犯罪や災害からまちを守る
「地域BWA」という通信網


家畜や農作物の盗難など、人目を盗んだ事件が地方で頻発しているいま、「早期解決かつ防止するためには、地域を見守るもうひとつの目が必要だ」と木曽岬町(三重県)の中里氏は語ります。同氏が勤務する町役場では、総務省が推進する「地域BWA」という電波を活用した地域サービスが実施され、各方面から注目を集めているといいます。その詳細を中里氏に伺いました。

通行人が少ないからこそ確かなもうひとつの目を

―地域BWAについて教えてください。

そもそもBWAとは通信回線を指し、“全国”と“地域”の2つに分類されます。「全国BWA」は主に携帯電話事業者等が利用する電波帯域で、それに干渉しない電波帯として地域ごとに割り当てられているものが「地域BWA」となります。地域BWAは高速通信が可能なうえに、災害時でも混線せず、安定しているのが大きな特徴です。

それに、木曽岬町はこの電波を活用するのに適した場所でもあるのです。というのも木曽岬町の面積は15.74平方キロメートルとコンパクトで、高台や高層ビル等もない平地が続くエリア。電波活用の好条件が揃っているなら町内全域を電波エリアにして、住民に様々なサービスを提供しようという案が当庁で挙がり、町内に電波塔4基を設置して、令和2年度から地域BWAを活用した住民サービスを始めたのです(「地域BWAを活用した安全・安心まちづくり事業」)(図1)。

図1 木曽岬町 地域BWAを活用した安全・安心まちづくり事業

町内に4基の電波塔を設置し、全域を電波エリアに。また、「みまもりセンサー」を全88カ所に配置し、ゲート方式(ビーコン)を採用することで住民の安全を担保する。みまもりセンサー88基のうち26基は防犯カメラ付き

―どのようなサービスですか。

子ども・高齢者みまもりサービス、防犯対策安心サービス、指定避難所公衆Wi-Fiサービス、自主運行バス運行状況通知サービス、浸水予測水位確認サービスの5つになります。その中でも特に、子ども・高齢者みまもりサービスと防犯対策安心サービスは意義のあるものだと我々は実感しています。

子ども・高齢者みまもり&防犯対策安心サービス

防犯カメラ付き「みまもりセンサー」は、出入り口付近と主要道路に設置
スマートフォンとペアリングされているビーコンタグ。小学生は無料配布

―それはどうしてですか。

近年、全国的にも子どもが巻き込まれる事件が多く発生しています。当町は農村地域ということもあり、決して通行人が多い地域ではありません。常日頃、子どもたちが登下校するときなど、見守る目が不足していると感じていました。しかし現在は、「みまもりセンサー」を町内に88カ所、うち「防犯カメラが付いたみまもりセンサー」を26カ所に設置し、見守りの目を強化しています。地域BWAがどのように関係しているかというと、小学生の希望者全員に発信機となるビーコンタグを無償で配布させていただいているのですが、そのタグを持った子どもがみまもりセンサー付近を通過すると、「〇〇の前を〇時〇分に通過しました」という通知が、スマートフォンの専用アプリに送信される仕組みになっているのです。通知を受信した保護者は子どもの安否を確認することができます。町内に張り巡らされているBWAが通信網としての役割を果たしているわけです。このビーコンタグは、小学生以外の子どもや高齢者でも有償となりますが利用していただくことができます。

地域の特性を生かして不審者の介入をゼロに

―防犯カメラはどのように活用されるのでしょう。

通常、防犯カメラは商店街など人通りの多い場所や交差点等に設置されていますが、木曽岬町の防犯カメラは少し性格が異なります。木曽岬町は輪中地域ということもあり、町内外を行き来するための道路が限られています。ですから出入り口となる道路の全てにカメラを設置することで、町内外を往来する車や人はすべてカメラに撮影されることとなります。この取組みを周知徹底すれば、町に不審者は入れないだろう。そう、我々は考えているのです。また、万が一事件が起きたとしても日時を指定すれば、瞬時に防犯カメラの映像を当庁の管理室に配信できます。この取組みを始めてから7件ほど警察から事件や事故に関する映像の提供依頼がありましたが、防犯カメラの映像を元に、犯人検挙や捜査の手掛かりになったと報告を受けています。

―地域BWAを活用したことで、木曽岬町も早期対応ができたわけですね。

はい。当庁が取り組んできた「地域BWAを活用した安全・安心まちづくり事業」の整備に関しては、現行の5つのサービスはあくまでも第1期整備と考えています。今後は地域住民と意見交換をしながら「地域BWA」をどう活用すれば、地域の課題や悩みを解決できるか、もっと便利な町にすることができるか、地域住民や地元企業と一緒になって考えていくことが第2期のスタートと考えています。個人的には、木曽岬町は農業が盛んなので、水稲の現場で田に足を運んで直接水位を確認するのではなく、センサーを活用した水位の確認や、ある程度水がたまればセンサーでゲートが閉まるといったスマート農業の推進を考えています。このようにアイデアが浮かんでくるのも、地域BWAといった通信網があってこそのことだと思っています。

浸水予測水位確認サービス

水位を撮影したカメラの映像は、CATVや専用アプリで確認できる

自主運行バス運行状況通知サービス

町唯一の公共交通である木曽岬町の自主運行バス。住民に運行状況を把握してもらうため、センサーによる定点通過情報を取得するとともにGPS端末を車両に搭載。バス利用者にバスの現在地情報を提供している。位置情報の確認はスマートフォンのほか、幅広いバス利用者に対応するためCATVでも行っている
木曽岬町役場 危機管理課 中里 満博氏