道交法の改正に伴いアルコールチェックが義務化!
~改正の背景と要対応事項~


これまで「緑ナンバー」のトラックやタクシーなどにおいて義務化されていた運転者のアルコールチェックが、今年4月の道路交通法施行規則の改正により、一定台数以上の「白ナンバー」の自動車を使用する事業者においても義務化されることになりました。改正の背景と具体的な対応事項について解説します。

改正の背景となった事故

昨年6月28日、業務中に幕張パーキングエリアで焼酎を飲んだ運転手の運転するトラックが、千葉県八街市で、居眠り状態のまま集団下校途中の小学生の列に突っ込みました。その結果、死亡者2名、重傷者3名の大惨事となり、同年7月1日に当時の菅首相、3日に当時の棚橋国家公安委員長が現地を訪れて献花する事態になりました。

事故の一報を受けた千葉県の熊谷知事は、すぐに児童の通学路一斉点検を指示しました。加えて、千葉県以外の多くの自治体でも、凄惨な事故の報道が衝撃をもって受け止められたため、児童の通学環境が取り急いで確認・検証されました。

容疑者の運転していたN運送㈱のトラックはいわゆる白ナンバーで、主に親会社であるNB㈱に関係する建設資材などを運搬していました。その一方で、N運送㈱だけでトラック5台を使用していたものの、法令上必要な安全運転管理者の選任はなされず、その容疑でN運送㈱とNB㈱に千葉県警の立入捜査が実施されました。

捜査後の8月に千葉県警が書類送検を行ったことから、管轄する千葉区検察庁は、10月13日に道路交通法違反(安全運転管理者不選任)罪で、NB㈱と同社の代表取締役を略式起訴しました。千葉簡裁は同日、各々罰金5万円の略式命令を出し、共に即日納付されました。

また、警察庁も9月2日に、道路運送法・貨物自動車運送事業法・貨物利用運送事業法上の緑ナンバー事業者のみならず、白ナンバー事業者にも飲酒管理強化を義務付ける方針を打ち出しました。これらが、今回の道路交通法施行規則の一部改正の背景です。

今後の要対応事項

管理強化の中核部分は、安全運転管理者などの義務化対象範囲を広げることにあり、この考え方に沿った改正が4・10月の2段階で実施されます(図表1)。

図表1 道路交通法施行規則(昭和35年総理府令第60号)の施行予定<抜粋>

現行(安全運転管理者の業務)
第9条の10 法第74条の3第2項の内閣府令で定める業務は、次に掲げるとおりとする。
 運転者名、運転の開始及び終了の日時、運転した距離その他自動車の運転の状況を把握するため必要な事項を記録する日誌を備え付け、運転を終了した運転者に記録させること。
本年4月1日より施行(安全運転管理者の業務)
第9条の10 法第74条の3第2項の内閣府令で定める業務は、次に掲げるとおりとする。
 運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視等で確認すること。
 前号の規定による確認の内容を記録し、及びその記録を1年間保存すること。
本年10月1日より施行(安全運転管理者の業務)
第9条の10 法第74条の3第2項の内閣府令で定める業務は、次に掲げるとおりとする。
 運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器を用いて確認を行うこと。
 前号の規定による確認の内容を記録し、及びその記録を1年間保存し、並びにアルコール検知器を常時有効に保持すること。

キーパーソンとなる安全運転管理者の選任基準は道路交通法に明記され、対象台数も道路交通法施行規則に補記されています(図表2および3)。

図表2 道路交通法(昭和35年法律第105号)<抜粋>

(安全運転管理者等)
第74条の3 自動車の使用者は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
 安全運転管理者は、自動車の安全な運転を確保するために必要な当該使用者の業務に従事する運転者に対して行う交通安全教育その他自動車の安全な運転に必要な業務で内閣府令で定めるものを行わなければならない。
 自動車の使用者は、安全運転管理者の業務を補助させるため、内閣府令で定める台数以上の自動車を使用する本拠ごとに、年齢、自動車の運転の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、内閣府令で定めるところにより、副安全運転管理者を選任しなければならない。

図表3 道路交通法施行規則(昭和35年総理府令第60号)<抜粋>

(安全運転管理者等の選任を必要とする自動車の台数)
第9条の8 法第74条の3第1項の内閣府令で定める台数は、乗車定員が11人以上の自動車にあつては1台、その他の自動車にあつては5台とする。
 法第74条の3第4項の内閣府令で定める台数は、20台とする。
 前2項及び第9条の11の台数を計算する場合においては、大型自動二輪車1台又は普通自動二輪車1台は、それぞれ0.5台として計算するものとする。

制度は、①使用者が適任者を選任して公安委員会に届け出る、②使用者側が安全運転管理者に必要な権限を与える、③使用者が安全運転管理者に安全運転管理者向け講習を受講させる、④前述の①~③後に、安全運転管理者が法に定められた交通安全教育と基本業務を実施するという建付けです。道路交通法第74条の3第2項の下線部分が④に該当するため、今回の施行規則の一部改正も、義務規定としての履行が求められます。

今般の改正に先立って警察庁から周知されている広報啓発用資料(リーフレット)の内容だけでは確認し切れない詳細部分を複数の都道府県警関係者に面談・照会しました。以下に、返答内容のうち重要と思われる箇所を順不同で列挙させていただきます。

■安全運転管理者等の選任基準

道路交通法第74条の3第1項の「本拠」は法人ではなく、各事業所が該当します。したがって、宅建業者各位の実情を踏まえれば、各支店・営業所やグループ内の別法人などの単位ごとになります。

道路交通法施行規則第9条の8第1項の「定員が11人以上」は、車検証の記載内容で確認します。また、「その他の自動車」は、道路交通法上の定義となるため、平たく言えば四輪自動車が該当します。同施行規則第9条の8第3項に記載されていない原動機付自転車や自転車・リヤカーなどは、何台使用していても台数には含まれません。

「使用」形態は、所有かリースなどかを問わず、予定を含む「業務上使用する台数」の全てが該当します。また、保有していても使用しない・していない自動車も、対象外とはできません。ナンバープレートが付いていれば台数計算の対象になります。

■運転日誌の取扱い

決まった様式などはなく、メモ書き程度で問題ないものの、運転を行った社員名が特定できることが絶対条件となります。一年間の保存方法についても特段の決まりはありませんが、本部などでの一括・集中保管ではなく、事業所単位で行う必要があります。

■対象となる運行

あくまでも業務上の運行に限られるため、自宅から事業所までの通勤時の運転は対象外です。その一方で、社員の所有車を業務上で使用させた場合は、対象にも成り得ます。例えば、顧客先や物件に自家用車で直行・直帰させる対応が常態化している場合などです。

4月1日からの義務化内容

あくまでもアルコール検知器使用までの予備・広報・移行期間のため、できるだけ早期のアルコール検知器導入が推奨されています。この移行期間中はアルコール臭を捉えるようにし、ろれつが回らないなどの見た目と合わせて、わずかでも疑わしい場合には、運転者から外すことが重要です。

10月1日からの義務化内容

今のところ、検知器に求められる標準性能のようなものは特段設定されていません。したがって、光・音・文字または数値などで酒気帯びの有無が確認できる機種であれば、市販のどの検知器でも構いません。また、各自動車に備え付けるという対応は必要ありません。

その一方で、「ない」という状態は許されないため、何らかの調達は必須です。また、有効性について常に検証し、バッテリー切れなどを防止する必要があります。


佐々木 城夛(じょうた)

オペレーショナル・デザイナー
(沼津信用金庫 参与/津山信用金庫 顧問)

佐々木 城夛(じょうた)

1990年 信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。