養子縁組をすると、相続税の節税になると聞きましたが本当でしょうか。どのような節税になるのか教えてください。
Answer
養子縁組による相続税対策にはメリットとデメリットがあります。法定相続人が、被相続人の長女、長男に加えて、長男の子を養子縁組していた場合を例にしてみていきましょう。
1.メリット
相続税の額を算出する場合、法定相続人の数をもとに計算する次の5項目について有利になります。
- ①相続税の基礎控除額が、1人当たり600万円増えます(図表1…基礎控除、図表2…備考欄)。
- ②生命保険金の非課税限度額が、1人当たり500万円増えます(図表1…非課税財産等、図表2…備考欄)。
- ③死亡退職金の非課税限度額が、1人当たり500万円増えます(図表1…非課税財産等)。
- ④相続税の総額の計算上、税率が有利になります(図表1…超過累進税率の適用、図表2…備考欄)。
- ⑤一代飛ばしの相続の場合、相続税が1回分ですみます。
2.デメリット
- ①養子の納付する相続税は割高になります。通常納付すべき相続税の2割増し(図表2…2割加算)の金額になります。
- ②他の相続人の相続財産が減ることになります。他の相続人の理解を得ておく必要があるといえるでしょう。
また、養子は遺留分侵害額請求権を有することになります。今回のシミュレーションでは、長男の財産の一部(図表2…現預金1,000万円)を養子(長男の子)のものとする相続内容ですが、仮に養子が遺留分侵害額請求をした場合は、最低でも6分の1の財産を取得する権利があります。なお、養子が未成年の場合には、遺産分割協議のため未成年後見人の選任が必要になったり、また、養親の死亡により、実親である長男に親権が戻るわけではなく、親権者が不在となります。その場合は、死後離縁の手続きを家庭裁判所に申告することもできます。
3.養子縁組を複数人としたら……
1.のメリットを考慮すると、養子を1人ではなく、複数としたらよいのではないかと思われる方もいるかと思います。
残念ながら、相続税法上で法定相続人の数に含める養子の数には次の制限があります。
- ①被相続人に実の子供がいる場合1人まで
- ②被相続人に実の子供がいない場合2人まで
※次のいずれかに当てはまる人等は、実の子どもとして扱われ、法定相続人の数に含まれます。
●被相続人との特別養子縁組※により被相続人の養子となっている人
●被相続人の配偶者の実の子どもで被相続人の養子となっている人
※子どもの福祉の増進を図るために、養子となる子どもの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度
4.まとめ
養子縁組制度には普通養子縁組と特別養子縁組の2種類がありますが、通常は普通養子縁組となります。その場合、実の親との親子関係がなくなるわけではなく、もう一つ親子関係ができるイメージです。民法上は養子の数に制限はありませんが、相続税法上は前記3.の法定相続人の数の制限があります。国税庁のHPには、次のただし書きがあります。「養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、3.①または②の養子の数に含めることはできません」。
牽制の意味合いもあると思いますが、他の相続人との関係も含めて、養子縁組は慎重に検討したほうがよいでしょう。
コンパッソ税理士法人
税理士
若林 昭子
大学卒業後、弁護士秘書を経て税理士資格取得。平成15年東京税理士会登録。平成29年から現職。TKC東京都心会会員。(株)山櫻監査役、(一社)日本中小企業経営支援専門家協会理事を務める。