相続相談
2021.04.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.1 相続対策としての配偶者居住権制度の活用


Question

配偶者居住権(民法1028条)を設定した場合と、設定しない場合とで相続税額に違いが生じる場合があると聞きました。具体的にどのように異なるのか教えてください。

Answer

1.配偶者居住権とは

平成30年7月の民法改正によって配偶者居住権の規定が新設され、令和2年4月1日から施行されました。

配偶者居住権とは、被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者が、遺産分割または遺言により、その居住していた建物の全部につき、無償で居住したり賃貸したりすることができる権利のことをいいます。

今回は配偶者居住権を設定した場合とそうでない場合との相続税額の差異について解説いたします。

2. 配偶者居住権のポイント

下図の場合、建物の所有は子、建物の居住権は配偶者です。

配偶者居住権のポイント

配偶者居住権等は配偶者の死亡により消滅し、配偶者の相続財産とはなりません。このことから、二次相続(配偶者死亡時)の相続税の観点からは、配偶者居住権等を設定したほうが税負担が減少することが想定されます。

以下で、具体例を挙げて相続税の計算上、二次相続において配偶者居住権がどのように評価されるかをみていきます。

事例 「配偶者居住権」の設定の有無による相続税額の差異

下記のような財産内容の被相続人Xに相続が発生した場合、配偶者居住権を設定しない場合と設定した場合とで相続税額はどの程度異なるでしょうか。

「配偶者居住権」の設定の有無による相続税額の差異
被相続人の財産内容

【前提条件】
・夫Xの相続において、金融資産は妻Yと子Zが2分の1ずつ取得する
・自宅には被相続人X、妻Y、子Zが同居していた
・妻Yの所有財産は8,000万円である
・一次相続・二次相続ともに小規模宅地等の特例を適用する

1.「配偶者居住権」を設定せず、配偶者が自宅の所有権を相続した場合

「配偶者居住権」を設定せず、配偶者が自宅の所有権を相続した場合

配偶者居住権を設定せずに土地および建物を一次相続発生時に夫から妻へ、二次相続発生時に妻から子へと相続した場合には、土地および建物の全体に対して2回相続税がかかることになります。

一次相続・二次相続ともに小規模宅地等の特例の適用(居住用宅地として330㎡まで80%の評価減)を受けることが可能な事例ですが、配偶者の税額の軽減があった一次相続に比べて、二次相続発生時には多額の相続税が生じてしまいます(注:一次相続・二次相続発生時の土地・建物の評価額に変更がないという前提で計算しています)。

【一次相続・二次相続合計相続税額】

【一次相続・二次相続合計相続税額】

2. 「配偶者居住権」を設定し、子が自宅の所有権を相続した場合

「配偶者居住権」を設定し、子が自宅の所有権を相続した場合

一次相続発生時に配偶者居住権を設定した場合は、子が建物所有権および敷地所有権を相続するため、設定しない場合と比較して一次相続時の相続税が多額になります。しかし、二次相続発生時には妻の配偶者居住権および配偶者敷地利用権が消滅するため、土地および建物に相続税が生じません。その結果、配偶者居住権を設定しない場合に比べ、二次相続時の相続税額が低くなります。

上記の事例のように配偶者居住権を設定した場合には、二次相続の際に配偶者居住権に該当する部分が相続税の対象外となることで、相続税の負担が減少することが想定されます。

一方で、一次相続時の小規模宅地等の特例適用額(評価減の金額)が減少することで、相続税負担が増える場合も考えられます。このため、配偶者居住権を設定する際には、一次相続・二次相続の相続税額のシミュレーションを行った上で、総合的に判断する必要があります。


野田 優子

野田綜合法律会計事務所
公認会計士・税理士

野田 優子

1995年公認会計士第二次試験合格。Price Waterhouse Coopers(PwC)国際部(現あらた監査法人)、大手税理士法人を経て2006年に独立し、野田綜合法律会計事務所設立。不動産に関する税務全般業務およびコンサルティング業務をメインに、相続および事業承継関連、M&A支援業務、上場支援業務、法人税申告業務などを行う。