グリーン社会の実現に向けて
~「国土交通グリーンチャレンジ」とは~


東京丸の内の歩行者天国

国土交通省は今年7月、グリーン社会の実現に向けた「国土交通グリーンチャレンジ」を公表しました。
2050年を見据えつつ、2030年までの10年間に重点的に取り組む6つのプロジェクトを示しています。
不動産業者として、どういったことに取り組んでいけばよいのでしょうか。

深刻化する気候変動リスク

今回の取り組みの背景には、自然災害の激甚化・頻発化や温暖化による生態系への影響など、気候変動リスクの高まりがあります。

2016年に発効した「パリ協定」、2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のため、「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追究すること」で合意しました。これを受け、各国がGHG排出削減について野心的な目標を設定し、経済・産業構造を転換させる環境対策に取り組み始めました。

日本でも、2050年に100%削減する「カーボンニュートラル」(GHG排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計がゼロ)を目指すことを明言。その中期目標として、2030年度に、従来の2013年度比26%削減としていた目標を7割以上引き上げ、46%削減を目指し、さらに50%削減に向けて挑戦していくとしています。

排出量が多い国土交通分野の取り組みが不可欠

カーボンニュートラルの実現に加え、ポストコロナの経済復興も含めて、欧米を中心にグリーン化に対する重点的な投資が積極化しています。日本においても、こういった社会経済の構造的な変革に対応しながら、グリーン社会の実現に戦略的に取り組むため、省庁の垣根を越え産官学が連携し、多角的な取り組みを進めようとしています。

国土交通分野は、まちづくりやインフラ、交通・運輸、住宅・建築物など多岐にわたる上、国内のCO2総排出量に占めるこの分野の割合は約5割を占めています。そのため国土交通省では、さまざまな革新的技術開発や社会システムを含めた政策的なイノベーションを促進しながら、同分野の環境関連施策・プロジェクトを推進していくため、「国土交通グリーンチャレンジ」をとりまとめました。

省エネ・緑化の推進、まちづくりへの展開も

同プロジェクトでは、脱炭素・気候変動適応・自然共生・循環型などの社会を目指し、分野横断・官民連携の視点から、次の6つの重点プロジェクトを掲げました。

  • ①省エネ・再エネ拡大等につながるスマートで強靱なくらしとまちづくり
  • ②グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり
  • ③自動車の電動化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築
  • ④デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開
  • ⑤港湾・海事分野におけるカーボンニュートラルの実現、グリーン化の推進
  • ⑥インフラのライフサイクル全体でのカーボンニュートラル、循環型社会の実現

このうち、①と②が住宅や不動産に関連してくるプロジェクトになります。

省エネ対策やまちづくりで重要な役割

①の「省エネ・再エネ拡大等につながるスマートで強靭なくらしとまちづくり」では、住宅・建築物のさらなる省エネ対策の強化が求められています。

具体的には、今年4月に全面施行となった改正建築物省エネ法の適切な運用や、LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅・建築物やZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の普及促進、既存住宅・建築物の省エネ改修の促進、木造建築物の普及拡大などがあります。

LCCM住宅の図
出典:国土交通省「国土交通グリーンチャレンジ」資料より抜粋

住宅・建築物のライフサイクルにおいて、不動産業者が関わる部分は売買・賃貸仲介や管理ですが、その段階でも省エネ・再エネの推進につながる取り組みは数多くあり、役割も多岐にわたっているといえます。

また、「脱炭素と気候変動適応策に配慮したまちづくりへの転換」では、コンパクトシティのような地域全体における取り組みが必要になりますが、例えば「居心地がよく歩きたくなる空間形成」であれば、商店街でのイベントや空き店舗を利用したまちの人が集えるスペースの創出に寄与できます。

専門家としての役割を重視

さらに、重要になるのは、「防災・減災のためのすまい方や土地利用の促進」です。2020年7月に宅建業法施行規則の一部が改正され(同年8月28日施行)、不動産取引時に洪水や内水、高潮など水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を事前に説明することが義務付けられました。気候変動リスクに対応したスマートで強靭なまちづくりを推進する上で、不動産業者の役割は今まで以上に重要になってきているといえます。

専門家としての役割については、「グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり」に関するプロジェクトとして掲げられた、「グリーンファイナンスを通じた地域価値の向上」でも重視されています。低未利用土地を活用するランド・バンク事業では不動産業者が中心的役割を担っていますが、その知見を活かして、低未利用土地やまちなかの老朽ストックを活用したにぎわい再生に取り組む際の、民間資金調達における支援業務にも期待が寄せられています。

壁面緑化の一例
壁面緑化の一例