登記しないと過料もあり!
所有者不明土地の解消に向け、相続登記の義務化が決定!
所有者がわからない土地の問題を解消するための関連法が、2021年4月に国会で成立。この改正法により、不動産の相続をした際にどのような義務が発生するのでしょうか。登記期限や怠ったときの過料、施行期日などについて、弁護士が解説します。
1. はじめに
わが国において、登記上の所有者が確認できない土地の総面積は、九州より広いといわれています。所有者不明土地問題は、まちの治安や安全を守るための阻害要因となり、また、公共事業や再開発の妨げとなっていました。
そこで、所有者不明土地問題を解消するため、2021(令和3)年4月21日に、民法、不動産登記法等が改正されました。改正法は、2024(令和6)年4月までに施行されます。
本稿では、今般の所有者不明土地の問題を解消するために構築された制度のうち、不動産取引に関連が深い問題として、相続登記の義務化について解説します。
2. 所有者不明土地の発生と不動産登記の関係
さて、不動産登記には、権利の登記(不動産登記法2条4号)と表示の登記(同条3号)があります。権利の登記は権利を公示するための登記であり、表示の登記は、権利公示の前提として、不動産の物理的状況を示して権利の対象を特定するための登記です。
このうち、表示の登記は当事者に申請義務がありますが(同法47条第1項)、権利の登記については当事者に申請義務はありません。当事者の申請義務を否定している理由は、権利の登記は不動産に関する権利変動について第三者に対する対抗要件を備えるためになされるものであって(民法177条)、私的自治の原則に従ってその利益を享受しようとする者が必要に応じてその登記を申請すればよいと考えられているからです。相続登記も、権利に関する登記であって、相続人に登記の申請義務はないものとされています。
相続登記が任意であるため、土地を相続しても、相続人に土地に対する関心がなかったり、土地の利用価値が高くない場合には、相続人は、相続によって土地を取得しても相続登記を行いません。その結果、大量の所有者不明土地が発生してしまいました。
3. 相続等による所有権の移転の登記申請の義務
所有者不明土地の問題を解消するための方策のひとつとして、今般の法改正によって、不動産登記法が改正され、相続登記が義務づけられました。改正法のもとでは、所有権の登記名義人について相続があったときは、自己のために相続が開始したことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません。遺贈により所有権を取得した者も、受贈者が相続人ならば、所有権移転登記を行う義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。相続による所有権の取得には、「相続させる」という遺言(特定財産承継遺言)による取得も含まれます。
また、相続分に応じて相続登記がなされていた場合に、その後に遺産の分割があり、相続分を超えて所有権を取得した者についても、遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないものとされました(不動産登記法76条の2第2項)。
相続人に相続登記を申請する義務があるにもかかわらず相続登記の申請を怠った場合には、10万円以下の過料に処せられます(不動産登記法164条1項)。
4. 相続人である旨の申出
ところで、登記申請については、その形式と準備を必要とする書類が厳格に定められており、登記を申請することは、専門知識のない一般の人々には容易ではありません。また、登記申請には費用もかかります。相続があった場合に登記の申請義務を課することは、一般の人々にとって重い負担をかけてしまいます。
そこで、改正法は、相続人である旨の申出がなされれば、登記申請を行わなくても義務違反にならないという仕組み(相続人である旨の申し出)を設けました。
相続人が相続登記を申請すべき期間内に、登記官に相続人である旨の申出をした者については、所有権の取得に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなされます(不動産登記法76条の3第1項・第2項)。登記官は、相続人である旨の申出があったときは、職権で、その旨ならびに申出をした者の氏名および住所その他の事項を所有権の登記に付記することができます(相続人申告登記)(同法76条の3第3項)。
なお、相続人である旨の申出をした者が、その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは、遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないものとされています(同法76条の3第4項)。
5. まとめ
相続登記の義務化は、不動産の流通を促すことが期待されています。また、相続前の相続対策や、相続が発生した後の相続財産の処分や管理の場面では、不動産の売買や賃貸用建物の建築が活用されますから、この点においても、相続登記の義務化は不動産実務と深いかかわりがあります。不動産業に携わるみなさま方におかれましては、今般の法改正について、深く理解しておく必要があります。
山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋