Vol.33 データと不動産ビジネスの新しい関係性


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

不動産ビジネスを大きく変革するといわれる不動産テックは、まだ全容が計り知れないほど大きな可能性を秘めています。今回は、不動産ビジネスにおける「データの種類」と「活用方法」、そしてそこに付随する「課題」について紹介します。

■データ活用の波がもたらすもの

不動産ビジネスは、土地や建物の価格、立地、築年数といった基本的なデータから、顧客の行動、市場の動き、法規制に至るまで、多岐にわたるデータに依存しています。これらのデータをどのように活用するかが、ビジネスの成功を左右するほどの重要性を持っています。

しかし、このデータ活用の波が高まる一方で、データセキュリティとプライバシーの問題も深刻化しています。特に、個人情報に関わるデータの取り扱いには極度の慎重さが求められる時代となっています。

当記事では、不動産ビジネスにおけるデータの種類とその活用方法、そしてデータセキュリティとプライバシーの課題について詳しく解説します。

データ活用イメージ

■データの種類とその活用方法

先にも述べたように、不動産ビジネスには、物件の価格、立地、築年数などの基本的なデータから、顧客の行動データ、市場の動き、法規制までさまざまなデータが存在します。これらのデータを効果的に分析・活用することで、より精度の高いビジネス判断が可能となります。

かつては周辺相場を知らなければ土地や家屋の適切な価格設定が難しく、地域に根ざしたデータを持つ会社が圧倒的に有利にビジネスを進めることができました。そして、物件を販売するときには営業リストというデータを持つことで、強力な販売力を得ることができました。しかし、インターネットが普及してからは、データ量が何倍にも増え、市場の動きや顧客の行動データをいち早く知ることが、不動産ビジネスを進める上で必須となっています。

さらに現在は本格的なAI(人工知能)の時代を迎えつつあり、人間が処理できない膨大なデータをAIによって効率的に処理することで、いままで偶然に頼っていたビジネスチャンスを意図的に創出することができるようになってきました。

■不動産に関連する3つのデータ

不動産のデータは、①住所や登記情報などの「基本的なデータ」、②売買価格や賃料データなどの「市場のデータ」、そして、③まだ可視化できていない「AIデータ」の順で発展すると考えます。

①の物件固有の基本データは、不動産取引に関わるならば必ず確認される登記簿記載の所有者履歴や取引履歴などの情報を指します。これは、すでにデータ化されていて誰もが利用することができますが、全てがバラバラに集められているため効率性において発展の余地があります。役所調査に十数時間かかってしまうことも珍しくはないため、全てを統合し、物件に関する情報が一度にわかるデータベースが必要とされています。

これについては、すでに今年5月頃から、不動産ID官民連携協議会が開かれるなど、取り組みが進みつつあります。

②の市場データとは、賃貸物件の入居率やレントロール、近隣物件の最近の売買実績などを指します。このようなデータはほとんどが公には公開されておらず、標準化もされていない状態です。そのため、特定の民間企業のサービスを通じてしか入手できません。レントロールや空室情報が不十分な場合、それが投資用不動産の誤った販売につながり、ここ数年でも何度も問題となっています。このデータの不足が、不動産取引の透明性に大きな影響を与えています。

私が特に注力しているのは、まだ可視化されていない③のAIデータの領域です。具体的には、「特定のエリアで1年以内に不動産を売りたい人はどれくらいいるのか?」といった新しいデータを作成して集めることを目指しています。登記記録などの基本データをAIで分析することで、今まで存在しなかったデータを生成できると考えています。すでに、いくつかの不動産会社や金融機関からの依頼に基づいて、新たなデータを作成しています。AIの急成長により、この分野の可能性は広がり続けています。

■データセキュリティとプライバシーの課題

データを使う際にはセキュリティとプライバシーの確保が非常に重要です。特に個人情報に関するデータは慎重に扱う必要があります。近年、プライバシーに対する意識は高まっています。今年に入ってある地方紙で取り上げられたように、相続が発生した物件の所有者に対して、不動産業者がダイレクトメールを送る行為が一部で問題視されています。「相続したことを知られるのは気持ち悪い」という情緒的な反発に過ぎませんが、一部には登記簿の閲覧を制限すべきという学者もいるようです。世界的なオープンデータの動きに逆行する動きには注意が必要でしょう。

このような問題は日本だけでなく、海外でも見受けられます。たとえば、アメリカ・ハワイ州マウイでの山火事の後、被災者に対して不動産売却のオファーをした不動産業者が批判されました。しかし、復興には公的機関だけでなく、民間の力も必要です。多くの人々は、最初にアプローチしてくれた熱心な不動産業者に相談することが多いのもよく知られた事実です。

このような反発を和らげるためには、不動産ビジネスの透明性と理解度を高めることが重要になるのかもしれません。21世紀はデータの時代ともいわれます。データの進化が不動産ビジネスに対して影響力を高めていくことは間違いないでしょう。

データと不動産ビジネスイメージ

木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。