Vol.18 今、不動産業界でDXが求められている理由
日本全体で急速に広まりつつあるDX(=デジタル・トランスフォーメーション)。不動産業界もその例外ではありません。むしろ、不動産業界こそがDXの本丸であるといえます。今回は、不動産業界でDXが求められている理由についてお話します。
■ なぜ不動産業界がDXの本丸なのか
これまで、日本の不動産業界はデジタル化が遅れていると色々なところで言われてきました。経済産業研究所「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」には、日本の不動産業界はアメリカに比べ28.4%の生産性しかないというデータが載っています。「アメリカの生産性が高いだけだろう」と思いきや、ドイツと比べても24.0%という生産性になっています。諸外国に比べ、日本の不動産業界の生産性がここまで低いというのは悲しい話ですが、考え方を変えれば、それだけ成長の余地が残されていると見ることもできます。
そもそも不動産業は、DXと相性が良い産業です。なぜなら不動産業は、情報産業の側面が強いからです。賃貸にしろ売買にしろ、不動産業は顧客のニーズに合う「物件情報」を紹介するところから商売がスタートします。DXとは情報(データ)とデジタル技術を使って商売を変革することを指しますので、「不動産業と相性が良い」というわけです。
■ 今、不動産業界でDXが求められている理由
私は2021年という年が、不動産業界が大きくDXヘ進む節目の年になるのではないかと考えています。それには「高度技術の一般化」と「コロナによるニューノーマルの誕生」という2つの理由があります。
■ 高度技術の一般化
不動産業とDXの相性が良いにもかかわらず、これまで日本の不動産業界におけるデジタル化が進んでこなかった原因は何なのでしょうか。私は「テクノロジーが不動産業の難しさに追いついていなかったから」と考えています。
先ほどお伝えしたように、不動産業は情報産業の側面が強い業種です。そして、その情報の種類と量が、とてつもなく多いのです。たとえば自動車業界でいえば、市場に出回っている車種の数は限定されています。1台1台、走行距離や製造年月日が違うものの、「トヨタのプリウス」といえば、ある程度想像ができるわけです。しかし不動産業の場合、同じものがほとんどありません。1つひとつの建物が土地の形状に合わせて作られているので、それぞれ全く違うものになります。建物の形状が似ていたとしても、その不動産がどこにあるかで、価格も大きく異なります。「情報」という側面から見ると、不動産業の扱う情報はとても複雑なのです。
このように複雑な不動産情報を扱うためには、AI、ビッグデータ、クラウドサーバーなどの高度な技術・機能が必要です。近年これらの高度技術が一般化し、価格を抑えて利用できるようになったことにより、複雑な不動産情報を扱うサービスを作れるようになったのです。
■ コロナによるニューノーマルの誕生
2021年に不動産業界のDXが大きく進むもう一つの理由は、コロナによって顧客の行動様式がニューノーマルと呼ばれる形に変わり、一気にデジタル化したことです。
DXが進むためには、顧客とのやりとりの多くをデジタルを介して行う必要があります。デジタルを介して顧客とコミュニケーションを取ることで、業務全体を効率化しつつ、顧客データを獲得することができるようになります。
不動産取引において、これまでは顧客が対面を希望するところがありました。営業からしても「実際に会わないと誠意が伝わらないのではないか」「他社に負けてしまうのではないか」という心理的な圧迫がありました。しかしコロナによって「できるだけ対面接触を減らしたい」という顧客ニーズが生まれ、消費者側も事業者側も、対面営業を重んじる必要性がなくなりました。
またテレワークが進んだことで、消費者側も、事業者側も、Web会議システムを使ったコミュニケーションが一気に一般化したのです。
■ DXへの取組が今後の明暗を分ける
「高度技術の一般化」と「コロナによるニューノーマルの誕生」により、DXが進む土壌が出来上がりました。事実、大手企業を中心に、新しい取組がどんどん進められています。また中小企業でも導入が可能なサービスが多く出てきています。しかし、単純にサービス導入だけをしても、失敗するケースも散見されます。次回は「DXに失敗しないためのコツ」についてお話させていただきます。
株式会社Housmart
代表取締役
針山 昌幸
大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。