Vol.30 交通革命「MaaS(マーズ)」が不動産ビジネスに与える影響


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

不動産ビジネスを大きく変革すると言われる「不動産テック」は、まだ全容が計り知れないほど大きな可能性を秘めています。不動産テックによって、何が変わるのか、変革の本質を紹介していきます。

■ MaaSによって都市の在り方が変化する

不動産テックにより都市のあり方が大きく変わりそうです。建築や交通、通信だけでなく、エネルギーや上下水道などのインフラ、環境、治安、保健衛生など多岐にわたる分野が複雑に影響しあう都市は、それぞれがテクノロジーによって相互に発展を進めています。

なかでも建築と交通は不動産ビジネスにとりわけ大きな影響を与えると思われます。

MaaS(マーズ)という言葉が聞かれるようになって10年近く経つでしょうか。MaaSとは「Mobility as a Service」の略称で、カーシェアリングや鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルなどさまざまな交通手段を統合的に提供して、利用効率を向上させるだけでなく、渋滞や駐車場不足、環境への負荷低減などに繋げることを目指す動きです。

都市部では一般的になってきたカーシェアリングやシェアサイクルが端緒となり、少しずつ広がりを見せています。なかでも、決定打になると言われているのが車両の自動運転技術です。

自動運転が広まると、都市の構造や機能は大きく変わります。交通インフラが効率化され、渋滞が緩和し、駐車場の需要も減ります。その結果、道路や駐車スペースが別の用途に使われるようになるかもしれません。また、ガソリンスタンドの数も減ると予想されます。実はすでに、ピーク時(1995年)には日本全国で約6万カ所もあったガソリンスタンドは、最近では約2万9,000カ所にまで減っています。今後も、ガソリンスタンドが他の用途に転用されることが増えるかもしれません。

MaaSによる変化で、地価も変動する可能性があります。土地利用の方法が変わると、再開発のチャンスも増えます。自動運転車だけでなく、シェアリングサービスのキックボードや自転車も都市を変える要因となるでしょう。駅から遠い場所でも、電動アシスト付きのキックボードや自転車が利用できれば、便利さが大きく向上します。

■ AIで歩行速度が高まる!?

また、歩行そのものを高速化する技術開発も行われています。米国に本拠地を置くShift Roboticsという企業は、靴に取り付けることで歩行速度が最大250%も高まる「ムーンウォーカーズ」を開発中です。見た目は、かつて大ブームになったローラースケートを彷彿とさせますが、高性能の完成計測装置によって利用者の足の動きを感知して、歩行をアシストします。歩き方の学習や路面の状態把握をAIが行うようです。すでに商品化されており、一部の人に先行販売すると報じられています。

歩行速度を上げるローラースケートと聞くと、さすがに冗談のように感じます。特に自動運転技術と並べて論じるには軽すぎると思う人も少なくないでしょう。しかし、こうした試みは、実は大きな可能性を秘めていると私は思います。

都市には至るところに段差があります。車両と歩行者を区別するためや浸水対策など、理由はさまざまですが、いずれも自動車や自転車など車輪による移動を難しくしています。そのため、欧米では雑踏警備などで段差の影響を受けない騎馬警官が今も現役で活動しています。

技術系大学の最高峰MITで設立され、ソフトバンクグループに買収されたボストン・ダイナミクス社が開発している4足歩行ロボットの映像をご覧になった方も多いでしょう。ヌルヌルと動く様子がロボットというよりも奇怪な生き物のようで、さまざまな反応を呼び起こしましたが、段差や悪路、場合によっては壁やフェンスすらも越えることができるため、交通や輸送、救急救命などを劇的に変革する可能性があることを知っておきましょう。

■ デジタル空間のモデリングで都市の解像度を高める

建築の側面から都市を大きく変える技術として注目されているのはBIM(Building Information Modeling)です。BIMとは、建築物やインフラの設計、建設、運用・維持管理などのライフサイクル全体に関する情報をデジタルモデルとして扱うサービス、考え方を指します。BIMを利用することで、建築物やインフラの設計者、建設者、オーナーや運用者など、関係者間で情報の共有がしやすくなるだけでなく、建物の価値向上を促し、今までにない詳細情報が手に入ることで、取引をスムーズにしてくれます。

さらに、デジタルツインシステムという現実の建築物やインフラのレプリカをデジタル上に作成し、リアルタイムでデータや情報を分析する技術も開発が進んでいます。デジタルツインでは、現実の建物とデジタル上のモデルを連携させ、設計や建設、管理などを最適化させることができると考えられています。設備機器の入れ替えや新設状況、利用者の動き、テナントの入退去、さらには財務情報も含めた管理が可能です。

いわゆる役所調査などで調べる情報をあらかじめ整理しておけば、BIMとデジタルツインシステムで建築計画も劇的に変わるでしょう。例えば、ビルを建てる前に、細かいシミュレーションができ、ビルだけでなく、学校や商業施設など周りの環境にどんな影響があるかわかります。

こうした技術で活用するためのデータ基盤整備のために、国交省はプラトーというプロジェクトを始めました。都市を3Dでモデル化して、色々なことに使えるようになりました。これに建物の詳細データを加えると、どの街でどんな人が生活し、建物がどのように使われているかが可視化され、どんな施設が必要とされているかも見えてきます。こうした技術は都市と不動産ビジネスを大きく変えるはずです。

デジタルツインのイメージ
デジタルツインのイメージ

木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。