労務相談
2023.06.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.19 専門業務型裁量労働制とは


Question

この度、一級建築士の資格を有している新卒者を採用したのですが、専門業務型裁量労働制を適用しても問題ないでしょうか。

Answer

専門業務型裁量労働制を適用するには、法令で定める業務(建築士)に該当するのはもちろんのこと、対象労働者がご自身で時間配分を決定したり、仕事の進め方や手段を決定したりすることが前提となります。よって、日常的に上司等の指示を仰ぎながら業務を遂行するような新卒者への裁量労働制の適用はふさわしくありません。

専門業務型裁量労働制と適用対象業務

専門業務型裁量労働制(以下「専門裁量労働」)とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、法令により定められた19業務の中から、対象となる業務を労使で定めるものであり、実際にその業務に就かせた場合は、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

専門裁量労働を導入できるのは、新商品・新技術の研究開発業務や情報処理システムの分析・設計業務など、法令で定められた19業務に限定されますが、不動産関係では、インテリアコーディーネーター、建築士、不動産鑑定士の業務への適用が考えられ、対象業務の詳細は資料1のとおりです。

【資料1:専門業務型裁量労働制対象業務詳細】

建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務
(インテリアコーディーネーターの業務)

「照明器具、家具等」には、照明器具、家具の他、建具、建装品(ブラインド、びょうぶ、額縁等)、じゅうたん、カーテン等繊維製品等が含まれるものであること。「配置に関する考案、表現又は助言の業務」とは、顧客の要望を踏まえたインテリアをイメージし、照明器具、家具等の選定又はその具体的な配置を考案した上で、顧客に対してインテリアに関する助言を行う業務、提案書を作成する業務、模型を作製する業務又は家具等の配置の際の立ち会いの業務をいうものであること。内装等の施工など建設業務、専ら図面や提案書等の清書を行う業務、専ら模型の作製等を行う業務、家具販売店等における一定の時間帯を設定して行う相談業務は含まれないものであること。

建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務

「建築士の業務」とは、法令に基づいて建築士の業務とされている業務をいうものであり、例えば、建築士法(昭和25年法律第202号)第3条から第3条の3までに規定する設計又は工事監理がこれに該当するものであること。例えば他の「建築士」の指示に基づいて専ら製図を行うなど補助的業務を行う者は含まれないものであること。

不動産鑑定士の業務

「不動産鑑定士の業務」とは、法令に基づいて不動産鑑定士の業務とされている業務をいうものであり、例えば、不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法律第152号)第2条第1項に規定する「土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利の経済価値を判定し、その結果を価格に表示する」業務が、これに該当するものであること。

導入のための手続き

専門裁量労働を導入するには、導入する事業場ごとに、一定の事項(資料2)について書面による労使協定において定めることが必要です。また、労使協定は、当該事業所を管轄する労働基準監督署に届け出る必要があり、その内容を労働者に周知しなければなりません。

【資料2:労使協定締結事項】

① 制度の対象とする業務
② 労働時間としてみなす時間
③ 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
④ 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
⑤ 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
⑥ 有効期間
⑦ ④及び⑤に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

なお現状では、労使協定の締結および届出が専門裁量労働の導入要件となっていますが、労働規則の改正により、2024年4月以降は適用労働者の個別同意が必要となります。

対象労働者の決定

前述のとおり、業務遂行の手段・方法、時間配分等について、大幅に労働者の裁量に委ねる必要があることから、対象業務に従事する労働者であっても、日常的に上司・先輩等の指示を受けながら業務を行う労働者(入社間もない者、経験が浅い者等)については労働者自身の裁量性が認められないため、本制度を適用すべきではありません。なお、業務遂行にあたっては「大幅に」労働者の裁量に委ねられていればよく、顧客との打合せ、社内会議、定期的な進捗確認など、一定の時間的制限や日程調整が発生したとしても、裁量労働制の趣旨に反するものではありません。

みなし労働時間数の決定

1日のみなし労働時間数について労使で決定しますが、所定労働時間勤務したものとみなした場合、実際に何時間勤務したとしても時間外労働は発生しないものとなります。一方、みなし時間数を1日10時間とした場合、1労働日につき2時間の時間外労働が発生するものとなり、20日の労働月であれば40時間、22日の労働月であれば44時間の時間外労働が必然的に発生しますので、36協定の上限時間数との関係に留意する必要があります。なお、みなし労働時間は1日当たりの労働時間を定めるものであり、1週20時間、1か月45時間など、1日以外の単位でみなし時間数を定めることはできません。

また、専門裁量労働は通常の労働日に限り適用できるものであるため休日はみなし労働を適用できず、休日勤務については、始業終業時刻を記録のうえ実労働時間数を把握するものとなります。

労働時間の状況の把握と健康管理措置

専門裁量労働適用者については、みなし労働という性質上、「労働時間の適正把握」の対象から除外されていますが、過重・長時間労働の防止や健康管理を目的とした「労働時間の状況の把握」については対象となりますので、タイムカードによる出退勤時刻、入退室時刻の記録、PCの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により労働者の労働時間を把握できる方法によって、日々の「労働時間の状況」を把握しなければなりません。

労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです。

運用上の留意点

裁量労働制は、労働者自身が一定の裁量をもって働くことができる自由度の高い制度であるため、遅刻や早退の事実が確認できたからといって直ちに不就労控除を行うことは当該制度の趣旨に反します。とはいえ、単独で業務を遂行できるわけではなく、また昼夜が逆転するような勝手な働き方をしてもよいことにはならないので、あらかじめ目安とする勤務時間帯を明示したり、原則として深夜勤務を禁止するなどの対応が必要です。なお、裁量労働適用者であっても、時間外・休日・深夜労働を行った場合には割増賃金を支給する必要がありますので、ご留意ください。

みなし労働時間数の決定にあたっては、業務量に見合ったものにしなければ、対象労働者の不満が募りトラブルに発展しますので、割増賃金の支払いが不要になるという理由だけで、使用者が一方的に所定労働時間勤務したものとみなしてしまうような制度の導入・運用は避けるべきです。


野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所代表社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。