Vol.22 不動産業界全体のDXを阻むもの


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

不動産業界に大きな恩恵をもたらす可能性を秘めているDX(=デジタル・トランスフォーメーション)。しかし、現状はDXが広く浸透しているとはいえません。「不動産×DX」に関する連載最終回の今回は、不動産業界のDXを阻むものについてお話をします。

■ 日本はターニングポイントに来ている

2021年4月号から6回にわたり、不動産業界を取り巻くDXの状況について、お伝えしてきました。

DXがなぜ今の日本に必要なのかというと、それは「他社に生産性で負けないため」「他社に顧客体験で負けないため」という2点のためです。

大変悲しいことに、我々が毎日の生活で利用するIT関連サービスの多くは、海外企業が提供するものとなっています。いわゆる「GAFAM」(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)をはじめとする海外の超巨大企業は、デジタル技術に積極的に投資を行い、生産性を高めています。日本企業が海外企業に負けないためには、日本企業も同じようにデジタル技術に投資を行い、生産性を上げる必要があります。

またサービスの品質に止まらず、これからの時代はよい顧客体験が求められます。DXを推進する企業では、会社全体で顧客データ、商品データを連動させ、日次で顧客体験の実態を把握することができます。つまり顧客体験をよくするために行った施策の結果を毎日知ることができ、高速で最適化を行い続けることができるのです。

■ 不動産業界こそDXの恩恵を受けるべき業界である

経済産業研究所が公表する「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」によると、日本の不動産業界はアメリカに比べ28.4%の生産性しかないという衝撃の事実が掲載されています。

しかし本来、不動産業はDXと相性がいい産業なのです。不動産業は情報産業。賃貸であれ売買であれ、不動産業は「物件情報」を紹介するところから仕事が始まります。DXとは情報(データ)とデジタル技術を使って商売のあり方を変えることを指しますので、不動産業と相性がいいといえるのです。

DXを押し進めることで生産性が上がるのは先ほどお伝えしたとおりですが、不動産会社の場合、さらに競合優位性の確立にもつながります。

不動産会社にとっての競合優位性とは、まさに「人」。専門性に優れ、コミュニケーションをはじめとしたスキルが高い優秀な人材が多数在籍していることは、不動産会社の売上げ向上に直結します。

優秀な人材は、自分の価値を最大限発揮できる、働きやすい環境を重視します。逆に、自分でなくてもできる仕事ばかりやらされたり、単純作業が溢れている環境からは、早々に退職してしまいます。

優秀な人材を集め、不動産会社としての競争優位性を保ち続けるためにもDXを進め、システムでできることは自動化し、人にしかできない業務に専念できる環境を築くことが必要不可欠です。それは、結果として、モチベーションを上げ、1人1人の生産性向上をもたらします。

■ 不動産業界のDXを阻むもの

弊社が直近、不動産売買仲介会社向けに実施したアンケートによると「DXをほとんど理解していない」と答えた方が60%を超えました<円グラフ参照>。

「DX」についての理解度を教えてください

近年、AIやビッグデータ、クラウドなどの最新技術をコストを抑えて活用することが可能になったこと、またコロナによって顧客とのやりとりの多くをデジタルを通して行うようになったことは、DXを押し進める要因になり得ます。

それではなぜ、現在の不動産業界では、DXが浸透しきっていないのでしょうか。私はその原因を、「過剰なコンプライアンス」と「現代に合わせたルール作りができていない」からだと考えます。

コンプライアンスは、当然、企業に遵守が求められるものです。決して軽んじてよいものではありません。しかし本来の目的を忘れて、コンプライアンス遵守の仕方を過剰に考えてしまうケースがあります。アメリカでも10年ほど前に、コンプライアンスを過剰に遵守し、本来の目的を忘れたような運用がなされていました。結果として、誰のためにもならないような業務ステップが発生し、アメリカの生産性を押し下げることになってしまったのです。

また現代に合わせたルール作りも、大切な視点だといえます。不動産取引に関連する法律である宅建業法は、消費者保護法に先駆けること約50年、1952年に成立しました。それほどまでに大切な法律といえます。

しかし法律や業界規制、自主ルールというものは、その時々の技術水準や仕事の進め方、社会情勢を反映して作られるものです。なるべく多くの人が仕事や生活を行いやすくするために法律は定められますが、時間が経つにつれて、メリットよりもデメリットの方が大きくなることもあり得ます。

DXは経済産業省によれば「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。本当の意味でDXを押し進めるためには、仕事のあり方、仕事を取り巻くルールを変えていく必要があるのかもしれません。

不動産×DXのイメージ
次世代コミュニケーションPropoCloud

針山 昌幸

株式会社Housmart
代表取締役

針山 昌幸

大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。