Vol.13 AIの構造と歴史


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

不動産テックと呼ばれる様々なサービスの根幹には、人工知能(AI)という技術が関わっています。AIの基本的な構造と歴史、役割を知ることで不動産テックへの理解も深まります。不動産ビジネスとの関わりを意識しながら、AIについて解説していきます。

01実は約60年前から研究している

ここ数年で頻繁に耳にするようになったAIですが、その歴史は古く、約60年前から研究・開発が進められています。

では、なぜ今になってAIへの期待が高まっているのでしょうか? この疑問を理解するには「機械学習」と「ディープラーニング」という2つの考え方がとても重要になってきます(図1)。AIの歴史を紹介しながら、解説していきます。

図1 AIの分類

AIの分類

02不発に終わった過去2回のAIブーム

現在のAIの攻勢は実は三度目のブームです。最初にAIが注目されたのは1956年のことです。この年、コンピュータ研究者たちの会合「ダートマス会議」が開かれ、コンピュータの可能性が議論されました。ここで初めて人工知能(Artificial Intelligence=AI)という言葉が使われたとされています。まだコンピュータ自体の研究が始まったばかりの時期にもかかわらず、AIはその可能性が期待されていたのです。

しかし、初期のコンピュータでは「迷路をスタートしてゴールまでたどり着く」といった簡単な問題しか解くことができませんでした。これは推論・探索問題というもので、迷路の分かれ道をA、B、Cなどと記述して、1つひとつ解いていくという単純なものです。

しかし、現実社会では、いろいろな問題が複雑に影響し合っており、迷路のような限られた状況はほとんどないため、まったく応用ができず、AIブームは終焉(しゅうえん)しました。

0380~90年代に二度目のAIブーム

一度は潰えたAIへの期待ですが、コンピュータの性能が発展した1980年代になると、再びAIブームが到来します。中心にいたのは、「Mycin(マイシン)」というエキスパートシステムです。米・スタンフォード大学で開発されたシステムで、感染症の血液疾患の診断が可能という触れ込みでした。患者にいくつかの質問をして、その回答を入力する、つまり問診によって、どのような感染症にかかっているかを導き出し、必要な抗生物質を教えてくれるという現代からみても社会性の高い、先駆的な機能を追究していました(図2)。

「Mycin」が順調に発展すれば、社会に大きな貢献をするはずでしたが、「フレーム問題」と呼ばれる壁にぶち当たります。

コンピュータに知識を書き込めば、書いた分だけ賢くなります。しかし、同じ感染症でも、熱が出る患者と出ない患者がいるように、現実社会には常に例外が存在します。また、強い痛みにも耐えられる人がいる一方で、大した痛みでもないのに転げ回る人が存在します。子どもや、うまく話せない人もいる。研究者はここでもAIを現実社会に応用していく難しさを痛感して、ブームは終わりました。

※ 「有限の情報処理能力しかないAIには、現実に起こりうる問題のすべてに対応できるわけではない」というAI研究における最大の難問。

図2 Mycinによる診断例

Mycinによる診断例

04インターネットによる膨大なデータ収集がAI研究を変えた

二度のAIブームに足りなかった要素は、複雑な世界を理解するための膨大なデータでした。ところが90年代後半になるとインターネットが登場し、世界のデータ量は爆発的に増加しました。

このことで、2010年代に入り、人工知能が再び脚光を浴びることになったのです。三度目のブームの主役となっているのは「機械学習(Machine Learning)」と「ディープラーニング」です。

膨大なデータによって2つの技術が進化し、AIはこれまでの壁を破り、人間の頭脳を超えるような成果を出すことができるようになりました。

詳しくは次回以降の連載で解説しますが、簡単に言えば、人間によって用意された方程式を駆使して問題を解くのではなく、人類の誰も知り得ない新しい方程式を見つけることができるようになりました。

これは決定的な進歩といえます。前述の「Mycin」であれば、これまでは人間がデータを入力すれば、医師が使っている診断方法を用いてAIが病名を教えてくれました。

しかし、現在のAIは患者のデータを「機械学習」と「ディープラーニング」を用いて解析し、まだ誰も知らない新しい病気の原因を見つけることができるようになったと理解してください。膨大なデータが集まることにより、病気の「特徴量」が増えることで固有の性質を見つけることが可能になったわけです。実際に、新型コロナウイルスの感染対策やワクチン開発などにもAIが使われています。

これは自動運転や言語翻訳などあらゆる分野で応用される考え方です。

このようにAIによって人類未踏の新しい発見ができるようになった理由について、次回、詳しく解説していきます。


株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

慶応義塾大学経済学部卒業。東京大学EMP修了。東京大学、協力研究員。さくら銀行、IT企画部門にてビッグデータを戦略的に活用した営業推進を担当。2003年、株式会社トーラスを設立。登記簿を集約した不動産ビッグデータを構築。AIを活用したマーケティング支援を行う。 MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストで受賞実績。