外国人との共生に向けて 1
~安心安全な住居と暮らしを~
1992年に内閣府が公表した『国民生活白書』で初めて少子化という言葉が使われてから、この現象はいまだに続いています。また、少子化と併せて高齢化も進み、生産年齢人口の減少から国内の労働力不足は深刻化しています。そこで近年、注目を集めているのが海外から訪れる優秀な人材です。彼らは我が国の企業活性化や労働力不足を解消する鍵として期待されています。
課題解決の糸口となる外国人労働者の存在
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口はすでに減少局面に入っており、今後さらにその傾向が進むと予測されています。また、地方圏では大都市圏に比べ、世帯数の減少が早期に始まり、2020年頃をピークに減っていくと見込まれています(図1)。人口減少と聞いてまず思い浮かべるのは「少子高齢化」という方も多いでしょう。そしてその先には、少子高齢化が及ぼす「生産年齢人口の低下」や「労働力不足」の問題が浮上してきます。
人手不足に陥っている業種では、海外からの人材に頼らざるを得ない現状があり、国は“国内人材確保の取り組みを行ってもなお外国人労働者の受入れが必要と認められる業種(特定産業分野)”について、2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設しました。これは一定の専門性・技能を有し、技能試験や日本語能力試験に合格することを必要とし、即戦力となる外国人材の就労を目的としていることから、労働力不足の解消に期待が高まっています。出入国在留管理庁によると、2020年末現在、在留外国人数は288万7,116人で、在留資格別にみると、「永住者」の次に多いのが「技能実習」の378,200人となっています(図2)。実際に技能実習や特定技能で外国人を雇った企業からは、「まじめで素直な人材が多く職場の活性化にもつながった」「ダイバーシティの推進や異文化理解を深めることに役立った」「企業の海外進出への手掛かりとなった」などの声が上がっています。しかし、外国人への偏見やトラブルの発生、異文化による価値観のズレ、雇用に関する煩雑な手続きなどから外国人雇用へ踏み切れない企業が多いことも事実です。
外国人との共生に向けた課題とその解決策
実際に日本で暮らしている外国人労働者に目を向けてみましょう。外国人との共生社会の実現に向けた環境整備については、国の政策会議でもたびたび論じられており、その中で“我が国において人口減少や高齢化が進行する中、地域経済を支える貴重な人材として、また、地域社会の重要な構成員として、外国人住民の役割は重要性を増しており、国籍等にかかわらず外国人が暮らしやすい地域社会づくりを推進することが求められている”とされています。
では、外国人労働者が日本で暮らしていくうえで起こりうる問題には、どのようなことがあるでしょうか。例えば日常生活の中では、言葉・生活習慣の違いから起きる「ごみ出し」や「騒音」による近隣住民とのトラブル、外国人への差別などが上げられます。そこで、外国人労働者と地域住民が双方とも安心して暮らしていくためには、日本語でのコミュニケーション、文化やルール・マナーの相互理解が重要となります。すでに外国人の居住が増えている団地などでは、ごみの捨て方、騒音、言語・文化による問題などの課題に対応するために、多言語のごみ分別チラシを配布したり、生活上のマナーに関するガイドを用意するなど、共生の取り組みを実施しているところも多くあります。
それでも直面する外国人の住居問題
安心・安全な暮らしに不可欠な住居についてはどうでしょうか。
国内における外国人の居住形態は賃貸住宅が50%を占めていますが(図3)、彼らにとって、入居を希望する際に必要な「物件の探し方や借り方の知識」「居住ルールに関する情報」が十分に得られていないという問題があるようです。また家主においては、習慣・言葉が異なることや他の入居者・近隣住民とのトラブル発生の不安等の理由で、外国人に対して入居制限を行っている例が少なからず存在し、積極的に受け入れている賃貸住宅はまだ多くはありません。
総務省によると、高度外国人材が日本での生活について「生活環境の短所や困っている点」としてあげたもののうち、「住宅の確保が困難」が最も多くなっています。それらの問題を解消し、外国人労働者の住居を安定的に確保するためには、①外国人労働者に対しては、賃貸住宅の入居や居住について必要な基礎知識や住宅情報を提供する ②家主側に対しては、外国人入居者に対する不安を解消するための方策を進めることが必要となってきます。外国人にはわかりにくい賃貸住宅の契約や暮らしに関するルールは、国土交通省が発行するマニュアル『外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン』(日本語、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語など14か国語で作成)などを活用することが手助けとなるでしょう。
不動産事業者にとって外国人の住居確保の問題は、“安心安全な住まいを提供する”という観点から密接に関係しており、今後さらに適切な対応が求められてくるかもしれません。