先祖から引き継いできた大切な土地が、大雨による土砂崩れで被害に遭ったような場合、相続税を減額する方法はあるのでしょうか?
Answer
相続等により取得した財産が、災害によって被害を受けた場合、相続税を減免する制度があります(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」)4条、6条、災害減免法施行令11条、12条)。
以下で、国税庁ホームページのタックスアンサー等を用いて解説します。
災害が発生した場合の土地や家屋の補償について
昨年は、能登半島や日向灘を震源とする地震をはじめ、台風などによる大雨の被害が相次ぎ、「自宅の裏山の斜面が崩れる土砂災害が起きて、地盤ごと家を失ってしまった」という痛ましいニュースをずいぶん見聞きしました。
土砂災害とは、一般論として、山地の斜面の土砂や岩石が急激に移動する現象のことを指し、土砂崩れや山崩れ、地すべり、土石流などが土砂災害に該当するとされています。
災害が発生した場合、火災保険に加入していれば、火災のみならず、洪水や土砂災害などの自然災害や、一定の偶然の事故による損害を受けた場合でも補償を受けられます。例えば、豪雨により土砂崩れが発生し、自宅が倒壊した場合に、加入している火災保険によっては、被害にあった家屋について補償が受けられるようです。
しかし、火災保険による補償は、あくまでも家屋に対するもので、土地に生じた被害については補償がありません。
災害を受けたときの相続税の取扱い
この点、タックスアンサー「No.8006 災害により被害を受けたときの相続税の取扱い」では次のように説明されています。
相続等により取得した財産が、災害によって被害を受けた場合において、次の①または②のいずれかに該当するときには、相続税が減免されます。
① 相続税の課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後の価額)のうちに、被害を受けた部分の価額(保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除く)の占める割合が10分の1以上であること。
② 相続税の課税価格の計算の基礎となった動産等※1の価額のうちに、その動産等について被害を受けた部分の価額(保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除く)の占める割合が10分の1以上であること。
※1 動産等とは、動産(金銭および有価証券を除く)、不動産(土地および土地の上に存する権利を除く)および立木をいいます。
なお、災害があったのが法定申告期限前(相続税の申告書を提出する前)であるか、後であるかで、免除される金額や手続き等が変わりますが、ここでは割愛します。詳しい内容は同タックスアンサーをご覧ください。
土地に生じた被害について
しかし、上記の説明を読む限り、土地に生じた被害については特に触れられていないので、土砂崩れや山崩れ、地すべり、土石流などの土砂災害で被害を受けた土地について、災害減免法の適用を受けられるのか心配になります。それでは、ご質問のように、所有する土地が土砂崩れで被害に遭った場合の相続税の取扱いはどうなるのでしょうか。
これについては、東日本大震災発生時に出された、平成23年10月17日付国税庁課税部資産評価企画官情報第5号の「東日本大震災に係る財産評価関係質疑応答事例集」(以下「情報」)の「Q2:地割れ等が生じた特定土地等※2はどのように評価するのですか」が参考になりそうです。
※2 特定非常災害により相当な損害を受けた地域として財務大臣の指定する地域。
【情報Q2:地割れ等が生じた特定土地等はどのように評価するのですか(抜粋)】
震災により、地割れ等が生じたことによって土地そのものの形状が変わったことに伴う損失(物理的な損失)が生じ、一定の要件に該当する場合(注)については、災害減免法第6条(相続税または贈与税の計算)による相続税または贈与税の減免措置の対象となります(図表)。この場合における「被害を受けた部分の価額」は、物理的な損失に係る原状回復費用の見積額(保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除く)の100分の80に相当する金額を、災害減免法第6条における土地等の「被害を受けた部分の価額」として差し支えありません。
(注)上記の一定の要件に該当する場合とは、①相続税または贈与税の課税価格の計算の基礎となった財産の価額(相続税については債務控除後の価額)のうちに被害を受けた部分の価額の占める割合が10分の1以上であること、または②相続税または贈与税の課税価格の計算の基礎となった動産(金銭および有価証券を除く)、不動産(土地および土地の上に存する権利を除く)および立木(以下「動産等」)の価額のうちに動産等について被害を受けた部分の価額の占める割合が10分の1以上であることのいずれかに該当する場合です。
図表:物理的な損失と経済的な損失(参考)
特定土地等についての災害減免法第6条及び震災特例法の対象となる被害の具体例
災害減免法
物理的な損失
→ 土地そのものの形状が変わったことに伴う損失
- ・地割れ、亀裂 ・陥没
- ・隆起
- ・海没
震災特例法
経済的な損失
→ 上記以外の損失(地価下落)
- ・街路の破損 ・鉄道交通の支障
- ・ライフラインの停止
- ・周囲の建物の倒壊
- ・がれきの堆積
- ・塩害
出典:国税庁資料(一部加工)
上記情報Q2の記載から、土砂崩れや山崩れ、地すべり、土石流などの土砂災害により被害を受けた土地についても、災害減免法の適用を受けられることが明らかとなりました。また、情報において示された土地等の「被害を受けた部分の価額」の簡易な算定方法は、実際に災害が発生した場合の算定方法として、大変参考になるように思えます。
なお、令和5年度税制改正において、相続時精算課税適用者が、特定贈与者から贈与により取得した土地または建物について、その贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に、令和6年1月1日以後に災害※3によって一定の被害※4を受けた場合(その者がその土地または建物を贈与日から災害発生日まで引き続き所有していた場合に限る)には、その相続税の課税価格への加算の基礎となるその土地または建物の価額は、その贈与の時における価額から、その災害による被災価額を控除した残額とすることができることになりましたので、こちらもご参考としてください(出典:国税庁HP「No.8007 災害により被害を受けたときの贈与税の取扱い」より抜粋)。
※3 災害とは、震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害および火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害ならびに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいいます。
※4 一定の被害とは、その土地の贈与時の価額またはその建物の想定価額(注1)のうちに、その土地または建物の被災価額(注2)の占める割合が10%以上となる被害をいいます。
(注1)想定価額とは、その建物の災害発生日における一定の算式により求めた価額をいいます。
(注2)被災価額とは、被害額から保険金などにより補てんされる金額を差し引いた金額をいい、その土地の贈与時の価額またはその建物の想定価額を限度とします。
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税理士法人チェスター
東京本店審査部
税理士
飯田 隆一
国税庁出身で、東京国税局資産評価官、同審理課長、同国税訟務官室長等を歴任。主な著書に、『令和2年版図解財産評価』(編者、大蔵財務協会)、『令和2年版相続税贈与税土地評価の実務』(編者、大蔵財務協会)ほか多数。