労務相談
2023.10.13
不動産お役立ちQ&A

Vol.23 正社員登用する者への年次有給休暇の付与


Question

弊社では、契約社員については入社6カ月経過後に年次有給休暇を付与しますが、正社員については毎年4月1日に一斉に付与しています。来年4月に正社員登用を予定している、本年4月入社の契約社員がおりますが、この者についても来年4月1日に付与する必要があるのでしょうか。初年度については、入社6カ月経過後の10月1日に10日分を付与しています。

Answer

翌年度以降については、他の正社員同様、4月1日に付与する必要があります。なお、初年度の10日分については、付与日から2年が経過した時点で時効消滅となりますので、一時的に3年分の年次有給休暇を所持するものとなります。

年次有給休暇の発生要件

労働基準法39条では、『使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない』としています。よって、入社初年度は「6カ月以上の継続勤務」および「全労働日の8割以上の出勤率」の2つの要件を満たすことで権利が発生します。その後は「継続勤務しており、直近1年間の全労働日の8割以上の出勤率」を満たすことで権利が発生します。翌年度以降の付与日数は図表1(基本)のとおりです。

また、パートタイマーやアルバイトなど、週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週所定労働日数が4日以下あるいは年間の所定労働日数が216日以下の者については、図表1(短時間従業員の有給休暇の付与日数)に当てはめて付与します。なお、週の所定労働日数が定まっていない者については、年次有給休暇の付与日において定められている週の所定労働日数または前年度の実勤務日数により判断します。よって、前年度の実勤務日数が100日で付与日時点の継続勤務年数が3.5年である場合、5日を付与するものとなります(図表1)。

図表1 有給休暇の付与日数

有給休暇の付与日数
有給休暇の付与日数

出勤率要件

出勤率が8割以上か否かを算定する場合、「業務上の負傷または疾病により休業した期間」「産前産後休業期間」「育児・介護休業法に基づく育児・介護休業期間」「年次有給休暇を取得した日」の4つについては、出勤したものとして取り扱う必要がありますが、これ以外の法定外休暇(慶弔休暇等)、生理休暇、看護・介護休暇、私傷病休職期間等について、出勤扱いとするか欠勤扱いとするかは会社の定めるところとなります。

また、出勤率が8割に達しなかったときの翌年度は、年次有給休暇を与えなくても差し支えありませんが、年次有給休暇を与えなかった年度の出勤率が8割以上となった場合、その翌年度には、継続勤務年数に応じた日数の年次有給休暇を与えなければなりません。なお、労働基準法上は8割以上の出勤率の要件を設けていますが、就業規則において出勤率要件を課していない企業においては、前年度の出勤率にかかわらず、付与日到来とともに新たな年次有給休暇が発生しますので、ご留意ください。

斉一的取扱い(一斉付与)と分割付与

法定どおりに付与した場合、入社日・個人ごとに付与日が異なるものとなり管理が複雑となるため、例外的に「斉一的取扱い(一律の付与日を定めて付与する取扱い)」や「分割付与(一括付与するのではなく、付与日数の一部を法定の付与日以前に付与する取扱い)」が認められています。

斉一的取扱いの例として、4月1日に入社した者に入社時に10日付与し、1年後の翌年4月1日に11日付与するような場合が挙げられます。また、分割付与の例として、4月1日に入社した者に入社時に5日付与し、入社6カ月経過後の10月1日に残りの5日を付与、翌年度以降の付与日は4月1日とするという取扱いが考えられますが、いずれも法定の付与条件を上回る取扱いとなります。

勤続年数の通算

年次有給休暇の発生要件の1つに「継続勤務」がありますが、行政解釈では「労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう」とされており、長期欠勤や休業・休職期間があっても、労働契約が存続している場合は継続勤務とされます。また、ご質問のように契約社員から正社員に登用する、定年退職後に嘱託社員として再雇用するなど、雇用区分が変更する場合でも、客観的に労働契約が継続していると認められるものは勤務年数を通算します。例えば、定年再雇用により週5日勤務から週3日勤務となった場合、定年前は勤続年数が6.5年以上で20日付与されていても、再雇用後は週3日勤務の6.5年以上ということで、11日の付与となります。なお、すでに付与されている未取得の年次有給休暇日数も引き継がれ、雇用契約変更時に付与日数をリセットすることはできません。

本問への回答

翌年4月1日の正社員登用時点に正社員就業規則の斉一的取扱いが適用されるので、年次有給休暇の権利が発生します。初回付与日から6カ月しか経過していませんが、翌年4月1日に2回目の年次有給休暇(11日以上)を付与する必要があります。

なお、年次有給休暇は付与日から2年間で時効となるため、付与日から1年間で使い切れなかった日数については翌年に繰り越しとなります。本件のように、初回(2023年10月1日付与)、2回目(2024年4月1日付与)、3回目(2025年4月1日付与)となる場合、初回と3回目で重複期間が発生し、一定期間は3年分の年次有給休暇を所持することになります。3回目の年次有給休暇を付与した時点で初回に付与した年次有給休暇を消滅させることはできない点、ご留意ください(図表2)。

図表2 繰り越しと時効の関係

繰り越しと時効の関係

野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所代表社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。