外国人との共生に向けて 2
地域密着だからできる事業を通した社会貢献
外国人の居住問題が浮き彫りになるなか、「外国人が安心して生活できるよう、住まいの面でフォローするのが私の役目」。そう語るのは、兵庫県西宮市で不動産事業を営む鈴木治郎氏。外国人労働者が急増する西宮市・武庫川エリアで、自らオーナーとなり、外国人向けシェアハウスを運営する同氏にその経緯等を伺いました。
地域に根ざすことで見えてくる課題
―外国人向けシェアハウスの運営を始めたきっかけはなんでしたか。
数年前に、ベトナム人労働者の人材派遣を行っている企業から「大勢の外国人が住める住居はないでしょうか」と相談を受けたことが、そもそもの始まりでした。当初は、普通の賃貸物件に斡旋することや、古い物件を改修して寮として共同生活をしてもらえないかと、いろいろな提案をしていたのですが、話が進んでいく中で、勤務先となる工場から自転車で15分くらいの場所に空き家の売り物件を見つけて。再建築不可のため、買い手がつかない空き家だったので、交渉して少し安く購入することができました。内装、消防・防火設備、風呂場を撤去してシャワールームを2基新設するなど工事を施してもらい、家具や備品も揃えました。
そうして完成したのが「シェアハウス鳴尾」なんです。
シェアハウス鳴尾
「シェアハウス鳴尾」は築32年の木造2階建ての4LDKの間取り。1部屋を1~2名で使用、定員は5名。家賃は2万5000円、光熱費は1人5000円を徴収し、建物所有者である武庫川住研の鈴木氏がまとめて支払っている。
ごみの捨て方に関しても、わかりやすくまとめて、住人の共有場所に貼り出している。
―運営も鈴木さん自らが行っていると聞きました。
はい。当初、運営や所有に関しては人材派遣会社や派遣先企業にお願いできないかと考えていましたが、あまり現実的でなかったので、シェアハウス運営のノウハウはないながらも弊社が行うことになりました。外国人向けにシェアハウスを所有して運営するということに不安はありましたが、それ以上に土地建物の再販の方法はありますので、仮に失敗してもリカバリーは十分可能だと思っていました。物件は駅からも遠くなく、昔からの住宅街で環境は良かったですね。その反面、古い住民さんが多い地域だったので、シェアハウスの準備段階から近所へ根回しをするために、自治会長さんや近くの顔役の方へこまめに訪問しました。当初から外国人向け住居として準備をするなかで、外国人の姿が急に増えたときに、周辺の住民から不審に思われないか心配しておりましたので、外国人がシェアハウスとして使用することを説明し、皆さんに理解していただきました。
―地域を十分に把握していないとできない話ですね。
それはありますね。弊社はこの地で20年ほど売買仲介を中心に、賃貸仲介、大家業を営んできました。売買仲介に関しては、店舗から半径1~2キロメートル以内で事業を行っています。一時期は、もう少し範囲を広げようと試みましたが、やはり自分たちの“強み”を徹底的に生かし、地元で集中的に行う方針に立ち返りました。強みというのは、地元での当社の認知度です。先代がコツコツと行ってきたチラシの配布を継続的にしてきたことで、地元の方々に「武庫川住研」の名前を覚えてもらっているように感じます。また、地元の管理業者さんと連携して情報交換をしたり、地域に根ざした事業を行っていることで、このエリアの住宅に関する課題も見えてくるようになったと感じています。
活用法を見いだせない大家・管理業者のサポートを
―地元が抱える課題・問題点とは何ですか。
現在はどこの地域も抱えている問題だと思いますが、少子高齢化が進んで空き家が増加していることです。また、この地域は機械製造業や飲食料品製造業が盛んですが、労働者不足も問題になっていると聞いています。若い人たちが都市部に流出してしまい、それを補うために、外国人労働者が増えてきているようですね。それによって、保証人問題をはじめとして、外国人の住居の問題が噴出しているようです。
今後も継続して、外国人が安定した環境で安心して生活できるよう住まいの面でフォローしていきたいと思っています。それが、私たち不動産業者にとって、確実にできる社会貢献だと考えているからです。
小さな町の決して大きくはない業者ではありますが、自分の持っている武器を使って、困っている外国人の助けとなるために、私自身になにができるのかを模索しながら前向きにいろいろな方法を考えていきたいです。将来的な利益を考えると自分で購入した物件を貸すほうがよいと思っていましたが、売主と金額が折り合わなかったり、なかなかよい物件が出ないなどということもあり、最近では大家さんと空き家を借りたい外国人をつなぐ役割を担う方向で、さらにプッシュできないかと考えています。地元の管理業者さんとも、外国人向けの物件を紹介してもらえるよう、積極的に話を進めたいです。
―空き家を外国人に活用してもらい、課題解決へつなげるということですね。
はい。うまく活用されずにいる空き家・空き部屋はそこかしこにあり、どのように活用すればよいかわからず困っている大家さんも多くいると思います。地元の不動産事業者としてよい活用法を探して、借りたい人とのマッチングができたらいいと考えています。うちのシェアハウスに住むベトナム人の若者たちは、お正月にわざわざメロンやクッキーをもって挨拶しに来てくれるような優しい子たちなんです。地域のみなさんも、近くの公園や飲食店で外国人のグループを見かけたら特別扱いはせず、温かい目で見守っていただきたいなと思います。今後も外国人の若者たちを安心して受け入れてもらえるように、積極的に働きかけていきたいと思います。
取材協力:有限会社武庫川住研 取締役
鈴木 治郎 氏