Vol.29 ビジネスと社会生活を変革する新たなAIサービス「ChatGPT」


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

2022年11月に公開されたAIサービスの「ChatGPT」(チャット・ジー・ピー・ティー)が世界中を驚かせています。1〜2年のうちにビジネスはもちろん、学習などさまざまな社会生活を変革すると思われます。本欄で詳しく紹介します。

■ 社会を変える人工知能「ChatGPT」の衝撃

「ChatGPT」はチャット(おしゃべり)という名前のとおり、対話式のAI(人工知能)です。ホームページから質問事項を打ち込むと、あっという間に的確な答えを返してくれます。その正確さ、自然な言語処理、回答までの速度に全世界が驚いているのです。

試しに、本欄の読者の皆さんが興味がありそうなことを聞いてみました。

「新しい不動産ビジネスを始めたい」。すると、1分ほどで下記のような回答が返ってきました。以下、英語で行ったQ&Aを意味が変わらないように翻訳しています。

【ChatGPTの回答】

近年、テクノロジーは不動産業界の変革に大きな役割を担っています。ここでは、不動産ビジネスにおける新しいトレンドの例をいくつかご紹介します。

オンライン不動産プラットフォーム。Zillow、Redfin、Realtor.comなどのオンラインプラットフォームは、買い手と売り手が物件を探し、リサーチすることを容易にしています。また、これらのプラットフォームを利用することで、不動産業者は物件を掲載し、より多くの人にリーチできるようになりました。

不動産テクノロジー企業は、エージェントや不動産管理者のパフォーマンス向上を支援する新しいツールやソフトウェアを開発しています。これには、マーケティングやリードジェネレーションなどのタスクを自動化するツールや、物件を紹介するためのバーチャルリアリティや3Dモデリングツールなどが含まれます。

バーチャルツアーとオンライン取引。COVID-19の大流行により、バーチャルツアーやオンライン取引はより一般的になってきています。不動産業者は、これらのサービスを顧客に提供できるよう、技術やツールに精通している必要があります。

ブロックチェーン技術。ブロックチェーン技術は、透明性と安全性を向上させるために、不動産取引でますます使用されるようになっています。不動産業者は、ブロックチェーンの仕組みや、業界でどのように利用できるかの基本を熟知しておく必要があります。

不動産業界は常に進化しており、エージェントや事業主が成功するためには、最新のトレンドやテクノロジーに通じていることが重要です。

誌面の都合で回答のうち半分だけを紹介しました。

いかがでしょうか。私は驚きました。実は、今後、本欄で取り上げようと思っていたことがかなり含まれていたからです。さらに、回答のカバーする範囲が広範にわたっていることに驚きました。この回答がでるまでに1分もかかっていないことを考慮すると、同レベルの問いに対する回答では、すでに人間を超えていることは間違いありません。

このような想像を超える技術力の高さから、すでに大学などの小論文、ビジネスにおける報告書などで「ChatGPT」が活用され始めています。近いうちに、もっとさまざまな場面での活用が進んでいくでしょう。

■ AI技術公開でさまざまなシステムに組み込まれる

この「ChatGPT」はOpenAI(オープンAI、米国・サンフランシスコ)という研究所が開発しました。現在は運営に関わっていませんが、イーロン・マスク氏が創立メンバーに名を連ねている非営利組織です。テクノロジーの発達によって、GAFAに代表される巨大な企業が人々の生活インフラを牛耳り、データを独占するようになってしまった反省を受け、非営利で、開かれた団体が次世代の技術であるAIの開発を担うために活動しています。そのため、作られた技術の多くは無料で公開されています。

OpenAIでは、「ChatGPT」以外に、文章をもとに画像を生成するAI「DALL-E 2」なども開発しています。「芝生で子どもたちが遊ぶ画像」など、短い文章をもとに極めて写実的な絵を作ることができるため、こちらも衝撃をもって世界に受けとめられました。

OpenAIはGenerative Adversarial Networks (GANs)というモデルを使って文章や画像を作り出しているようです。これは、生成器と識別器という2つの機能を軸にした技術です。入力された情報をもとに、膨大なデータを学習した生成器によって新しいデータを作りだし、そのデータを識別器が批判的に判定する仕組みです。やや乱暴ですが、漫才のボケとツッコミのようなやり取りと理解するとわかりやすいかもしれません。AIはこのような、ボケとツッコミをすさまじいスピードで繰り返すことで、驚くほど正確なデータを作り出していると思われます。

公開された「ChatGPT」は回答で出された文章をユーザーが評価することができます。全世界のユーザーがツッコミを入れることで、より正確になるデータを収集しているようです。実際に、回答の正確性は日を追うごとに高まっています。そのため、この文章が読者の皆さんに読まれる頃には、私と同じ質問をしても、上述した回答は出てこないと思われます。

米国の主要IT企業 Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をとってつくられた言葉。

■ 不動産ビジネスではどのように活用される?

「ChatGPT」の一部の技術はすでに公開されているためさまざまな活用方法が試されています。不動産ビジネスでも、次のような活用が実用化されるかもしれません。

① 自然な受け答えを利用して、不動産に関するよくある質問を自動で回答してくれるシステム。特に賃貸管理ビジネスでは、ゴミ出しや警報器の誤作動処理など、入居者から聞かれることが多い細かい業務の代行で重宝しそうです。

② 家・部屋探しの初期レコメンドとしての利用。現在のポータルサイトでは、駅名や予算、家の設備や機能を入力して、条件にあう物件を表示します。これが、職場や学校、よく買い物する場所などの曖昧な情報を入力するだけで、おすすめの物件を紹介してくれるなど、ユーザーの物件探しを容易にしてくれる仕組みとして応用できそうです。不動産会社にとっては、物件仲介における最初のヒアリングの手間を大きく減らすことができるでしょう。

③ 高度な文章作成能力は不動産のセールス文書を書くのに役立つでしょう。売り物件の情報を入力するだけで、自然な表現で物件の魅力を伝えてくれる文章を何パターンも作成してくれます。顧客に送るメールの文章執筆は今よりもずっと楽になるでしょう。

本誌の連載第25回目で不動産テックの本質はAI技術にあることを紹介しました。それから1年も経たずに、ここまで実践的なAI技術が登場したことに改めて驚いています。皆さんもぜひ、この衝撃を体験してみてください。


木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。