賃貸住宅で暮らす単身高齢者が増加
“孤独死保険”の役割がますます重要に
高齢化や少子化の影響等で一人暮らしの高齢者が増加するなか、新型コロナウイルスによる巣ごもりが拍車をかけ、近年の政策課題でもある“孤独死”問題が深刻度を増してきました。
特に賃貸住宅で孤独死が発生した場合、大家さんの負担は計り知れません。
そこで今回は、独居高齢者増加の背景と、孤独死が起きた場合にオーナーをサポートする少額短期保険について紹介します。
高齢者の孤立・孤独化が進む背景
2021年9月の総務省の発表によると、日本の総人口に占める65歳以上の割合は29.1%と過去最高を更新。高齢化率は世界1位で、2位のイタリア(23.6%)、3位のポルトガル(23.1%)を大きく上回る水準となっています。
また「令和3年版高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる世帯は、2019年時点で全国に2,558万4,000世帯あり、全世帯の49.4%を占めています。そのうち28.8%にあたる736万9,000世帯が単独世帯で、2000年の307万9,000世帯から2倍以上にも膨れ上がりました。さらに65歳以上の人がいる主世帯について住宅の所有状況をみると、持ち家が82.1%と最も高いですが、単身者主世帯は66.2%となり持ち家率は低くなります。このことからも、今後は賃貸住宅で暮らす単身高齢者が増えていくと考えられます。
加えて日本の高齢者は、病気の時に助け合ったり、相談ごとがある時に相談したりされたりすることが、他国と比べ最も低い水準となっています<図表参照>。そこへ新型コロナウイルスの影響により外出自粛が要請され、高齢者の孤立・孤独化はますます加速しています。
孤独死にかかわる賃貸住宅の補償トラブル
その結果増えたのが、孤独死の問題です。賃貸住宅で孤独死が起きた場合、特殊清掃や遺品整理、残置物の撤去などにかかる原状回復費用のほか、原状回復期間中の家賃や、事故物件化してしまった場合の家賃収入の損失、火葬などの手配といった費用が発生します。これらの負担は遺族や保証人が支払うことになりますが、なかには身寄りがなかったり、遺族・保証人がいても拒むケースもあります。そういった場合、結局は大家さんが負担せざるを得なくなるケースも少なくありません。
こういった状況を受け、2011年に少額短期保険で孤独死に関する保険の取り扱いを開始。一般社団法人全国不動産協会でも、全国の会員である不動産業者が扱いやすく、大家さんをサポートし、なおかつ賃借人のためにも、との思いで「全日ラビー少額短期保険株式会社」を創設しました。
会員のニーズを取り入れて進化する“全日ラビー少額短期保険”
全日ラビー少額短期保険株式会社では、賃貸住宅で孤独死が発生した場合の清掃・修理費用を補償。さらに2021年5月からは、大家さんからの直接請求が可能になりました。
その背景について、同社の谷代表取締役にお話をうかがいました。
─孤独死に関する案件は、ラビー少額短期保険でも増えているのでしょうか。
調べてみると、2018年に14件、2019年に28件、2020年に49件の支払いがありました。そして2021年上半期は46件です。当社の契約数が増えていることもありますが、ほぼ倍々です。
─賃貸住宅で孤独死が起きた場合、問題となるのはどのようなことですか。
孤独死の場合で問題になるのは、ご遺体が発見されるまでの間に腐乱状態になり、異臭がただよったり体液が染みてしまった場合などに、特殊な清掃費用がかかることです。その費用は保険でお支払いできますが、いちばんの問題は、責任を誰が負うのかということです。
本来は法定相続人もしくは相続財産管理人が負うことになりますが、なかには相続人が見つからなかったり、相続放棄をされるケースもあります。そういうとき、当社のこれまでの約款では、残念ながら費用のお支払いができなかったんです。保険が下りないと大家さんは自分で原状回復をしなくてはならず、負担が大きくのしかかります。そのため会員から「大家さんのために、法定相続人や相続財産管理人しか費用の請求ができないという約款をなんとかできないか」という要望が出てきました。
─会員の要望を取り入れて約款を変えたんですね。
そうです。関東財務局と相談しながら約款を改定し、2021年5月から、賃貸住宅で孤独死が起きた際に相続人がいない場合、大家さんが直接、清掃費用や修理費用を請求できるようにしました。実は、この件に関しては、数年前にも一度財務局に交渉していたのですが、そのときは保険契約関係と大家の立場の整理がつかず保留になったんです。しかし、いまの社会的な動きや問題を受けて、保険金支払いの新たな概念を導入することで可能になったのだと思います。これは会員の皆さんにとって非常にいい結果が生まれたと思います。
─身寄りのない高齢者へも部屋を貸しやすくなったのではないですか。
はい。やはりこういった保険がないと、大家さんは独居老人に部屋を貸したがらなくなってしまいますので、この保険は円滑な賃貸業のための一助になると思います。
─しかし、この保険が適用されるケースが多くなると、保険会社としては収支のバランスが悪くなるのでは。
ほとんど残りませんね。この先、どうしても耐え切れなくなれば保険料率を上げるしかありませんが、いまは考えていません。しかし経営を安定させるという意味では、現在の商品だけで補償の範囲を広げていくのは限界があるので、次の段階では商品改定をしたいと考えています。
これまでも、会員の皆さんからいろいろな要望を受けてずいぶん商品改定をしてきました。たとえば、自殺の場合も補償できるようにしました。これは偶然の事故ではなく故意のものですので、損害保険では絶対にできないことです。
─近年は水災も増えていますが、これについても補償はありますか。
賃貸住宅の保険ではまだ対応できていないのが現状ですが、九州や西日本の会員から強い要望が出ているので、次年度の商品改定のなかに取り込む予定で準備を進めています。
当社は、一般社団法人全国不動産協会(略称:TRA)が全額出資している会社ですので、これからも、会員の皆さんから要望があれば極力それに応えられるような保険商品をつくっていきます。大家さんとの問題、あるいは賃借人との問題で会員さんが困っているのであれば、なんとしてでも、それに応えられる保険商品にしていきたいと考えています。
全日ラビー少額短期保険株式会社
一般社団法人全国不動産協会(略称:TRA)が全額出資する全日グループの少額短期保険会社として、2015年に設立。資本金2億円。「賃貸住宅入居者総合保険」と「テナント総合保険」を取り扱い、賃貸住宅入居者総合保険では、①賃借人の家財、②借家人賠償、③階下へ水漏れを起こした場合などの個人賠償、④その他各種費用を補償する。テナント総合保険は、店舗や事務所向けに、②④のほか設備・什器等の補償や施設賠償。2021年11月現在、約2,700の宅建業者が募集人資格を持ち、代理店業務を行っている。
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