労務相談
2023.02.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.15 マイカー利用時の業務災害(自動車事故)対応


Question

社員がマイカーを業務で利用している最中に追突事故(交差点で信号待ちの車に追突)を起こしました。弊社社員が加害者となりますが、マイカーでの事故の場合、使用者としてどのような責任が生じるのでしょうか。

Answer

会社がマイカーの業務利用を認めている場合には、運行支配や運行利益が認められることから、加害事故が起こったときには、使用者責任および運行供用者責任が発生します。なお、道路交通法の改正により、マイカーを業務利用する場合もアルコール検査・記録を行う必要があります。

加害事故と責任

社員が業務中に自動車事故を起こした場合には、社有車・私有車(以下「マイカー」)にかかわらず、企業としての使用者責任が問題になりますが、加害事故で問われる責任は、刑事・行政・民事の三つの責任となります。

刑事上の責任は、基本的に運転者個人が負うものであり、懲役・禁固・罰金等の刑罰となります。行政上の責任は、いわゆる行政処分のことであり、道路交通法違反に対する免許停止・取消し、違反金等となります。よって、企業にとって重要なのは、民事上の責任です。

民事上の責任

企業の民事損害賠償責任の根拠条文は、民法715条の「使用者責任」と自動車損害賠償保障法(以下「自賠責法」)3条の「運行供用者責任」になります。使用者責任は、交通事故以外でも他社の従業員等にケガをさせてしまった場合など広く用いられますが、運行供用者責任は、人身事故について被害者保護の観点から定められたものであり、従業員が業務中に起こした加害交通事故について、原則として企業が被害者に対する損害賠償責任を負うものとなります。

【民法第715条 (使用者等の責任)】
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
② 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
③ 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

【自動車損害賠償保障法第3条(運行供用者責任)】
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

事故後の現場対応

事故を起こした従業員が現場で取るべき行動は意外と多いため、日ごろから教育を行ったり、事故対応マニュアルを作成したりしておくことが重要です。事故後に最初に行うべきことは、負傷者の救護措置であり、これは道路交通法上の義務でもあります。次に現場の安全確保となります。事故車両が交通の妨げにならないよう、交差点の外へ移動させるなどの対応になります。昨今はドライブレコーダー搭載車両が増えましたが、移動の際には事故状況を撮影しておくことも対応の一つです。

次に、警察へ通報します。事故が軽微であったり先を急いでいたりすると、警察への通報を怠りがちですが、当日に事故状況の供述を取っておかなければ、後になって相手方から事実と異なる主張がなされ多額の賠償金を請求されることがあります。また、事故証明書が取れなくなり、任意保険が下りないといった事態にならないよう留意する必要があります。

続いて会社への連絡となりますが、会社へ連絡させることの最大の目的は、会社としての法的責任があるか否かを判断し、被害者への対応方法を検討・判断できるようにすることです。場合によっては、事故現場に駆けつけるなどの対応が求められますので、事故の大小にかかわらず会社連絡も必須となります。保険会社への連絡はその場でなくてもよいかもしれませんが、事故処理に対する適切なアドバイスをいただけることがあります。

【事故現場で取るべき措置】
手順①:負傷者の救護
手順②:現場の安全確保
手順③:警察への通報
手順④:会社・保険会社への連絡

労災保険と自賠責保険

業務中の事故については労災保険を適用しますが、自賠責保険も労災事故について利用できます。ただし、同じ損害項目について二重請求することは認められておらず、どちらか一方を選択するものとなります。

補償範囲や内容が異なりますが、両制度で重複するのは、①治療費、②休業補償(労災8割、自賠責10割)、③遺族補償、④葬儀費用の4項目となっています。

受取額が多くなるよう、いずれか一方を選択しますが、自賠責保険を優先するのが一般的です。ただし、自賠責保険には120万円という上限額が設定されているほか、過失割合によっては保険金額が減額されますので、今回のようにご自身が加害者である(過失割合が大きい)場合、また加害者である相手方が任意保険未加入であったり、対人補償が不十分であったりする場合には、①~④について労災保険を優先した方がよいでしょう。

本問への回答

会社がマイカーの業務利用を認めている場合には、運行支配や運行利益が認められることから、加害事故が起こった場合には使用者責任および運行供用者責任が発生します。マイカーとはいえ業務中の事故であるため、被害者への連絡や謝罪など、企業としての速やかな対応が求められます。

マイカーの業務利用にあたっては、任意保険の加入漏れの可能性があることから、運転免許証や車検証の確認のみならず、対人・対物保険の最低加入基準を設定し利用条件を満たしているかなど、定期的(原則毎年)に確認する必要があります。なお、道路交通法の改正により、マイカーを業務利用する場合もアルコール検査・記録の対象となりますので、ご注意ください。

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野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所パートナー社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在はパートナー社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。