変わり続ける山林の需要
– コロナ禍で生まれたさらなる多様性 –


アウトドアを楽しむため、個人で山林を買う人が増えているといいます。
これは近年見られるキャンプブーム(図表1)に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う環境の変化がその背景にあります。
そこで創業以来、ほぼ四半世紀にわたって山林売買に携わっているくじら不動産(青森県・八戸市)代表の葛西氏に、これまでの山林売買の傾向とコロナウイルスの影響がもたらした個人需要に関して話を伺いました。

キャンプ人口は年々増加している

図表1 オートキャンプ参加人口の推移

出典:一般社団法人日本オートキャンプ協会

不動産バブル後に起きたリゾート開発の需要

まずは山林取引に携わるようになった経緯を教えてください。

起業した時、山林を扱う業者が少なかったこと。それがそもそものきっかけでした。当時は90年代半ばということもあり、世の中が不動産景気に沸いていた時代。当社も宅地の仲介、売買等を行っていましたが、仕入れの競争が激しく、とても苦労したことを覚えています。それなら宅地以外に他社が手を出していない領域にも手を伸ばそうと考え、山林を扱い始めたのです。ただ、5年くらいほとんど反響はなく、軌道に乗り始めたのは山林の買い取りに注力し始めた頃でした。競争相手も少なかったので割安で買い取ることができましたし、買い取りを続けたことで人脈もでき、扱うエリアも全国へと広がりました。

山林の売却が増えていったのはその後ということですね。

そうです。当初は家庭菜園などに利用する顧客が多かったですが、2010年前後でしょうか、リゾート開発用地として大手企業からの問い合わせと購入が、山林関係者からの紹介を元に急増したのです。県内であれば十和田湖周辺、県外でいえば岩手八幡山周辺、宮城蔵王、伊豆半島、房総半島、三浦半島、軽井沢など。沖縄や宮古島など南のエリアも要望があれば、どこへでも探して、売却していました。そして、リゾート需要の次に増えたのがソーラー、風力、バイオマス発電等の再生可能エネルギーの用地需要です。いずれも広大な土地を要するので山林が必要だと。そのような問い合わせが増え、100町歩ほどの山を探し回ることもありました。再生可能エネルギーの需要は2年ほど前に一旦落ち着きました。

図表2 人気エリアの林地取引数(2019年第3四半期~2020年第2四半期)

国土交通省「土地総合情報システム」を参考に作成

関心の高まりと同時に専門家として伝えること

では、個人の需要はいかがですか。

周知のとおりコロナの影響で、個人からの問い合わせは例年より3割ほど増えています。問い合わせ内容は様々で、キャンプやサバイバルゲームを楽しむための場所として、また、キャンプから派生した「たき火鑑賞・薪ストーブ」のために薪が必要だと。その都度、薪を購入するのではなく、薪を調達するために山林が必要という方も多くいます。また、近年は山林やリゾート物件を貸していますので、企業がリモート用の仕事場として借りるケースも増えています。現在、キャンプ需要で山林は注目を浴びていますが、それ以前から「生活」と「趣味」の場を分けて生活する、いわゆる二拠点生活の需要も高まり、当社の山林、リゾート物件を求める方も多くいました。

山林の需要は時代背景を色濃く反映しているといえますね。

現在の需要を見る限り、注目されているのは関東周辺の山林と言えそうです。ただ、来年もコロナウイルスの感染拡大が収まらなければ、需要はさらに広範囲に及ぶかもしれません。山林に関心を持つ人が増えてうれしい反面、その際は意識をもっと高めてほしいと願っています。

その点を詳しくお話しください。

購入したら自分の所有物となるわけですから管理や手入れを徹底してほしいですね。草木の伐採など定期的に行わなければ、すぐに荒れ地になってしまいます。手入れをしなければ売却するときには価値はありません。

野生動物との共存も重視しなければなりませんし、自然災害が起きた際は自分で復旧しなければなりません。道に木や土砂が流れ込んだときの補修の請求は購入者に課せられます。山林は安く購入できる分、維持するためには何倍もの費用が掛かるのです。個人相手に取引をする場合は、専門家の立場としてしっかりとその点を伝え、各々が納得したうえで山林の魅力を味わってほしいですね。

二拠点生活のトレンドも山林需要に拍車をかける

都心と里山など、二拠点での生活を楽しむ二拠点生活も昨年頃からトレンド化しています。シニアのセカンドライフ的な意味合いを持っていた“田舎ぐらし”も若年層化していることから、コロナの感染拡大が収束しなければ、テレワークが定着しつつある現在、需要は伸びそうです。

出典:株式会社リクルート住まいカンパニー「デュアルライフ(二拠点生活)に関する意識・実態調査」2018

※現在二拠点生活を実施している東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県に在住の20〜60代の男女を対象に調査。


葛西 慶信 氏

有限会社くじら不動産 代表

葛西 慶信氏

1997年、くじら不動産を創業。前職は漁業を営んでいたが、基幹産業に携わりたいという想いから転身。山林購入の希望者に対し、これまでの人脈を活かし、伐採をはじめとした山林管理の講習会を開催して、さらなる普及に努めていきたいと熱心に語る。