不動産業者が知っておきたい“生活保護制度”の知識


生活保護受給者の家探しは、深刻な社会問題です。不動産に関わる者であれば避けて通るわけにはいかず、実際にトラブルに遭ったり、家主から入居拒否にあったりした人もいることでしょう。改めて生活保護制度の概要について確認しつつ、不動産業者としてさまざまな問題にどう対応すべきか考えてみたいと思います。

生活保護制度の概要

生活保護制度とは、「生活に困窮する人に対してその困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長すること」を目的としている制度です。生活保護の相談や申請は、現在住んでいる地域を所管する福祉事務所の生活保護担当が窓口となります。

申請は世帯単位で行い、世帯員全員が預貯金や、生活に利用していない土地・家屋があればそれを売却して生活費に充てること、働くことが可能な人は働いて生活費を得ること、親族などから援助を受けられる場合は援助を受けること、そのうえで収入が最低生活費に満たない場合に保護が適用されるというものです。

最低生活費は住んでいる地域や年齢、世帯人数などによって異なり、その内訳は基本となる生活扶助のほか、住宅や医療、葬祭扶助など8つに分類されます。地域差によって1級地-1から3級地-2まで6つの等級が設けられており、県庁所在地などは1級地となる傾向があります(図表1)。そこに母子家庭などに設けられた加算分を合計して生活扶助の金額が決定されます。さらにその他の扶助を足して生活保護費月額が算出されます。

図表1 主な市区町村の級地区分

主な市区町村の級地区分
出典:厚生労働省「級地一覧」より抜粋(平成30年10月1日現在)

住宅扶助について

さて、私たちにとって最も重要なのは住宅扶助です。住宅扶助は一時扶助金と家賃扶助とに分かれており、一時扶助金は入居時の敷金や礼金のほか、引っ越し費用や仲介手数料、火災保険料(原則家賃3カ月分の範囲内)、更新時の契約更新料(原則家賃1カ月分の範囲内)などが対象となります。家賃補助の上限額は、こちらも地域によって異なり、例えば東京23区の場合、単身世帯で53,700円、大阪市では40,000円(さらに床面積に応じて限度額が変わる)と、同じ1級地でも自治体によって限度額が違うので、それぞれの地域の等級と限度額を調べてみてください。家賃が上限額を超えることは特別な理由がない限り承認されないため、東京都など家賃が高い地域では範囲内に収まる物件を探すのが難しい場合もあります。自分の住む地域の家賃相場と上限額を比較して、あまり差がないようであれば、十分検討の余地があるといえます。

※なお、家賃が上限額よりも低い場合でも差額が生活費になるというわけではなく、家賃分の扶助があるのみ。共益費については住宅扶助に含まれません。

家賃の滞納を避けるには

生活保護受給者の受け入れについては、家主さんが難色を示すことがよくあります。理由のひとつは、受給者に高齢者が多く孤独死などにつながりやすいこと。実際に受給者の世帯構成をみると(図表2)、高齢者の単身世帯が半分以上であることがわかります。また、受給者には連帯保証人になってくれる人がいないことが多いのも要因です。

図表2 世帯類型別世帯数とその割合

世帯類型別世帯数とその割合
出典:厚生労働省「生活保護の被保護者調査(令和2年9月分概数)」より作成

しかし、家主が最も危惧しているのは、家賃の滞納ではないでしょうか。生活保護費は基本的に全額が受給者の口座に振り込まれ、受給者はそこから住宅扶助分を家賃として管理会社や家主に支払うという形をとります。このときに家賃分を生活費として使いこんでしまい、滞納してしまうケースがあるのです。こういったことを避けるには、「代理納付制度」の活用をお勧めします。これは、直接家主に住宅扶助分を振り込んでもらうよう、家主などが入居者の了解を得たうえで管轄の福祉事務所に申請するものです。福祉事務所から確実に支払われる代理納付ができるのであれば、滞納の可能性はほかの入居者よりもむしろ生活保護受給者のほうが低くなるわけです。

前述した孤独死や連帯保証人の問題についても、安否確認サービスや孤独死の補償保険、家賃債務保証サービス、保証人や緊急連絡先の代行サービスなど、民間やNPO法人などが行うさまざまなサービスを利用することで、トラブルを回避することができます。これらの代金は礼金から賄うことも可能。支給限度額は地域によって差があるため、とにかく地元の福祉事務所に相談してみましょう。

住宅セーフティネット制度の支援とは

最後に、住宅セーフティネット制度について少しご紹介しておきます。生活保護受給者のほか、高齢者、障害者、子どもを養育している人、被災者、外国人などの「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度のことで、登録をすることでさまざまなメリットを受けることができます。家賃や保証料の低廉化補助、改修費の補助や融資などといった経済的支援のほか、入居者マッチングや入居支援、また前述した代理納付についても、セーフティネット住宅に新規で入居する者は、代理納付を原則化することになっています。一戸からでも登録が可能で、耐震性を有する建物であることや床面積の規定など、登録に当たっていくつかの基準が設けられていますが、地域によって緩和されている場合もあるようです。

人口減少が続く中、空室に悩んでいる家主にとって、これらの住宅確保要配慮者を取り込むことは選択肢のひとつとなっています。これからの不動産業者は、生活保護についての正しい知識を持ち、さまざまなリスクを回避するサービスの活用などを、家主に提案できる提案力が不可欠です。いたずらに恐れるのではなく、空室対策として、また社会貢献活動の一環として、生活保護受給者の受け入れについて積極的に考えてみてください。


殿木 真美子

住宅ジャーナリスト。戸建て、マンション、不動産、マンション管理、リノベーションなど住宅関連を幅広く取材。自身も1棟ものの賃貸併用住宅のオーナーとなり、不動産経営をしている。