相続相談
2023.05.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.26 不動産の相続時精算課税制度の利用について


Question

相続時精算課税制度が改正されたと聞きました。 どのように変わったのでしょうか?

Answer

生前にできる相続税対策のひとつに「相続時精算課税制度」がありますが、「令和5年度税制改正大綱」により、令和6年以降の贈与においては、特別控除(累計2,500万円)に基礎控除(年110万円)が追加されました。
この制度の利用にあたっては、利用する際の注意点やメリット・デメリットをよく理解し、相続開始のタイミングや贈与財産の額などを検討することが必要になります。

1.制度の概要

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳(注)以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

(注)令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

相続時精算課税制度を選択すれば、複数年にわたり最大2,500万円まで特別控除を適用することができます。ただし、2,500万円を超過した贈与については、その超えた部分に一律20%の贈与税率が課税されます。

また、贈与した者の相続の際には、相続時精算課税制度を選択して特別控除を適用した最大2,500万円までの贈与財産は、相続発生時(死亡時)の相続財産に持ち戻して、相続税額の計算を行います。

令和6年1月1日以降の贈与において相続時精算課税制度を選択した場合には、2,500万円の特別控除とは別枠で110万円の基礎控除の適用を受けることができるようになりました。

2.贈与税額の計算

(1)令和5年12月31日までに制度を選択した場合
(年間贈与額※1-特別控除額※2)×20%=贈与税額

※1 制度を選択した対象贈与者からの年間贈与額
※2 最大2,500万円(次年度以降は残額)

(2)令和6年1月1日以降に制度を選択した場合
(年間贈与額※1基礎控除額※2-特別控除額※3)×20%= 贈与税額

※1 制度を選択した対象贈与者からの年間贈与額
※2 年間最大110万円
※3 最大2,500万円(次年度以降は残額)

〔例〕

70歳の父が35歳の息子に、相続時精算課税制度を選択して相続税評価額3,000万円の不動産の贈与をした場合の贈与税額は、それぞれ次のようになります。

(1)令和5年中の贈与なら前記2.(1)が適用され
(3,000万円-2,500万円)×20%=100万円
(2)令和6年以降の贈与なら前記2.(2)が適用され
(3,000万円-110万円-2,500万円)×20%=78万円

3.相続時精算課税制度のメリットとデメリット

[メリット]

(1)2,500万円までの特別控除があること

相続時において持ち戻し(相続財産への加算)があるものの、その価額は贈与時の価額が適用されます。たとえ相続時に評価額が上がっていたとしても、贈与時の評価額で相続税が計算されます。

(2)制度選択後の2,500万円を超えた贈与財産については一律20%課税で済むこと

暦年課税では年600万円を超える贈与については30%以上の税率が適用されますが、相続時精算課税制度を選択していれば、20%の税率が適用されます。

[デメリット]

(1)制度を適用すると、暦年贈与制度に戻れなくなること

相続時精算課税制度は特定の者からの贈与だけが対象となります。暦年贈与制度に戻れなくなるのは、特定の者からの贈与分だけで、その他の者からの贈与は暦年贈与制度の対象となります。また、令和6年以降に選択を開始した相続時精算課税制度であれば、110万円の基礎控除を適用することができます。

(2)制度を適用した財産には、小規模宅地等の特例が使えなくなること

一定の要件を満たした宅地等を相続した場合は、その宅地等の相続税評価額が最大80%減額される特例がありますが、相続時精算課税制度を適用すると、宅地等の相続ではなく贈与となるため、贈与時には小規模宅地等の特例は適用できません。

(3)相続時に比べて、不動産の取得にコストがかかること

相続時精算課税制度を適用して不動産を贈与する場合は、不動産の取得時にかかる登録免許税や不動産取得税等が、相続時に比して割高となります。

4.どのような場合に相続時精算課税制度を利用すべきか

(1)もともと相続税がかからないと想定される場合

(2)将来多少の相続税がかかると想定されるが、令和6年以降110万円を超える贈与をする必要がある場合

(3)収益不動産(賃貸物件)を所有されている場合

 賃貸物件を子・孫に贈与することで、相続を待たずに、賃貸収益を子・孫に与えることができます。

(4)値上がりが予想される不動産を所有している場合

前記3.[メリット]に記載のとおり、値上がり前の贈与時の評価額で相続税の計算をすることができます。

5.相続時精算課税制度を利用すべきではない人とは

(1)暦年贈与を適用したい人

令和6年以降は110万円の基礎控除を適用することができますので、令和5年中の選択はさけるべきです。

(2)相続時に小規模宅地等の特例の適用を受けたい人

たとえば自宅を贈与の対象と考えた場合、相続時精算課税制度を利用して贈与をするよりも、小規模宅地等の特例を選択した方が有利となる場合があります。

今回は、令和6年に改正される相続時精算課税制度の内容を加味してご案内しました。制度の採用には、不動産の専門家や税の専門家ともご相談のうえ、利用されることをお勧めします。


若林昭子

コンパッソ税理士法人
税理士

若林 昭子

大学卒業後、弁護士秘書を経て税理士資格取得。平成15年東京税理士会登録。平成29年から現職。TKC東京都心会会員。(株)山櫻監査役、(一社)日本中小企業経営支援専門家協会理事を務める。