ウクライナ情勢でさらなる影響も
ガソリン価格高騰を取り巻く日本の状況


新型コロナの感染拡大がもたらしたガソリン価格の急落と上昇。そしてロシアへの経済制裁に端を発する高騰。原油のほぼ全量を輸入に依存する日本にとって、現況は深刻であり、ガソリン販売を担う給油所の経営状況も懸念されます。ここでは、乱高下するガソリン価格をはじめ、宅建業者にとって気がかりな木材等の価格ついて解説します。

新型コロナの影響による価格変動

4月13日に公表された4月11日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの単価は、174.0円でした。国内での新型コロナ第一例目が確認された2020年1月以降、同年5月11日に最安値である124.8円を示してから、価格はほぼ一貫して上昇傾向にあります(図表1)。

図表1 1リットル当たりレギュラーガソリン現金価格(全国平均)推移

1リットル当たりレギュラーガソリン現金価格(全国平均)推移
注:価格は消費税込み 出典:経済産業省資源エネルギー庁「石油製品価格調査」より筆者作成

主要因は、新型コロナによる需要の急変動です。世界的な感染拡大によって2020年4月頃に需要が急縮小したため、価格が急落し、産油国が大打撃を受けました。その後のワクチン接種によって経済活動が回復し、需要が急増した中で、今度は価格が上昇しました。

このため、日本などの輸入国は産油国に大幅な増産を要望しましたが、昨年10月4日時点で、OPECプラス側は「需要の先行きは不透明」として、現状維持を決定しました。OPECプラス内で増産余力があるのは、アラブ首長国連邦とサウジアラビア程度であるため、原油価格は、当面高止まりが見込まれます。

OPEC(石油輸出国機構)と、ロシア・メキシコなど非OPECの石油産出国で構成される組織。石油の供給量を協力して調整し、石油価格の安定を目指す枠組み。

トリガー条項の凍結解除

2月21日の衆議院予算委員会での集中審議時には、高騰したガソリン価格への対策として、自由民主党の越智隆雄議員から、いわゆる“トリガー条項”の凍結解除を含めた選択肢が言及されました。

ガソリンへの課税構造はやや複雑で、2008年3月の暫定税率の期限切れと5月の再可決を経て、2010年3月に租税特別措置法が改正され、期限を定めない特例税率が適用されています(図表2)。

図表2 ガソリン1リットルに対する課税金額[単位:円]

ガソリン1リットルに対する課税金額[単位:円]

簡単に言えば、1リットル当たり25.1円上乗せして課税されているわけで、それに消費税が課税されるため、かねてより二重課税が批判されてもいます。

先に触れたトリガー条項は、ガソリン価格が3カ月連続で160円を超えた場合に、この25.1円分の課税を停止して小売価格を引き下げる措置を指します。その一方で、2011年の東日本大震災の発生後に、復興財源確保を目的に立法された特例法によって、このトリガー条項の発動が凍結されてもいます。政府側は、解除にはそれに先立った法改正が必要という見解を示していますが、2021年10月4日に160円に達してから半年が経過した5月13日現在もなお、最終決定には至っていません。

揮発油販売業者の業況

そのガソリンを取り扱う揮発油販売業者(給油所)の業況については、昨年10月に、信用調査機関から「直近の決算期で約8割が減収傾向にある」旨の調査結果が公表されています。新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛が影響した模様で、赤字の事業者も、調査対象先の1割超に及ぶとのことです。

揮発油販売業者には、業歴30年以上の老舗事業者が9割弱に達する一方で、10年未満の事業者は10社に満たないという顕著な特徴がみられます。異業種を含む新規参入や新陳代謝がほとんどないことを意味し、現経営者の顔ぶれは、同族の二世~四世の出自が圧倒的多数を占めています。

もとより新規参入が少ない中で、後継者難などによる廃業が進む背景には、事実上、立地以外に決定的な差別化が難しいという特性があります。過疎化が進行する地域ほど日常の足として自動車が必要であり、それを動かすにはガソリンが必要ですが、そうした地方での給油所の採算化は難しい、という典型的な二律背反状態にあるわけです。

2011年の消防法改正に伴う、設置後40年超の燃料用タンクに対する回収義務化から既に10年以上が経過する中で、現在の給油所の廃業動機は、より多岐にわたるようになりました。他業種にも幅広くみられる後継者難のほか、燃料用タンク以外の設備の老朽化などもみられます。もちろん、地方部を中心とした少子高齢化・過疎化に伴う顧客数の減少に悩んだあげく、廃業を選択された事業者も珍しくありません。今後も、こうした傾向が続くことになるでしょう。

ロシアへの経済制裁に揺らぐ日本の資源価格

ロシアおよびベラルーシに対する経済制裁は、こうした概況の中で実施されました。日本との間で排他的経済水域が設定されている(=隣国となる)ロシアとの貿易状況は、2011年から2020年まで一貫して輸入超過・経常収支赤字の実態が認められています。

軍事力はほぼ経済力に比例し、侵攻継続にも多大な戦費を要するため、ロシア側には外貨獲得ニーズがあります。貿易の停止はロシアに獲得外貨の減少をもたらすため、上記のような収支の中での制裁には、一定の効果が見込めます。

その一方で、正攻法での獲得が難しくなれば、地下に潜ることが見込まれます。ソ連崩壊後のロシアは、資源輸出国として国を建て直してきました。このため、制裁に加わっていない第三国などを経由した迂回輸出などを行い、代金を外国金融機関の他人名義の口座などで受け取るマネー・ローンダリングが活発化する可能性があります。

ロシアへの輸出品は自動車など工業製品、ロシアからの輸入品は先に述べたエネルギーや原材料のほか、カニやエビなどの魚介類が中心です。よって貿易停止後には、日本国内の中古車などの価格が下落し、光熱費や魚介類などの価格が上昇するでしょう。

宅建業者各位にとって気懸りなのは、木材価格ではないでしょうか。いわゆるウッド・ショックにより、昨年4月頃より日本国内での木材価格にも、高騰傾向がみられています。2015年の平均価格に比べ、今年2月の価格は木材で65.8%、建設用材料の中間財で80.0%上昇しています(図表3)。

図表3 木材関係物価指数推移

木材関係物価指数推移
出典:日本銀行調査統計局「企業物価指数(2015年基準)」を筆者加工

2021年の輸入木材のうち、ロシアからのシェアは金額ベースで5.2%に過ぎませんが、主に住宅用の製材分野では、EU・カナダに次ぐ第3位となっています。よって、今後の貿易停止に伴って、建設資材の高騰が見込まれます。日本への逆風は、さらに強まる可能性があります。


佐々木 城夛(じょうた)

オペレーショナル・デザイナー
(沼津信用金庫 参与/津山信用金庫 顧問)

佐々木 城夛(じょうた)

1990年 信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。