Vol.21 10年後に生き残る不動産会社とは


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

企業経営を行う上では“自社の強みをどのように保つか”という視点が欠かせません。競争環境が激化し、企業の平均寿命が短くなり続けている現代において、生き残る不動産会社とはどのような会社なのでしょうか。

■ 不動産仲介会社の競争優位性とは何か

戦略論の基本は、「自分たちの強い部分に敵の弱い部分をぶつけることだ」とよく言われます。戦略的に企業を運営するためには、まずは“自社の強み”を意識することが必要です。

業種によって、自社の強みは異なります。宝石店であれば原石を加工する技術やブランド、クリーニング店であれば洗濯を行う工場の効率性や店舗でのオペレーションが企業の強みとなるかもしれません。

それでは不動産仲介会社にとっての自社の強みとは何でしょうか。私は「人材こそが、不動産仲介会社にとっての競争優位性である」と考えます。不動産仲介業という仕事は、究極のコンサルティング業と言えます。顧客の要望は無理難題が多く、そのまま顧客の希望を叶える物件を紹介すると、あまりにも高い金額になってしまいます。その中で、顧客の優先順位を整理し、顧客に説明し、世の中にある物件の中から具体的な選択肢として提示し、意思決定してもらう。このように、制約条件が圧倒的に多い中で顧客に意思決定をしてもらう必要があるので、高いコンサルティング能力が求められるのです。

そして、そのコンサルティングを行うのは人間です。早い話、業界でトップクラスの優秀な人材が10人揃ったとしたら、その店舗の売上げはかなりのものが期待できるでしょう。

■ どんな会社に優秀な人材が集まるのか

しかし現実には、優秀な人材を採用するのは難しいものです。そしてもっと難しいのは、優秀な人材に働き続けてもらうことです。当たり前の話ですが、優秀な人材は、人材市場の中で引く手数多です。それゆえ「この環境は自分にとってベストな環境ではない」と判断すれば、優秀な人材はすぐに会社を去っていきます。

日本では人口減少と高齢化が進んでいます。とすれば、これからの人材獲得競争がより激しさを増すことは容易に想像できます。

それでは、どんな会社であれば優秀な人材が集まり、かつ長く働き続けてくれるのでしょうか。

最も大事な要素は“生産性が高い会社であること”です。優秀な人材は、優秀であるがゆえに、自分の市場価値を重要視します。そして人材の市場価値とは「どれだけの生産性をその人材が発揮できるか」ということです。

生産性を高めるためにはその人自身のスキルが上がることが必要です。ここで問題になるのは、実に世の中の多くの会社が、本当はシステム化することができ、人間がやらなくてもよい仕事を人間にやらせているのか、という事実です。

システム化することができ、人間がやらなくてもよい仕事は、コモディティ化(陳腐化)している仕事、と言えます。つまり、その仕事ができたとしても人材市場では評価されなくなっていく、ということです。例えば、昔は正確な計算ができることが非常に有用な能力でしたが、今ではExcelがあれば、どんな計算でもやってくれます。採用面接でも2ケタの暗算ができるか、質問されることはありません。

システム化することができ、人間がやらなくてもよい仕事を社員にやらせている会社は、会社としての生産性が低いだけでなく、社員の成長機会を奪っていると言えます。そして優秀な人材は「自分の生産性が伸びていない」と感じ、辞めていくのです。

システム化することができる仕事を社員にやらせている会社は、社員の成長機会を奪っている
システム化することができる仕事を社員にやらせている会社は、社員の成長機会を奪っている

■ DXを進めるためには経営者の強い意志が必要

システム化、つまりDXを進め「人間が行うべき仕事に集中できる環境」を作り出すためには、経営層の強い意志が必要になります。なぜかというと、社内から必ず反対派が出てくるからです。

DXは一回限りの取り組みでなく、常に続けていくものです。世の中の変化に対して、敏感に対応し続けていく取り組みです。しかしこれは人間の本能に反する行動です。たしかに優秀な人材は変化を好みますが、人間とは元来変化を嫌う生き物です。自分が知っているやり方のほうが安心できるからです。

経営者がDXを進めようとすると「そんなことをしたら人材が育たなくなる」「楽ばかりさせると成長しない」という声が一部から上がってきます。しかし、システム化することができ、人間がやらなくてもよい仕事を社員にやらせるということは、逆に社員の成長機会を奪う行為です。つまりこういう声は、人材が育たないことを危惧しているのではなく、「変化に対応したくない」という心の声なのです。

経営者はこういった声に負けず、DXを進めていく必要があります。そうすることで、不動産会社の競争優位性たる優秀な人材を手放さずに済むのです。

仕事に集中できる環境を作り出すためには、経営層の強い意志が必要
仕事に集中できる環境を作り出すためには、経営層の強い意志が必要
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針山 昌幸

株式会社Housmart
代表取締役

針山 昌幸

大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。