2XXX年、宇宙に住まう。
〜日本ゼネコン企業による宇宙開発プロジェクト〜


2020年に小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還し、昨年は民間宇宙企業の米SpaceXが民間人を乗せた宇宙旅行を行うなど、近年、立て続けに宇宙に関するチャレンジが成功しました。
また、岸田首相が本部長を務める宇宙開発戦略本部が「2020年代のうちに日本人宇宙飛行士による月面着陸の実現を図る」と改めて表明したこともあり、日本でも宇宙への関心が高まっています。もちろん、日本の企業も宇宙を舞台に壮大なプロジェクトを進行中。いつか人類が宇宙に住まう日のために、大手ゼネコンが本気で取り組む、夢のような宇宙構想をご紹介します。

宇宙ホテル構想
清水建設

1987年、清水建設は建設業界でいち早く宇宙開発室を立ち上げました。当時は、地下、砂漠、南極などの通常とは異なる「極限環境」に人類が進出する際に、建設会社としてどのように貢献できるかを考えていた時代。なかでも究極のニューフロンティアとして「宇宙」がありました。宇宙産業への新規参入にあたって、建設会社ならではの特色を打ち出したいとの思いから、1988年に月面基地構想、翌年には宇宙旅行時代を先取りした「宇宙ホテル」構想を発表。現在に至るまで研究を行っています。

もともと土木畑にいたフロンティア開発室 宇宙開発部の金森洋史さんは、「月でコンクリートは打てるのか」について考えているうちに研究にのめりこんでいったといいます。1990年代にはアメリカへ渡り、航空宇宙系の企業の門をたたいて教えを請い、共同研究などを通じて研鑽を積みました。また、同社では現在もロボット工学や構造解析といった分野のエキスパートを積極的に雇用しています。

さて、肝心の宇宙ホテル構想の中身はというと、展開型の太陽電池パネルとバッテリーを積んだエネルギー・サプライ、客室モジュール、パブリック・エリア、旅行客や物資を乗せた輸送機が離着陸するプラットフォームの4つの部分で構成される、全長240mという大型の宇宙構造物です。客室モジュールは、64の客室を含む104の個室モジュールが直径140mのリングの上に配置されます。人工重力空間となっていて、地球にいるときと同じようにくつろげるのが特徴です。またパブリック・エリアはロビーやレストラン、アミューズメント・ホールなどからなる大空間で、宇宙環境ならではの食事体験やスポーツを楽しむことができます。

客室モジュール
客室モジュール
パブリック・エリア
パブリック・エリア

宇宙エレベーター建設構想
大林組

地球と宇宙の間をケーブルでつなぎ、クライマーと呼ばれる乗り物で往復するという「宇宙エレベーター」建設構想を掲げているのは大林組です。宇宙への移動手段といえば、ロケットを打ち上げることだけと誰もが考えると思いますが、この発想自体は19世紀末、宇宙工学の父と呼ばれる旧ソ連の科学者・ツィオルコフスキーによって提案されていました。さらに、1991年にケーブルの材料になりうるカーボンナノチューブが物理学者・飯島澄男によって発見されたことで、一気に現実味を帯びました。

宇宙エレベーターの全体構成は、アース・ポートと呼ばれる海に浮かぶ建造物を起点に、宇宙に向かって全長96,000㎞のケーブルを伸張。途中36,000㎞の静止軌道上に置いたステーションを経由し、先端にカウンターウエイトを置くことでケーブルを安定させます。そのケーブル上を人やモノが乗るクライマーが行き来し、火星やその他の太陽系の惑星などへアクセスするというものです。クライマーに搭載して高く持ち上げた宇宙船を、ケーブルが回転するスピードを利用して宇宙空間に放り投げることで、月や惑星に安価に運ぶこともできます。月や火星の環境で実験・訓練をするための月・火星重力センターや、火星への連絡ゲートなどが想定されている、なんとも壮大な計画です。

この構想の背景にあるのは、宇宙利用の目的の多様化と宇宙構造物の大型化。国際宇宙ステーションに見られるように、宇宙構造物はすでに大型化が進んでいます。今後、宇宙工場やホテルなど、より多様で大規模な空間が必要となれば、人や物資を経済的に、しかも大量に輸送することが必須になります。宇宙エレベーターはそのための手段となりうるのです。

静止軌道ステーション外観図
静止軌道ステーション外観図

宇宙農場システム
竹中工務店

竹中工務店では、東京理科大学が設立したスペース・コロニー研究センター(現在はスペースシステム創造研究センター)に準備段階から参画し、長期的な宇宙滞在に必要な技術の研究開発に取り組んでおり、特に居住空間の衣食住に力点を置いています。宇宙農場システムはその一環で、地球からの補給に頼らず食料を生産するための仕組みです。具体的には小ロット多品種密閉型栽培の袋培養技術を用いて、高クリーン度・低圧環境内で植物を栽培します。そうすることで、植物病原菌や害虫の侵入を防ぎ、安全で新鮮な食糧が供給できるのです。将来的には月面に農場を設営し、大規模栽培による大量供給を想定しています。

こちらはすでに実証実験の段階に入っており、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と竹中工務店、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学により、2021年8月から10月の48日間、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟で世界初の栽培実験が行われました。小型の栽培装置をきぼうに持ち込み、密閉した小型の袋の内部に培養液を供給。空気交換を行ってレタスを育成することに成功しました。それらを回収してさらに今後の研究に生かしていく予定です。

そう遠くない未来に訪れるであろう月居住、火星居住を想定した宇宙農場システム。宇宙に長期滞在することを前提として、滞在者のQOL向上にまで目を向けているだけでなく、将来の地上での農業の在り方に大きなブレイクスルーをおこす可能性も秘めています。

宇宙農場システム
宇宙農場システム

最後に

大手ゼネコンが取り組む宇宙開発への取り組み。どれも壮大でまるでファンタジーのようでありながら、それが実際に実現に近づいているんだと考えると、ワクワクしてきます。

建設会社が宇宙ビジネスに参画する意義について、清水建設フロンティア開発室 宇宙開発部の鵜山尚大さんにうかがいました。

「宇宙開発の分野は、すぐに利益にならない、夢物語だとよく言われます。しかし、建設業界が安全・安心なインフラの供給を命題としているのはどこに行っても変わらない。また、建設に携わる者として、未来を起点に解決策を考える“バックキャスティング”の思考は常に持っているべきだと考えます。非常に長期的な視点で、先行投資として宇宙でのインフラ建設支援を目指すとともに、宇宙空間を想定した先端技術を研究開発することで、何らかのイノベーションが起こるきっかけになり、現在の建設事業に生かすこともできるのではないでしょうか」。