「五風十雨(ごふうじゅうう)」の時
前 全日特別顧問・全日みらい研究所所長 毛利 信二


毛利 信二

独立行政法人
住宅金融支援機構理事長
前 全日特別顧問・
全日みらい研究所所長
元 国土交通事務次官

毛利 信二

全日会員の皆さん、こんにちは。2年間務めた特別顧問を3月末で退き、4月から新たに独立行政法人住宅金融支援機構理事長を拝命致しました。全日を去るに当たり、ここに感謝と、不動産業への私の思いを記し、未来を皆様に託したいと思います。

40年間の役人生活で住宅行政や不動産業に関わる機会が多かった私には、いわば、この国の不動産業の歴史を行政サイドから見てきた者という自負がありました。

しかし、特別顧問として過ごす2年の間に、熟知しているはずの不動産市場は全く違う姿を見せてくれました。一昨年、全日の総力を挙げて実現した低未利用地の利用促進を図る100万円定額控除制度の復活。私は担当局長の頃、全取引の3/4超が500万円以上だから取引促進の効果は限定的だと考えていましたが、会員の声を伺う内に、逆にかつての定額控除の廃止こそ取引の阻害要因ではないかと、認識が180度変わりました。100万円控除制度は必ずや「ナッジ」として取引を誘因するに違いないと確信したからこそ、自信を持って税調幹部にも説明することができたと思います。

また、全日みらい研究所長の初仕事となった「全日空家対策大全」の策定を通じて、空き家の市場取引を促すことには一定の公益性があるという新たな発見もできました。このことは、近い将来、空き家取引に関わる会員への直接的な支援の創設につなげていけるかもしれません。

「情報の非対称性」、それが私の認識と市場の間にも存在していたわけですが、もともとは不動産市場の不透明さの代名詞のように用いられます。しかし、同時にそれはプロである不動産事業者の存在価値でもあります。正しく情報を伝える努力を惜しまないことこそ信頼と活性化につながる、この基本中の基本を皆さんにも忘れてほしくないと思います。

さて、この国の不動産業はこれからどこに行くのでしょう。消費者ニーズが益々多様化する中で、それに応えて変化・発展していかなければなりません。たとえ人口が減少しても、不動産業は衰退産業では決してありません。「負動産」と揶揄されることはあっても、これは問題提起、警鐘にすぎません。でも、変化・発展を恐れては時代に取り残されてしまうでしょう。

国は、これからの不動産業のあり方をビジョンの中で示しました。皆さんに期待されているのは、金融、建築、福祉、物流などの他業種との連携によるトータルサービスの提供者となること、そして新技術を駆使してサービスの高度化を進め、人材確保のため業界の魅力向上を図り、信頼産業としての地位を一層堅固にすることです。

しかし、もう一つ大事な基本があると私は思います。大手と違い、会員一人一人が変化に適確に対応するには限界がある、新技術も安くはない、そこで力を発揮するのが横の連携です。TRAのような互助組織もその一つでしょう、規模の利益・集積の経済といいますが、それを強固にして、皆さんの強みを一層磨いていただきたいということです。

コロナ災禍により地域経済は深刻な打撃を受けています。しかし、強靭性と秩序ある行動をとれる国民性はこの国の宝です。いずれわが国はいち早く立ち直り、「五風十雨」の時至らば、世界にその真の強靭さを示し続ける国であると私は信じます。

全日は今年創立70周年を迎えます。これからも、全日会員の皆さんが、地域社会で町医者のように大切な役割を果たしていかれることを期待しています。