不動産実務者が知っておきたい 建築基準法改正のポイント
-既存建築ストック活用を中心に-
2018(平成30)年9月、2019(令和元)年6月および2020(令和2)年4月と、建築基準法および施行令の改正が行われています。不動産実務においては空き家等の利活用の可能性が拡がる内容になっています。
法改正の背景および概要
一連の建築基準法改正の背景としては、①建築物・市街地の安全性の確保、②既存建築ストックの活用、③木造建築をめぐる多様なニーズへの対応があげられています。
①については、糸魚川市大規模火災(平成28年12月)や埼玉県三芳町倉庫火災(平成29年2月)などの大規模火災による被害を踏まえ、建築物の安全性や密集市街地の解消を進めようとする施策で、不動産実務において知っておきたいポイントは「建蔽率の緩和要件」が拡大されたことです。以前は防火地域で耐火建築物であれば10%緩和されていましたが、改正により、準防火地域の耐火建築物等または準耐火建築物等でも10%緩和されることとなりました。これは糸魚川の火災が準防火地域であったものの、築年数の経った木造住宅が密集していたことが大火の要因のひとつであったことと、準防火地域において延焼を防止する性能をもった建築物への建替えを促進することが狙いとしてあります。
②については、空き家等を福祉施設・商業施設等に用途変更する際に、大規模な改修工事を不要とし、手続きについても合理化を図る施策です。不動産実務において知っておきたいポイントは「用途変更による確認申請」が必要となる規模が「100㎡超から200㎡超」へ見直されたことと、「小規模建築物(延べ面積200㎡未満かつ階数3以下)」の建築物に対する防火・避難規定が緩和され、既存建物の利活用の可能性が拡がったことです。
③については、木造建築物等に係る制限が緩和され、不動産実務において知っておきたいポイントは、「耐火建築物等とすべき木造建築物の対象」が「高さ13m超・軒高9m超」から「高さ16m超・階数4以上」となることです。
そのほかにも「老人ホーム等に係る容積率制限の合理化」(共同住宅と同様に、老人ホーム等の共用の廊下・階段の床面積を容積率の算定対象外に)や「条例による接道規制の強化が可能な建築物の対象拡大」(袋路状道路にのみ接する大規模な長屋等の建築物について、条例により、共同住宅と同様に接道規制を付加することを可能に)、「共同住宅等の界壁に関する遮音規制の合理化」(天井を基準に適合する遮音性能を有するものとすることで、界壁が小屋裏、天井裏に達するものでなくてもよい)等、今回の改正は多岐にわたる大規模な法改正といえますが、やはり社会的な問題となっている空き家活用を促進する改正がポイントです。
「小規模建築物」の用途変更の可能性が拡大
今回の法改正で顕著なのは「小規模建築物(延べ面積200㎡未満かつ階数3以下)」に対する防火・避難規定の緩和です。法改正前であれば、既存の3階建ての建物を福祉施設等に用途変更しようとした場合、耐火建築物とする必要がありましたが、今回の改正で警報装置の設置等、在館者が迅速に避難できる措置をとれば耐火建築物とすることが不要となりました(図1)。また2階建てでも3階建てでも福祉施設等がその階で50㎡を超える場合は2以上の直通階段が必要とされていましたが、これについても、この4月の施行令改正で「小規模建築物」であれば階段の安全確保を図るための区画等を設けることで、階段は1つでも適合することになります(図2)。加えて同じく4月の改正により「小規模建築物」の場合、「敷地内通路」の幅が法改正前は1.5m以上必要であったものが90㎝以上確保すればよいことになります(図3)。これらの緩和は「小規模建築物」の「新築」も対象になりますが、メリットが大きいのはやはり既存建築物の用途変更といえます。法改正以前は、福祉施設等への転用を検討しても大規模な改修工事が必要であることが判明し、事業化できないケースが数多くあったと思われますが、今後は可能性が拡大すると思われます。なお、注意が必要なのは、今回の法改正で用途変更の手続きが合理化され、200㎡以下であれば確認申請が不要となりましたが、法令を遵守した用途変更としなければならないのは当然のことのです。ただ手続きが合理化されたことで、確認の審査にかかる時間が不要となることは事業化のスケジュール等を見通すうえでは大きなメリットがあり、建物所有者への事業提案は行いやすくなると思います。
タクミプランニングサポート
一級建築士事務所
溝渕 匠
Mizobuchi Takumi
一級建築士、既存住宅現況検査技術者、公認ホームインスペクター(住宅診断士)1990年(株)巴組鐵工所[現(株)巴コーポレーション]入社。2003年に建築設計事務所として独立。現在は住宅の検査・診断を中心に活動。