“住み放題”を提供するサービスでいまや住居は“所有から共有”する時代に


「2033年までに20万物件を確保することが私たちの目標です」。そう語るのはサブスク型※1多拠点居住サービス『ADDress』を展開する株式会社アドレス 拠点開発 兼 UXデザイン事業部長の後藤氏。サービス当初は、11物件ほどだったいう家はわずか2年ほどで120を超えるまでに増加。なぜ、所有が目的だった住居に、サブスクの概念が成立したのでしょうか。その背景等を後藤氏に伺いました。

※1 サブスク型:料金を支払うことで、製品やサービスを一定期間自由に利用することができるビジネスモデル「サブスクリプション」

固定概念を払拭したシェアするという概念

―多拠点居住サービス『ADDress』立ち上げの経緯を教えてください。

クラウドファンディングで会員を募ったのが2019年4月で、一般募集開始が同年の10月下旬。すでに世の中は、地方から都市部への人口流出が加速している状況で、全国的な空き家増加が大きな社会問題となっていた時期でした。創業前から、仲間内で「増えていく空き家をどうにか活用できないか」「都市部に住んでいる人に地方の空き家を活用してもらえないか」という話をよくしていたんです。移住しないまでも都市部に住んでいる人にも地方に足を運んでもらいたい。都市にも地方にも人の流れを作って人口をシェアしようと、話し合っているうちに、シェアという言葉がヒントになって、『ADDress』の構想ができたのです。

あれは2010年頃でしょうか。「所有から共有」、いわゆるモノをシェアするといった時代の波が生まれて、住宅をその他大勢が共有する「シェアハウス」という概念が都市部で浸透し始めたのは。高いローンを組んで都内で土地を購入し、家を建てる、その後、ローンを返すために働くといったこれまでの価値観は少しずつ薄れてきたとも感じていました。

図表1 『ADDress』の仕組みと流れ

拠点(物件)のオーナーは空き家を『ADDress』に貸し出すことで家賃収入を得ることができます。個室を確保しつつ、リビングやキッチンなどを共有し、快適な空間を提供。共有となる家具・wi-fi・光熱費を含めて月額4万円(税別)で利用が可能です。

―人々の価値観の変化がサービス開始の追い風になったと。

はい。その頃から勤め先の近くに家を構えるのではなく、もう少し自由に、時には移動しながら暮らすといったスタイルの準備が出来上がりつつありました。加えて、デジタルノマド※2の増加、二拠点生活や移住の需要が高まってきていることもアンケート調査等で把握していました。その後、いろいろと検証した結果、多拠点居住&定額住み放題サービスを立ち上げれば、十分な利用者を見込めるのではないか。と同時に、空き家の増加や人口の一極集中等の社会問題も解決する一助になるのではないか、そう考えて『ADDress』というサービスが立ち上がったのです。

※2 デジタルノマド:ITを活用して仕事をしながら旅をするライフスタイルのこと

―やはりユーザーは、若い世代が多いですか。

いえ、20~70代と幅広くご利用いただいています。ただ、最近は20〜30代の会員が非常に増えています。リモートワーク、ワーケーション、将来の移住先検討等、いろいろなニーズがあるようです。50代以上でいえば、セカンドライフや仕事をしながら全国を旅して暮らすといった会員が多くいます。

暮らしを提供するという新たに感じた気づき

―会員が利用する物件数が急ピッチで増えていますが、どのような仕組みを構築しているのか教えてください。

何通りかありますが、ひとつは公式サイトで空き家物件をエントリーする仕組みです。全国の不動産所有者がエントリーした物件から、条件に見合ったオーナー様にこちらから連絡をして、活用させてもらっています。あとは、業務提携している不動産事業者からの紹介や自治体からの紹介。最近では、不動産投資をしている方からの連絡というのも増えています。当社のビジネスが世間的に認知され、その輪が広がっていることを実感しています。

―不動産事業者とはどのようなやり取りをしているのですか。

通常の賃貸と同様で、設備面はオーナー様負担、家具や備品などは当社が揃えて、会員が利用できる準備をしています。初期費用がかかったのであれば、数年で回収できるように家賃設定をしてオーナー様にお返ししています。また、不動産事業者にはオーナー様と当社をつなぐ役割をしてもらっています。仲介のみ行う事業者もいますし、その後の管理を行う事業者もいます。その点は、一般的な市場と変わりはありません。

―これまでを振り返って、『ADDress』が世の中に与えている価値をどのようにとらえていますか。

住み放題の家を提供するだけではなく、暮らしを提供しているんだと強く感じます。我々は住居というハード面の整備に徹してきましたが、人が住む空間を構えたことで、家守(やもり)※3と会員同士の交流、さらには地元の人との交流が生まれ、『ADDress』には新たなコミュニティ形成の役割があるといった話を会員からよく聞きます。コロナの影響で日々の暮らしが一変してしまったことが影響していると思いますが、『ADDress』立ち上げ当初に得たヒント“モノをシェアする”ことで生まれた産物が、好循環を与えているのであれば、これほどうれしいことはありません。

※3 家守:『ADDress』の家での生活をサポートする地域コミュニティ・マネージャー

引退したブルートレインの車両をリノベして活用。3車両のうち2車両を滞在施設、1車両を共有スペースに。
人気温泉地、大分県別府市の家には、24時間利用可能な露天風呂も完備。徒歩圏内には鉄輪温泉がある。

ADDressが掲げる今後の目標

全47都道府県の家開設と2030年までに20万物件の確保

『ADDress』の家は120まで増加(2021年2月時点)し、年内に300物件の確保を目指すといいます。そして2033年までに“家は20万物件、会員数は100万人”という具体的な数字を掲げます。その理由は、いま、全国に約800万戸あるといわれている空き家の件数が2033年には2,000万戸以上に及ぶと推測されており、その1%に当たる20万戸を『ADDress』が確保することで、より多くの人に、新たなライフスタイルを構築してもらいたいという考えがあるからです。


後藤 伸啓

株式会社アドレス
拠点開発 兼 UXデザイン事業部長

後藤 伸啓 氏