Vol.32 ChatGPT開発者の野望と不動産ビジネス


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

本連載中に最も世間を騒がせたのは「ChatGPT」という人工知能(AI)で間違いないでしょう。読者の皆さんにも、すでに自身の仕事の補助として利用している人も多いと思います。今回はChatGPTの生みの親であるサム・アルトマン氏の野望と不動産ビジネスについてご紹介します。

■サム・アルトマンの興味の行方

「ChatGPT」を開発したAI研究企業「OpenAI」社を率いるサム・アルトマン氏。時の人と呼ぶにふさわしい注目の人物で、今年だけで複数回、来日しています。4月には岸田総理大臣とも面会し、日本にAI研究機関を作ることを示唆するなど、全国紙の一面をたびたび飾っています。

公表されているプロフィールによると、アルトマン氏はスタンフォード大学在学中に質問回答サイト「Loopt」を設立し、その後会社を売却。次に Y Combinator(YC)の代表に就任しました。YCはAirbnbなどを輩出したスタートアップ企業の支援組織です。

その後、YC代表を退任したアルトマン氏はOpenAI社の共同設立者となり、現在は同社のCEOを務めています。しかし、彼の興味はAIに留まることなく、もっと広い世界にあるようです。

■AI普及のために夢の電力を発明する

アルトマン氏はOpenAI社のCEOのほかに、核融合発電の研究企業であるヘリオン・エナジー社(米国・ワシントン州)の会長も務めています。ヘリオン・エナジー社は、水を燃料にした低コストでクリーンな電力生産を目指しており、今年5月には将来的なマイクロソフト社へのエネルギーの提供を発表し、世界中を驚かせました。これは2028年にも開始される予定ですが、一見、何の関連もないと思われるAIと新エネルギーに、アルトマン氏はどのような関係を見出したのでしょうか。

将来、AIがさらに進化し、人間の補助的な役割だけにとどまらず、人間ができない領域にまで進出することになったとき、世界中で必要とされる電力が増大します。ただでさえ、現在は世界的に電力需給が逼迫しており、家計における電力費の負担は重く、多くの人を苦しめています。この先、進歩したAIの普及が電力に足を引っ張られることになるのは避けたい、という考えのもと、クリーンで安価なエネルギーの開発を進めているのです。

一方で、核融合はクリーンで持続可能なエネルギー源となる潜在能力を持つため、環境に配慮した不動産開発の需要が高まるなかで、この発明は不動産開発者にとって魅力的な特性ともいえるでしょう。

ちなみに、核融合にいたる緻密なシミュレーションにもAIをフル活用しているといわれています。

ヘリオン・エナジー社のクリーンで持続可能なエネルギー源が使われるまちのイメージ。
ヘリオン・エナジー社のクリーンで持続可能なエネルギー源が使われるまちのイメージ。
出典:HelionのYouTubeチャンネルより

■ブロックチェーン技術にも投資

アルトマン氏が取り組む“世界を変える技術革新”はもう1つあります。ブロックチェーン技術を使ったデジタルIDプラットフォーム「ワールドコイン」です。これは、目の虹彩を使って、ネットなどのデジタル上で個人の安全な識別コードを作成し、それをブロックチェーン上に保存しようとするプロジェクトです。

簡単にいうと、偽造される心配がなく、なおかつ手間のかからない方法で、自分自身を証明できる手段を生みだそうとする試みです。

■不動産ビジネスへの応用

これは不動産ビジネスにも大いに関連がある技術革新といえます。ブロックチェーン技術によって取引の透明性と効率性が向上すれば、不動産取引における契約書の作成や署名、所有権の移転などのプロセスもデジタル化し、自動化することが可能になります。これにより、取引にかかっていた時間とコストが大幅に削減されることになるでしょう。

また、不動産の分散型所有権も可能になります。暗号資産とブロックチェーンを使用して不動産の所有権をトークン化し、それを分散型の形で所有することで、投資家は不動産の一部を所有することが可能になり、不動産投資をすることが簡単になります。ブロックチェーン技術に国境はありませんので、世界中から投資を募ることができます。不動産市場には、これまで以上にたくさんの資産が集まってくる可能性があるでしょう。

さらに、ブロックチェーン技術は、その性質上、改ざんがほぼ不可能であるため、不動産取引における信頼性とセキュリティを向上させることができます。こういった技術が一般的になれば、地面師詐欺なども不可能になるかもしれません。このように、一見、関係がないと思われる技術革新が、実は相互に大きく影響を与えあっていて、それが不動産ビジネスにも大きく関連していることは、いまや珍しくありません。

不動産テックは、いわゆる不動産管理会社や仲介会社らに向けたビジネスの効率化につながるものとしてスタートしました。しかし、ここ数年は、人々の生活のあり方から働き方までを含めて、革新しようとする動きが出てきています。本連載でも引き続き、ChatGPTを開発したアルトマン氏と同じく、壮大に未来を構想するサービスを紹介していきます。


木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。