Vol.12 IoTが引き起こすビジネスの大変革


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

「IoT」という言葉が数年前にブームになりましたが、まったく身近になった感じがしない読者も多いのではないでしょうか。結局は、ビッグデータやAIと同じように、単なる流行言葉だったのではないかと。それは、半分正解で半分間違っています。今回はIoTが抱えるビジネスの根本的な課題と、それを解決した先に見える大きなマーケットについて説明します。

01IoTはなぜ普及しないのか?

読者のみなさんに質問です。身の回りにスマートロックやスマート家電といったIoT機器はどのくらいありますか?おそらく、1つもない方が多いのではないでしょうか。スマートフォンがこれほどまでに普及したのに対して、IoTはまだほとんど普及していないと感じています。一方、産業用はかなり普及しています。例えば、町の自動販売機にはほとんどSIMが入っており、ネットで在庫状況を管理できたり、ガスメーター等の検診も、検針員が直接現地に行かなくてもネットで確認できたりします。産業用の普及に比べて、エンドユーザー向けのIoTサービスの普及が遅れるのには、IoTが抱える大きなビジネス上の問題が潜んでいます。

02IoTは維持費がかかる「サービス」

IoTは、インターネットに接続することでその力を発揮します。しかし、接続するIoTサービスは、必ずランニングコストがかかります。少し専門的な話になりますが、インターネットにつながる際、その玄関ともいえるサーバーが必要です。サーバーは、毎月の維持管理にとてもお金がかかります。昔は毎月数百万円以上かかったサーバー維持費ですが、AmazonやMicrosoftなどが、安価なクラウドサーバーサービスを提供し始めてから、今では毎月数十万円程度にまで抑えられるようになりました。しかし、IoTサービスを利用するユーザー数が増えると、毎月のランニングコストはどんどん膨れ上がります。また、サーバー(クラウドサーバーも同様)は、一度用意すればそれでおしまいではなく、常にメンテナンスを続けないと、ある日突然止まってしまう手間のかかるものなのです。

IoT製品を世に出したメーカーは、最初は機器が売れて収益が上がったとしても、その製品をユーザーが使い続ける限り、月額の維持管理費を払い続けなければなりません。そのため、その費用を初期の機器代にのせるか、月額費用を別途徴収するかを考える必要があります。今まで売り切りだった家電製品・住宅設備とは大きく異なります。また、万が一、メーカーが倒産してしまった場合、せっかく買ったIoT機器が、よくて単なる家電、最悪の場合はまったく使えない代物になります。インターネット通信しか解錠手段のないスマートロックなどは、ほとんどガラクタです。そのため、IoT機器のメーカーにとっては、将来に向かってのコスト負担、消費者にとっては将来に向かっての機器が無駄になるリスクがつきまとうことが、IoTが抱える根本的な課題です(図1)。

図1 IoT機器とコストのバランス

図1 IoT機器とコストのバランス
IoT機器は、サーバー維持費が毎月かかるため、従来の家電製品等と異なり、コストが増える

03IoTが生み出すビジネスチャンス

では、どのようなビジネスモデルであれば、上記の課題は解決できるのでしょうか。最も相性がいいのは、定額課金型サービス、いわゆるサブスクリプションモデルです。毎月一定額を課金することで、サービスを継続的に受けられるもので、AmazonPrime、NetflixなどのITサービスや、携帯電話料金、電気やガスなどのインフラ、ウォーターサーバーや食材配達など、幅広い分野で採用されるビジネスモデルです。そして、もっとも古くからあるサブスクリプションモデルは、不動産の家賃です。今でこそ「サブスク」とかっこよく略されるようになりましたが、家賃や管理費の徴収は、すべてこのビジネスモデルです。家電を購入しようとする一般消費者にとって、サーバーを維持管理するための月額課金が追加されることは、たとえそれが月100円であっても抵抗があるものです。一方、家賃などの毎月の支払い習慣があるものに対しては抵抗がありません。IoT機器が普及するとしたら、不動産の家賃や携帯電話料金など、すでに定額の支払いの文化が根付いているものに寄り添って発展していくのが、最も近道といえます。

私もライナフで、過去にスマートロック単体で月額課金をする道を何度となく模索しましたが、鍵に対して月額を支払うという、これまでになかった支払い習慣を作ることは容易ではなく、市場に受け入れられませんでした。一方で、スマートロックだけではなく、IoTを使って不動産価値全体を上げるようなサービスに対しては、月額課金を受け入れてもらえる確かな手ごたえを感じています。IoTは、新しいサービスを作るための補助輪であり、手段だということを、ぜひ覚えておいてください。「高齢者の孤独死を防ぎたい」「忙しい共働きの世帯に時間を届けたい」「よりオシャレな一人暮らしを提案したい」、そういった目的を実現するための方法として、家事代行や見守り、洋服のレンタルなどがあり、それらをより手間なく実現するための手段として、IoTの活用があります(図2)。

インターネットを皮切りに激変してきたこの20年間。これからの20年は、IoTがビジネスを激変させていくことでしょう。IoTを制するものがビジネスを制する。そんな時代になることを、私は確信しています。

図2 新サービスを提供するうえで手段となるIoT

図2 新サービスを提供するうえで手段となるIoT
スマートロック等のIoT製品の活用で、不在時に荷物の宅配や家事代行等のサービスを提供している賃貸マンションもある

株式会社ライナフ
代表取締役

滝沢 潔

1982年生まれ。神奈川県出身。三井住友信託銀行で資産運用相談、不動産投資セミナーの講師などに従事した後、不動産向けシステム開発会社の株式会社ライナフを設立。不動産投資を24歳から始め、4棟のビル・マンションのオーナーとなる。1級FP技能士、一般財団法人不動産テック協会理事、不動産証券化協会認定マスター。