を設置。テレワークで使用しないときには、ウォークインクローゼットとして利用できることが特徴です(写真2)。
もともと同社には大工部(施工部門)があり、ウォークインクローゼットといった賃貸住宅の利便性を高めるようなリノベーション企画を提案していました。「今回のパッケージは、特にオーナーや入居者の要望を受けてから企画したというよりは、働き方改革への取り組みの一環で、在宅ワークが広がりつつあったコロナ以前からの動きに対応して企画しました」と、代表取締役の松島力氏。コロナ禍でテレワークをせざるを得ない状況になった人が増え、将来的に一定規模で定着する可能性が高いことが、企画提案を行うことを決めた理由でした。
また賃貸物件の場合、部屋の使い方は固定されていることが多いですが、同社ではこれまでの施工実績から、単一機能ではなく、「クローゼットまたは個室」と併用機能を持たせることで、新たな付加価値になり得ると判断。さらに、単身者世帯よりも共働き世帯や子育て中のファミリー層のほうが、ワークスペース確保へのニーズが高いと想定し、開発を進めたといいます。
テレワークの定着を見据えた提案強化
「一部分のリノベーションだと施工費も安いのでオーナー様も受け入れやすく、完成後には『リノベーションしてよかった』と言っています。入居はこれからですが、反響はあると考えています」(松島氏)。コロナによって、在宅勤務の位置づけやあり方も変わっていくなかで、「ウィズコロナでは個室ニーズが出てくると考えています。画一化よりも広さ、年代層によるターゲティングが今以上に必要になると思います」と松島氏は話します。例えば共働き世帯で2人ともテレワークの場合、ダイニングは1つしかないため、リモート会議があるときなどに生活音が気になることがあります。より集中して仕事をしたいというニーズには、玄関から寝室を抜けた奥にワークスペースをつくったり、ドアを付けて音をシャットダウンできるようにしたりするなど、状況に応じて提案することを大切にしました。導入実績は3件。そのうち1件は1.5畳とかなりコンパクトサイズに仕上げました。
コロナの感染拡大が進んだ3~5月は、問い合わせ自体が止まっている状況でしたが、緊急事態宣言の解除以降は回復し始めているとのこと。「今後はこのプランの事例を増やしていきながら、ウィズコロナでの暮らしに合わせたワークスペースの提案を推進していきたいと思います」。