自然災害についての説明事項
日本に住む私たちは自然の恩恵を受けて暮らしていますが、それは、自然の脅威にさらされることと表裏の関係にあります。
特に近年は自然災害が猛威を振るっており、本年7月に静岡県熱海市で発生した土砂災害は記憶に新しく、衝撃的な出来事でした。
宅建業者は、住環境を整備する不動産取引の専門家です。
不動産を取得し、あるいは賃借する消費者に対して、自然災害から身を守るための情報を提供する責任があります。
本稿では、土砂災害警戒区域、津波災害警戒区域、水害ハザードマップの説明事項について、概要を解説します。
土砂災害警戒区域
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、土砂災害防止法に基づいて、土砂災害が発生した場合に、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがある土地として指定される区域です。市町村や区により警戒避難体制の整備が図られます。
また、土砂災害警戒区域のうち、建築物に損壊が生じ、住民の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域が、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)です。一定の開発行為や建築物の建築が制限されます。
取引対象が土砂災害警戒区域に含まれることや、土砂災害特別警戒区域内にあるために利用制限を受けることは、重要事項説明における説明事項です(宅建業法施行規則16条の4の3第2号、宅建業法施行令3条1項23号の2)。
なお、土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域(土砂災害警戒区域等)の指定に先立ち行う調査を基礎調査といいます。基礎調査によって土砂災害警戒区域等に相当する範囲が明らかになったときには、その範囲が公表されます。宅建業者は、取引対象が土砂災害警戒区域等に相当する範囲に含まれる場合にはその旨、および公表された範囲が土砂災害警戒区域等に指定される可能性があることを説明することが望ましいとされています(平成26年1月18日国土動第107号)(図表1) 。
土砂災害警戒区域
警戒避難体制の整備
土砂災害
特別警戒区域
開発行為や建築の制限
津波災害警戒区域
東日本大震災の巨大な地震による津波被害を契機に、2011(平成23)年12月に、津波防災地域づくりに関する法律が制定されました。津波防災地域づくり法に基づいて、津波が発生した場合に住民の生命、身体に危害が生じるおそれがある土地として指定されるのが、津波災害警戒区域です。津波災害警戒区域では、市町村地域防災計画が策定され、津波に関する情報の伝達方法、避難施設や避難経路の周知が行われます。
また、津波災害警戒区域のうち、津波が発生した場合に住民の生命、身体への著しい危害の発生のおそれがあると認められる地域が、津波災害特別警戒区域です。津波災害特別警戒区域では、一定の開発行為や施設の設置が義務づけられることがあります。
取引対象が津波災害警戒区域や津波災害特別警戒区域に含まれるかどうか、区域内であるときはそれに伴ってどのような制限を受けるのかについては、重要事項説明における説明事項です(宅建業法施行規則16条の4の3第3号、宅建業法施行令3条1項19号の2)(図表2)。
津波災害警戒区域
津波に関する情報の伝達方法、避難施設や避難経路の周知
津波災害
特別警戒区域
開発行為や施設設置の制限
水害ハザードマップ
水害ハザードマップとは、水防法に基づいて市町村長の長が提供する図面です(水防法15 条3項、同法施行規則11条1号)。2020(令和2)年8月に宅建業法施行規則が改正され、水害ハザードマップにおける取引対象の位置が、重要事項説明における説明事項に追加されました(宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2)。取引対象の位置がハザードマップに表示されているときには、宅建業者は、水害ハザードマップにおける取引対象の所在地を説明しなければなりません。取引対象が浸水想定区域の外にあっても、水害ハザードマップの地図上に表示されているときには、その位置を示す必要があります。水害ハザードマップは市町村のウェブサイトから入手することが可能であり、また、市町村によっては紙での配布を行っているところもあります。
なお、説明が義務づけられるのは水害ハザードマップ上の取引対象の所在地ですが、水害が生じた場合には避難しなければならなくなりますから、重要事項の説明に際しては、あわせて、近隣にある避難所の説明をすることが望ましいものとされています。
まとめ
以上、本稿では、取引対象の自然状況に関する説明について取り上げました。しかし、自然災害から人々の暮らしを守るための制度はこれらに限られるわけではなく、宅地造成等規制法による宅地造成工事規制区域や、都道府県のがけ条例による建築規制など、多岐にわたります。すべてのルールを常時理解しておくことは難しいと思いますが、具体の取引にあたって遺漏のない調査が可能になるように、自然災害に関する説明事項の全体像を把握しておくことは必要です。本稿が全体像を理解するための一助となれば幸いです。
弁護士
渡辺 晋