Vol.23 個人情報保護法改正で不動産業が激変する?
2022年4月、個人情報保護法が改正され、施行されます。今回の個人情報保護法改正は他人ごとではなく、不動産業にマイナス面とプラス面の双方で大きな影響をもたらす可能性があります。今回は、個人情報保護法が改正されたポイントと共に、どのような影響があるのかをお伝えします。
■ ポイント① 事業者へ責務の追加が行われた
今回の改正法では、不動産事業者など個人情報を取り扱う事業者に対し、個人データが漏えいした際、報告義務および本人に対する通知義務が新設されました(26条1項)。一方で、漏洩した場合は必ず通知しないといけないわけではなく、本人に対する通知が困難、かつ本人の権利を守るために代替の措置が取られている場合は、報告義務および本人に対する通知義務が免除されるケースがあるなど、負担が軽減されている箇所もあります(26条2項ただし書き)。
■ ポイント② 罰則が強化された
個人情報保護法の改正法において、罰則が強化されました。個人情報保護法は主に、措置命令違反、報告義務違反、個人情報データベース等の不正流用に対して罰則を定めています。罰則は、個人に対するものと、法人に対するもので、内容が異なります。
措置命令に違反した法人に対しては、措置命令違反と個人情報データベース等の不正流用について、「1億円以下の罰金」まで金額が引き上げられました。これは改正以前の罰則内容と比べると、かなり罰が厳しくなったといえます。
同じく、措置命令に違反した個人に対しては、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」だったものが「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に引き上げられました。また報告義務違反に対しては「30万円以下の罰金」だったものが「50万円以下の罰金」に強化されました。
ちなみに、個人情報データベース等の不正流用に違反した個人に対する罰則に変更はなく、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。また報告義務に違反した法人への罰則は個人への罰則と同じ「50万円以下の罰金」となっています(173条、177条、179条)。
■ 個人情報の流入にも注意する必要がある
これまで個人情報の流出というと、悪意を持った第三者に個人情報をハッキングされたり、メールを間違えて送ってしまった、というようなケースが大半でした。しかし、今回の改正から読み取れるのは、個人情報はあくまで利用意図を説明した上で、本人から許諾を得た個人・法人のみが利用してよいものであり、流用してはいけない、ということです。
不動産業では転職や独立も一般的です。自分が開拓した顧客だからといって、所属する会社が変わった後に、個人情報を持ち続けることは許されません。「新しく入った会社で業績を上げるため」という気持ちが本人にあったとしても、会社として転職してきた新入社員がそのような行動をすることを絶対に許してはいけません。個人情報の流出だけでなく、流入に対しても注意する必要があるのです。
■ ポイント③ データの利活用が推奨されている
個人情報の改正前では、個人を特定できない形で個人情報を加工した場合であっても、加工する前の情報と同じように厳格な規制の対象となっていました。「日本では個人情報の範囲が広すぎて、情報の非対称性位が大きく、生産性が低いままである」とよく批判されています。
今回の改正では、データを活用してイノベーションを進めるという視点から、個人の名前を削除し、他の情報と照合しないと個人を特定できない形(仮名加工情報と呼ばれます)に個人情報を加工した場合、内部分析目的の利用に限定することを条件として、開示や利用停止請求への仮名加工情報取扱事業者の対応義務を緩和しました(2条9項・10項、41条、42条)。この緩和によって、顧客の分析など、データの利活用が期待されています。
■ 個人情報は今後も動向を追っていかなくてはいけないテーマ
個人情報は、ただ規制をすればよいというものではありません。デジタル化によって各業界の生産性が上がることは、消費者の便益に繋がります。一方で、個人のプライバシーを侵害することは、消費者の便益を損ないます。個人情報は、まさに便益の向上と低下の境界線に存在しており、最適解は時代と環境によって異なります。その動向は各業界に大きな影響を与えるため、動向を追い続けていく必要があるのです。
株式会社Housmart
代表取締役
針山 昌幸
大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。